魔王を討伐したので年上メイドと辺境でスローライフします!

文字の大きさ
19 / 30

来客

しおりを挟む
 僕のスローライフもそろそろ一週間になりそうだった。大半が食って寝て、時々アイリさんと稽古をしているくらいで。急患の子供がでた以外は静かなものだった。

 トマトの次の作物を考えたり、ちょっと遠出して海釣りなんかを楽しんでみようとか、まだまだやりたいことがいっぱいあって、僕のスローライフは終わりそうになかった。でも世界は僕達を放っておくほど、平和ではなかった。まだこの時は予兆さえ感じなかったけど。

 玄関に据え付けられたベルが大きな音で鳴った。そんな大きく鳴らさなくたって聞こえるのにな、と思いながら僕は玄関へ向かった。

 玄関に着くと、アイリさんが深々と腰を折り来客を迎えている。玄関のドアが邪魔でその人物の姿は見えなかったけど、かなり身分の高い人なんだろうとアイリさんの様子から推測した。

「やっほ、ユウキ、元気だった?」
 今まで散々揉んだ大きな乳房、大きなお尻にくびれたウエスト、黄金を溶かして作ったかのような見事なブロンドの髪。力強い碧眼がくりくりとした美しい容貌、十一年も一緒にいたんだ忘れるはずもない。大聖女ルシアだった。

「なんだ、ルシアか……急に来たから誰かと思ったよ」
「何よ。あたしがせっかく来てあげたっていうのに、そっけない態度ね。あ、メイドさん紅茶ある?」
「ございます。今すぐ準備いたします」
 そう言うと音もたてずすっとアイリさんはダイニングへ向かった。

「あのメイドさん誰? あんたの護衛役も兼ねてるわけね。魔力を隠しているけどあたしには解るわ。相当の手練れね」
「アイリーン・ド・ブラックさんだよ。暗黒魔法使いの名家の」
「ああ……彼女が例の……お兄さんは知ってたけど、知ってる? 彼女、軍隊ではかなりの出世頭だったのよ」
「うん……何となくそうだと思ってた。アイリさんかなり強そうだもんね」
 僕はうんうんと頷いた。

「身体も凄い鍛えてあって、引き締まった良い身体だったよ」
「あんた……もう手を付けたの? 見境なしね」
 ルシアが軽蔑した目で僕を見る。ここまで僕に遠慮なく悪態をつくのは彼女くらいだ。僕はちょっとだけビビってしまった。
「えっと……そっちの世話もメイドの仕事だとか言うし、つい……」
「あんな女と子供を作ったら最悪の破壊兵器が生まれそうよね」
 今度は呆れ顔でため息をつく。

「でも、意外だったんだよ。彼女……処女だったんだ」
「まあ……彼女は忌み嫌われてるしね」
「むっ……」
 ちょっと聞捨てならない言葉だと思った。あんな性格の良い女性が嫌われるはずない。周りの皆だって姫さま姫さまっていって慕ってるのに。
「複雑な事情があるのよ……っともうこの話は終わり、機会があったら続き教えてあげる」

 見るとアイリさんがティーセットを持って僕らを呼ぶところだった。

 ダイニングのテーブルに着く、僕とアイリさんは隣り合って、向かいにルシアが座った。
「あなた……もうユウキの奥さんにでもなったつもり?」
滅相めっそうもございません。ユウキさまの伴侶となる方は、ユウキさまの寵愛を受けられる方のみです。例えば大聖女さまのような」

 バチバチっと二人の間に火花が散ったかのように感じた。ルシアが僕の子種では長女を産めないと知っていて、ワザと煽ってるんだ。
「下の世話をしているだけじゃ、寵愛を受けていないって自覚があるあたりは、まあ、自重できてはいるわね」
 アイリさんから負のオーラが出てそうだ。怖くて見られない。

 僕には滅多に見せない、嫌らしい笑顔を作ってるルシア、本気で嫉妬してるのかな? でもそう思うと少しにやけてしまう僕はクズなのかもしれない。

「あら、このお茶……ずいぶん美味しいじゃない」
 カップに少し口をつけたルシアが目を丸くして驚いた。

「茶葉が最高級なのは当然としても、淹れ方や蒸らしも完璧じゃない」
「おほめに預かり光栄です」
 アイリさんがペコリと頭を下げる。

「このクッキーもめっちゃウマ。これ蜂蜜? 砂糖だけじゃこうはならないわよね」
「恐れ入ります。フロア村の蜂蜜を使ったクッキーです」
 そんなに美味しいのかと思って、僕も一枚食べてみると、口の中に幸せが広がった。小麦粉と蜂蜜が合わさり焼けた香ばしい香り、サクサクとした食感で、多分バターも使っているのだろうが全然しつこくない。さらりと口の中で蕩ける。

「どうやらあなた、悪い人じゃなさそうね。ユウキにいつもこんな心のこもった食べ物を与えてるの?」
「味だけでなく、健康面にも配慮いたしております。ユウキさま付のメイドとして当然のことですが」

「意外……あなたとは気が合いそうね」
 そう言ってルシアは手を差し出した。一瞬アイリさんが固まる。そして数秒遅れて気が付いてルシアの手を取った。
 二人が握手しているさまを僕はぽかんと見つめた。

「お互い有名人だから、知ってはいると思うけど、あたしはルシア、大聖女ルシアよ」
「もちろん存じ上げております。大聖女さま、わたくしはアイリーン・ド・ブラックです。暗黒魔法使いの家系ですが、現在はユウキさまのメイドをいたしております」
「大聖女さまって呼ばないで、ルシアでいいわよ」
「はい、ルシアさま。わたくしのことはアイリとお呼び下さい」
 アイリさんのボブカットの髪が少し揺れ、嬉しそうに目を細めてルシアを見ていた。アイリさんの方がだいぶ年上だけど、ルシアは元々太々しいからそれを気にした様子はなかった。

「こいつ、スケベで困ったでしょ?」
「性欲旺盛なのは元気な証で、わたくしとしては喜ばしい事なのですが、その……女性器が緩くなってしまって、ケアをしてもなかなか戻らず……」
「こいつアイリちゃんのアソコもチ〇ポ負けさせたんだ。最悪! チ〇ポ負けってヒールでも治らないのよね。こいつと付き合って唯一後悔したのがまさにそれよ」
 二人してじとっと僕を睨む。アイリさんは普段僕を責めるようなことは言わないのに、ルシアに触発されてるのか、地が出てる。

「ちょっ! 淑女がアフターヌーンティーで言う話題じゃないでしょ!」
「あんたのに合わせた形になって、これから嫁に行くあたしのこと考えたことあるの? 絶対遊んでたって思われるわよ」
「事実、僕と遊んでたじゃないか、アソコが腫れたらヒールで治して、朝まで僕を寝かせなかったこともあったじゃないか」
「死刑‼」
 ルシアがそう言うと、テーブルの上の僕の右手人差し指を躊躇なく折った。

「ぎゃー! 痛い痛い」
 僕の口から情けない悲鳴が洩れる。アイリさんも目を丸くして驚く。

 ルシアは魔法使いなんだけど、信じられないくらいの怪力なのだ。僕もけっこう鍛えている自信はあるけど、そんな僕の指を小枝を折るようにへし曲げるのだからたまったものではない。

「反省した?」
「痛い痛い! 反省しましたっ‼」
「はい、ヒール」
 ルシアの回復魔法で僕の指はたちまち元通りになる。

「ふー、ふー」
「酷いんだよ。アイリさん助けて」
「は……はぁ」
 目が丸いままのアイリさんが「なんとなくお二人の関係は察しました」と言った。

「つまりユウキさまは尻に敷かれているのですね」
「そーゆーこと」
 ルシアはなぜか凄く得意満面な顔でふんぞり返った。

「それで、今夜なんだけど」
「なんだ……お茶飲んだら帰るんじゃないんだ」
「右ストレート」
「へぶしっ!」

 ルシアの右拳が僕の顔面に突き刺さる。
「知ってた? 原初の殺人の凶器は右拳だったって言われているのよ」
「鼻血が出た、治して」
「はい、ヒール」
「ああ……お召し物が汚れてしまいます」
 アイリさんが素早くナプキンで僕の鼻血を拭って、事なきを得た。

「もう、ルシアさま。ユウキさまをいじめるのはそのくらいにして下さい」
「こいつ、このくらいじゃ全然こりないわよ」
「それでもですっ!」
 アイリさんがちょっとむっとしながら言った。

「ふ~ん……保護欲たっぷりのお姉さんに鞍替えしたようね。アイリちゃんに免じてまあ許してあげるけど」
 なんだかニヤニヤした目でこっちを見ているな。

「それで、今夜何をするのですか?」
 アイリさんが仕切り直すと、ルシアが不敵な笑みから急に真面目な顔になった。

「この村の近くの廃修道院にアンデットリッチが出たのは知ってる?」
「いや、初耳だ。冒険者ギルドには全然立ち寄ってなかったし、ほんの少し前まで正体を隠していたから」

 アンデットリッチはかなり高位の不死の魔物として知られる。死霊術ネクロマンシーを極め永遠の命を得た元々は魔術師だ。

「そいつをちょっくら、討伐したいのよ」
 ドヤ顔でルシアが言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。 しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった! 辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。 飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。 「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!? 元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!

無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――勇者パーティーの【鑑定士】リアムは、戦闘能力の低さを理由に、仲間と婚約者から無一文で追放された。全てを失い、流れ着いたのは寂れた辺境の村。そこで彼は自らのスキルの真価に気づく。物の情報を見るだけの【鑑定】は、実は万物の情報を書き換える神のスキル【神の万年筆】だったのだ! 「ただの石」を「最高品質のパン」に、「痩せた土地」を「豊穣な大地」に。奇跡の力で村を豊かにし、心優しい少女リーシャとの絆を育むリアム。やがて彼の村は一つの国家として世界に名を轟かせる。一方、リアムを失った勇者パーティーは転落の一途をたどっていた。今さら戻ってこいと泣きついても、もう遅い! 無能と蔑まれた青年が、世界を創り変える伝説の王となる、痛快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

処理中です...