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ほっかい豆いんこ(いんこ小噺集)
大丈夫 だいじょーび
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日が暮れて、あたりは闇に包まれた。籠の中のインコはうとうとし始めた。一眠りしよう……、毎日繰り返す日常だ。
今日、部屋が明るくなるのはいつかな? 最近、その時間が遅くなってるような感じがするのは気のせいなのかな?
大好きな飼い主が遊んでくれる時間も、なんだか短い気がするな。ちょっとムカッとする事態だ、とインコは思った。でも今日は、いっぱい遊んでくれるかもしれないし。寂しくなりそうな気持ちを振り払って、インコは丸くなって目を閉じた。
寂しかったといえば。トロトロまどろんでいると、いろんなことをぼんやり思い出すものだ。
この家に来る前、たくさんの仲間達とぎゅうぎゅう、おしくらまんじゅうしながら暮らしていたことが あったっけ。
その仲間がだんだん少なくなって、おしくらまんじゅうで暖かかったのが出来なくなって、ちょっと寒くてさ……。
ブルルン。思い出してインコはからだを一度大きく震わせた。ちょっと羽毛を膨らませるとからだは、すぐにポカポカしてきて、インコはまたまどろみ始めた。
おしくらまんじゅうの仲間がいなくなって、寂しくて落ち込んでいた時、飼い主と出会ったのだったな。
今思うと申し訳ないと思うけどさ、慣れ親しんだあの場所からここに連れてこられた時は、飼い主の顔は恐ろしい怪物に見えたよなぁ。
ブルブル震えながら、じろりと恨みがましく睨んでやったら怪物……じゃなくて飼い主が
「大丈夫だよ」
って言ったんだ。なんだかとっても安心して、飼い主が怪物でなくなったんだよ。
大丈夫……そうそう、あの時も飼い主はそう言ったっけ。餌が食べられなくなってからだに力が入らなくなったあの時。籠の隅っこで震えながらうずくまっていたら、飼い主が「あっ!」って叫んで、それからしばらくしたら籠の中がポカポカと暖かくなってきた。
「もう大丈夫だよ。」
飼い主の優しい声が聞こえて、不思議なことにからだが楽になっていったんだよな。
突然大きな音がしてびっくりしてパニクった時も、ゴミ箱に落っこちて出られなくなった時も、餌箱ひっくり返して食べる餌がなくなりかけて腹ぺこになった時も。
困っていると飼い主がやってきて「大丈夫だよ」と言うとたちどころに問題が解決したっけな。
飼い主の帰りを待ちながらインコは、うつらうつら思い出という夢の中をうろついていた。
部屋の灯りが点けたのは、随分夜の遅い時間だった。上着も脱がずへたへたと座り込んだまま動けなかった。疲れて……疲れすぎて……。
また明日がんばる力をどこから引っ張り出せばいいのだろう?
その時、背後から
「だいじょーび だいじょーび」
振り返ると、遊んでくれるのを待ちわびたインコが投げやりに
「だいじょーびっ」
を繰り返していた。おしゃべりするとは思わなかった!それにしても、これって自分の声の真似……なのか?
そう思うそばから、
「だいじょーび だいじょーび」
いやはや、大丈夫の大安売りされてもな、苦笑いしながらインコを覗き込むとやっと気がついたのか!と柵に飛び
ついてきて、そして
「だい・じょー・びぃ~~~~っ!!(怒)」
と絶叫した語尾は、何故か怒りに変化してしまっている。
「いや、ごめんごめん。遊びたかったんだね」
あわてて鳥かごからインコを出してやると、インコは待ってましたとばかり部屋の中を旋廻し始めた。
調子にのって「だいじょーび だいじょーびぃ」を繰り返すインコを眺めているうちに、自分の「大丈夫」といんこの「だいじょーび」の印象が、随分違うのに気がついた。
明日がんばる力を振り絞ろうとしてたけど。ちょっと肩に力が入りすぎていたのかもしれない。大丈夫じゃなくて
だいじょーび……そうだね、明日はだいじょーび。
肩の力がすうっと抜けていくのがわかった。
部屋を一回り飛んで満足して、インコは飼い主の肩に舞い降りた。飼い主の顔を覗き込むと優しい目がそこにあった。やっぱり「大丈夫」ってのはすごい効き目があるのだな、とインコは確信した。そしてもう1回叫んだ。
「だい・じょー・びっ!」
今日、部屋が明るくなるのはいつかな? 最近、その時間が遅くなってるような感じがするのは気のせいなのかな?
大好きな飼い主が遊んでくれる時間も、なんだか短い気がするな。ちょっとムカッとする事態だ、とインコは思った。でも今日は、いっぱい遊んでくれるかもしれないし。寂しくなりそうな気持ちを振り払って、インコは丸くなって目を閉じた。
寂しかったといえば。トロトロまどろんでいると、いろんなことをぼんやり思い出すものだ。
この家に来る前、たくさんの仲間達とぎゅうぎゅう、おしくらまんじゅうしながら暮らしていたことが あったっけ。
その仲間がだんだん少なくなって、おしくらまんじゅうで暖かかったのが出来なくなって、ちょっと寒くてさ……。
ブルルン。思い出してインコはからだを一度大きく震わせた。ちょっと羽毛を膨らませるとからだは、すぐにポカポカしてきて、インコはまたまどろみ始めた。
おしくらまんじゅうの仲間がいなくなって、寂しくて落ち込んでいた時、飼い主と出会ったのだったな。
今思うと申し訳ないと思うけどさ、慣れ親しんだあの場所からここに連れてこられた時は、飼い主の顔は恐ろしい怪物に見えたよなぁ。
ブルブル震えながら、じろりと恨みがましく睨んでやったら怪物……じゃなくて飼い主が
「大丈夫だよ」
って言ったんだ。なんだかとっても安心して、飼い主が怪物でなくなったんだよ。
大丈夫……そうそう、あの時も飼い主はそう言ったっけ。餌が食べられなくなってからだに力が入らなくなったあの時。籠の隅っこで震えながらうずくまっていたら、飼い主が「あっ!」って叫んで、それからしばらくしたら籠の中がポカポカと暖かくなってきた。
「もう大丈夫だよ。」
飼い主の優しい声が聞こえて、不思議なことにからだが楽になっていったんだよな。
突然大きな音がしてびっくりしてパニクった時も、ゴミ箱に落っこちて出られなくなった時も、餌箱ひっくり返して食べる餌がなくなりかけて腹ぺこになった時も。
困っていると飼い主がやってきて「大丈夫だよ」と言うとたちどころに問題が解決したっけな。
飼い主の帰りを待ちながらインコは、うつらうつら思い出という夢の中をうろついていた。
部屋の灯りが点けたのは、随分夜の遅い時間だった。上着も脱がずへたへたと座り込んだまま動けなかった。疲れて……疲れすぎて……。
また明日がんばる力をどこから引っ張り出せばいいのだろう?
その時、背後から
「だいじょーび だいじょーび」
振り返ると、遊んでくれるのを待ちわびたインコが投げやりに
「だいじょーびっ」
を繰り返していた。おしゃべりするとは思わなかった!それにしても、これって自分の声の真似……なのか?
そう思うそばから、
「だいじょーび だいじょーび」
いやはや、大丈夫の大安売りされてもな、苦笑いしながらインコを覗き込むとやっと気がついたのか!と柵に飛び
ついてきて、そして
「だい・じょー・びぃ~~~~っ!!(怒)」
と絶叫した語尾は、何故か怒りに変化してしまっている。
「いや、ごめんごめん。遊びたかったんだね」
あわてて鳥かごからインコを出してやると、インコは待ってましたとばかり部屋の中を旋廻し始めた。
調子にのって「だいじょーび だいじょーびぃ」を繰り返すインコを眺めているうちに、自分の「大丈夫」といんこの「だいじょーび」の印象が、随分違うのに気がついた。
明日がんばる力を振り絞ろうとしてたけど。ちょっと肩に力が入りすぎていたのかもしれない。大丈夫じゃなくて
だいじょーび……そうだね、明日はだいじょーび。
肩の力がすうっと抜けていくのがわかった。
部屋を一回り飛んで満足して、インコは飼い主の肩に舞い降りた。飼い主の顔を覗き込むと優しい目がそこにあった。やっぱり「大丈夫」ってのはすごい効き目があるのだな、とインコは確信した。そしてもう1回叫んだ。
「だい・じょー・びっ!」
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