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悩ましいボイス⑦
しおりを挟むでも、いつまでも、このままにはしておけない。僕は静かに、ルナさんに歩み寄った。ひざまずいて優しく、彼女の上体を起こす。
血の上った肌がきれいなピンク色をしている。それを覆い隠すように、彼女の身体をスプリングコートで包み込む。
身体に力が入らないのか、ルナさんは人形のようにされるがままだ。
「大丈夫ですか? すいません、刺激が強すぎましたか?」
髪の毛をなでながら、そう訊ねると、ルナさんは僕にしがみついてきた。潤んだ瞳が雄弁に訴えかけてくる。
「“恥ずかしかったけど、とても気持ちよかった”そう言いたいんですか?」
僕が言うと、コクンと頷いた。
ルナさんが無言で僕のバナナに手を伸ばしてくる。
「シュウくん、お願い……、お願いだから……」
そのまま動かずにいたら、ルナさんはいきなりジッパーを下げようとした。
「ルナさん、ここではダメですよ」彼女の手に手を重ね、やんわりと押しとどめる。
でも、彼女の性欲は止まらない。仕方なく、唇を交わす。舌先で彼女を翻弄しながら、頭の中で考えを巡らせる。
予定では、コールボーイの取材として話をするだけ、ということだったので、ホテルの手配はしていない。だが、なりゆきでこうなる可能性はゼロではないのだから、キャンセル料覚悟で予約をとっておくべきだったかもしれない。
金曜の六本木の夜だ。スマホで確認しなくても、飛込みでホテルを利用するのは難しい。
渋谷や新宿まで足を伸ばすか? それとも、思い切って暗がりで事に及ぶか?
警察に見つかれば眼も当てられないが、以前、六本木の街中で行為に及んだ経験(『裸のプリンス』「淫らな果実」参照)はある。
ポイントは大胆さとスピードだ。近場の候補地を思い浮かべる。迷ったのは一瞬だった。
僕はルナさんを抱き支えながら、ゆっくり歩き出した。小さな広場を出て、目の前の通りを谷町JCT(ジャンクション)方面に進む。
繁華街から少し離れただけなのに、辺りはシンと静まり返っていた。
テナントビルやピザ屋の前を通り過ぎると、ふと思いついた場所があった。少し先にあるセルフサービスの駐車場である。そこまで行くと、思った通り、数台の乗用車が停まっているだけで、ひと気はまったくなかった。
奥まった辺りにある街灯は、電球が切れている。そのため、薄暗いのも好都合だ。こっそりプレイをするには、もってこいのスペースである。
「ここが本当の穴場かもしれません」そう耳打ちをして、ルナさんに奥の方へと誘う。
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