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濡れるレッスン①
しおりを挟むコールボーイはAV男優とは違う。
似ていると思われるかもしれないが、全然ちがう。
他人の視線にさらされながら、セックスをすることは、まずない。屋外セックスをしたことはあるけれど、あれは「見られるかも」というスリルを味わうだけだ。
他人に見られることで興奮する性癖は、僕にはない。仕事においては、二人きりの逢瀬が基本だ。
だけど、厳密な決まりごとではない。事務所(ココナさん)の了承を得れば、3Pだって4Pだって可能だ。
もちろん未経験なので、少なからず不安はある。例えば、他人の視線を意識して、集中力が途切れてしまったり、自分のペースを維持できなかったり、という懸念だ。
まぁ、そんなことは思い悩んでも仕方がない。百人の女性がいれば、百通りのタイプと性的嗜好、それにふさわしいセックスがある。
お客様のタイプと性的嗜好に合わせて、アドリブを交えながらアジャストするのがベストだ。
平日の昼下がり、東京メトロ・北千住駅で待ち合わせた衣湖さんは、その観点ではノーマルに見えた。ココナさんから普通のOLさんと聞かされている。
「はじめまして、『ナイトジャック』のシュウです。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。シュウくんは写真よりイケメンね」そう言って、にっこり笑う。
駅の改札口で落ち合った僕たちは、肩を並べて駅の西口に向かう。
衣湖さんは、とてもキュートな女性だった。小柄で童顔のせいか、アラサーには全然見えない。笑顔の素敵な年上の女性である。
ただ、彼女が逢瀬に指定した場所は、ビジネスホテルでもラブホテルでもなく、ごく普通のアパートだった。聞けば、彼女の男友達の部屋であり、留守中に使用する許可を得ているという。
もちろん、事務所の了承も得た。お客さんのお宅にうかがうことは初めてじゃないが、通常はマンションか一軒屋だ。賃貸アパート、というのは初めてだった。
僕たちはロータリーでタクシーに乗り込んだ。
十分もかからずに、目的地に到着した。真っ赤な三角屋根が印象的な建物だ。
荒川近くの住宅密集地に、その古びた木造アパートは建っていた。僕が産まれるずっと前から、ここにあったと思われる。もしかしたら、高度成長期あたりかもしれない。
僕たちは身を寄せ合って、スチール製の外階段を上る。建物全体がシンと静まり返っていた。
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