裸のプリンスⅡ【R18】

坂本 光陽

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愛の代理人⑱(完)

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「シュウくん、待ちたまえっ」

 振り向くと、宮国さんがシャツを脱ぎ始めていた。

「僕が裸になるから、今すぐ美紗緒から離れてくれ」

 どうやら、やっと彼の殻が破れたらしい。僕は内心、ホッと胸をなでおろす。元々、女性の偽ザクロを貫く趣味はない。僕は身体を起こし、新しいバスタオルを美紗緒さんにかける。宮国さんはあっという間に全裸になった。

「あなた……」

 気づいたのは、美紗緒さんの方が早かった。御主人のバナナが前を向いていた。床と平行の角度まで起き上がっている。

「美紗緒、久し振りに下半身が熱いんだ」宮国さんは泣き笑いの表情で言った。

 美紗緒さんが這い進み、御主人のバナナに手を添える。潤んだ眼で愛する伴侶を見上げた。宮国さんは喉の奥から言葉を搾り出す。

「あまり期待しないでくれ。ニーチェも言っている。“希望は最悪の災いだ”と」

 すかさず、合いの手を入れる。

「確か、“苦しみを長引かせるのだから”と続くんでしたね。宮国さん、くどいようですが、女性の愛し方は一通りではありません。手や指、唇や舌、愛情がともなっていれば、それこそどこを使ってもいいんです」

 ルールや禁じ手は、二人で決めればいいのだ。

「美紗緒さん、わからず屋の御主人に教えてあげてください」

 もちろん、オーラルな愛し方についてだ。

 美紗緒さんは舌を出して、バナナの先端に浮いた滴を舐めとった。宮国さんは低く呻いて、前かがみになる。愛妻の頭を掴んで、苦悶の表情を浮かべる。

 堅物の御夫婦にとって、初めての大胆な行為なのだろう。真っ昼間、それも日当たりのよい、非日常の空間で。久し振りのセックスには最適なシチュエーションだろう。

 僕は二人の邪魔をしないように、静かに身づくろいをすませた。行為に夢中になっている御夫婦を残し、スウィートルームを後にする。

 心理的な駆け引きをしたせいで、頭の芯が痺れるような疲労感を覚えた。誇らしい充実感、達成感とともに。

 後日、美紗緒さんから再び、丁重なお礼状を受け取った。随分と失礼な仕打ちをしたのに、宮国さんも深く感謝しているという。一介のコールボーイには過分な内容だ。

 美しい文字を眺めながら、彼女の乱れる姿を思い浮かべてみた。ベッドに組み敷かれ、逞しいバナナで潤んだザクロを貫かれている。ただ、相手を務めているのは僕ではなく、御主人だ。

 あれから無事セックスできたのかどうか、文面からはうかがえない。でも、もし、できなかったとしても、それは大した問題ではない。

 時間をかけて、二人で解決すればいいだけの話だ。御夫婦の関係と未来に、もうコールボーイは必要ない。


              『裸のプリンスⅡ』・了


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