49 / 73
やわらかな唇④
しおりを挟む
「元同僚かもしれない、という話です。人違いならいいんだけど、とりあえずは……」
真由莉さんは右の掌を僕に向けて、「皆まで言うな」のポーズをとる。
「うん、とりあえず、今日は解放してあげる。残念だけど、また時間のある時にゆっくり楽しみましょう」
「本当にすいません。この埋め合わせは必ずします」
僕は身支度を済ませると、何度も頭を下げて、真由莉さんの部屋を後にした。今日がオフなのは幸いだった。マンションの玄関を出たところで、僕はココナさんに連絡を入れる。
「そう、こっちには何も連絡は入っていないけど、シュウに直接かけてきたということは、向こうの話に嘘はなさそうね」と、ココナさんは意外なことを言う。
「嘘というと、コールボーイの僕を誘き出して、いきなり風営法違反で逮捕する、とかですか?」
そんな可能性は考えてもいなかった。コールボーイ一人を検挙するのに、こんなに手間暇をかけていては割に合わないだろう。
「僕が麻布署に出向くのに、ココナさんは反対ですか?」
「あまり、お勧めしないな。警察の汚いやり口には、嫌というほど苦しめられてきたから、昔から良い印象が全然ないのよ」
「良い印象を持ってないのは、僕も同じですが……」
ここで思い出したのは、少し前に、僕の指名した山本さんのことだ。彼女は警察官でありながら、僕だけでなくカズとも関係をもっている。山本さんというのは仮名で、本名は確かサキだった。
彼女が警察官であることを見抜けなかったことで、僕はココナさんの責任を問うたけど、そのことを蒸し返すつもりはない。ただ、山本さんは交通課で、宮下さんは生活安全課だけど、同じ麻布署勤務だ。
「例の山本さんは、今回の保険になりませんか?」
つまり、僕を逮捕するような事態になれば、署員の男遊びを公にするぞ、というわけだ。
「幹部クラスならともかく、一女性警察官では荷が重いでしょうね」
ココナさんは一笑に付した。確かにそうかもしれない。一個人が警察組織に立ち向かうのは、確かに〈蟷螂の斧〉のようなものだろう。
だから、僕は考え方を変えてみる。個人の自由意志は尊重されてしかるべきだ。
「ココナさん、幸か不幸か、今日の僕はオフです。休日の過ごし方は、僕の自由にさせてもらえませんか?」
「うん、結局はそういうことになるね。君は個人事業者であって、私はマネージメントをしているだけにすぎない。でも、わかってくれないかな。少し嫌な予感がするんだよ」
真由莉さんは右の掌を僕に向けて、「皆まで言うな」のポーズをとる。
「うん、とりあえず、今日は解放してあげる。残念だけど、また時間のある時にゆっくり楽しみましょう」
「本当にすいません。この埋め合わせは必ずします」
僕は身支度を済ませると、何度も頭を下げて、真由莉さんの部屋を後にした。今日がオフなのは幸いだった。マンションの玄関を出たところで、僕はココナさんに連絡を入れる。
「そう、こっちには何も連絡は入っていないけど、シュウに直接かけてきたということは、向こうの話に嘘はなさそうね」と、ココナさんは意外なことを言う。
「嘘というと、コールボーイの僕を誘き出して、いきなり風営法違反で逮捕する、とかですか?」
そんな可能性は考えてもいなかった。コールボーイ一人を検挙するのに、こんなに手間暇をかけていては割に合わないだろう。
「僕が麻布署に出向くのに、ココナさんは反対ですか?」
「あまり、お勧めしないな。警察の汚いやり口には、嫌というほど苦しめられてきたから、昔から良い印象が全然ないのよ」
「良い印象を持ってないのは、僕も同じですが……」
ここで思い出したのは、少し前に、僕の指名した山本さんのことだ。彼女は警察官でありながら、僕だけでなくカズとも関係をもっている。山本さんというのは仮名で、本名は確かサキだった。
彼女が警察官であることを見抜けなかったことで、僕はココナさんの責任を問うたけど、そのことを蒸し返すつもりはない。ただ、山本さんは交通課で、宮下さんは生活安全課だけど、同じ麻布署勤務だ。
「例の山本さんは、今回の保険になりませんか?」
つまり、僕を逮捕するような事態になれば、署員の男遊びを公にするぞ、というわけだ。
「幹部クラスならともかく、一女性警察官では荷が重いでしょうね」
ココナさんは一笑に付した。確かにそうかもしれない。一個人が警察組織に立ち向かうのは、確かに〈蟷螂の斧〉のようなものだろう。
だから、僕は考え方を変えてみる。個人の自由意志は尊重されてしかるべきだ。
「ココナさん、幸か不幸か、今日の僕はオフです。休日の過ごし方は、僕の自由にさせてもらえませんか?」
「うん、結局はそういうことになるね。君は個人事業者であって、私はマネージメントをしているだけにすぎない。でも、わかってくれないかな。少し嫌な予感がするんだよ」
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
麗しき未亡人
石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。
そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。
他サイトにも掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
先生の秘密はワインレッド
伊咲 汐恩
恋愛
大学4年生のみのりは高校の同窓会に参加した。目的は、想いを寄せていた担任の久保田先生に会う為。当時はフラれてしまったが、恋心は未だにあの時のまま。だが、ふとしたきっかけで先生の想いを知ってしまい…。
教師と生徒のドラマチックラブストーリー。
執筆開始 2025/5/28
完結 2025/5/30
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる