裸のプリンスⅣ【Ｒ１８】

心はヌーディスト⑨

　真由莉さんの微笑みは、とても愛らしかった。

　でも、おそらく、不安もあるだろう。する行為は同じでも、ソープ嬢とＡＶ嬢では全然ちがうはずだ。大勢のスタッフの前でセックスをするなんて、僕には到底できない。

「たっぷり土産話を聞かせてあげるから、楽しみに待っていてね」
「ええ、いつでも気軽に連絡してください」
「じゃあ、もう一回しよ」

　真由莉さんは僕の上に重なると、軽く指先をバナナに添えただけで、するりとザクロで飲み込んだ。快感に表情を歪ませながら、セクシーに身体をくねらせる。

　真由莉さんとは繰り返しセックスをしてきたけれど、この場所で最後のお客として扱われるのは光栄の至りだ。

　彼女は今後忙しくなるだろうし、気軽に会えなくなるかもしれない。そう思うと、腰の動きに一層熱がこもった。

　結局、延長も含めて９０分間、そのほとんどを一体になって過ごした。身も心も裸になり、潮まみれになったことは言うまでもない。

「今日は本当にありがとう」

　部屋を出る前に、真由莉さんは僕のポケットに代金分のお札をねじこんだ。

「いえ、これは困りますよ」と、反射的に言ったけど、ここで固辞するのは無粋に思える。「とりあえず、次回に指名してくれる時まで、預かっておきます」

「ふふ、シュウらしいね」

　階段の影で最後のキスをして、僕は『ピンク・マーメイド』を後にした。

　心地よい疲れを感じながら、大通りに沿って歩く。帰宅ラッシュには少し早いので、東京メトロで帰ることにした。

　日比谷線三ノ輪駅へと続く道は、前にも歩いたことがある。『キャッスル』を辞める直前のことだ。今日と同じように、ココナさんと『ピンク・マーメイド』で会い、『ナイトジャック』に来るように誘われたのだ。（裸のプリンス「溺れる身体」参照）

　あれから、まだ２年も経っていない。ココナさんのおかげで仕事は順調だったが、今回初めてトラブルに見舞われたことになる。もちろん、『ナイトジャック』が手入れを受けた件だ。

　カズの件と関係があるのか？　裏で糸を引いている者がいるのか？
　どうであっても、よくないことが待っているような気がした。