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コールボーイの休日⑨
しおりを挟むポンポン、バチバチと、随分離れているのに、意外と大きな音が響いてくる。僕と千鶴は無言で、花火を眺めていた。レジャーシートのおいた僕の左手に、しっとりとした手が重なった。
もちろん、千鶴の右手である。ひんやりしていて、気持ちがいい。僕は反射的に、左手を返した。彼女の右手を包み込むように、優しく握りしめる。
言葉はいらない。それまで考えていた下らないことは意識的に、頭からきれいに追い出した。
頭ではなく、心と身体でリアクションをとるようにした。無意識にコールボーイの思考回路が開いたのかもしれない。
お客さんのことを第一に考える。お客さんというのは、今は千鶴になるわけだけど、彼女がしてほしいこと、求めていることを最優先に考えた。
指先がからみ合う。甘い体臭に包まれたのは、千鶴が身を寄せてきたせいだ。見つめ合い、千鶴が眼を閉じる。そっと唇を交わした。
欲望のキスではなく、愛情のキスだ。舌先で口内をさぐったり、舌を絡めたりはしない。せいぜい、髪の毛を指の腹で触れたり、細い肩をなでたりする程度だ。
花火の光と音を浴びながら、初々しい愛撫を繰り返す。しばらくすると、千鶴が僕の胸に身体を預けてきた。
もし彼女がお客さんなら、着衣の上から水蜜桃に触れたり、きれいな脚に指先を這わせたりするところである。
でも、再会したばかりの元御近所さん同士なら、せいぜい抱きしめてやる程度だろう。僕は彼女を引き寄せて、親鳥が卵をあたためるように、優しく抱きしめる。
僕たちは顔を寄せて、ジッと花火を眺めていた。さまざまな色の光の乱舞に眼を奪われる。次第に身体が熱くなってくる。千鶴が身体の力を抜いて、僕の胸にもたれかかってきた。
トクントクンと千鶴の鼓動が伝わってくる。僕はそれに、自分の鼓動を重ねようとしてみた。呼吸を調整すれば、それは意外と容易なことだった。身体を交えていないのに一体感を覚えるのは初めてかもしれない。
夜空に咲く花々を眺めながら、僕は頭ではなく、心と身体で判断を下す。とりあえず、仮に千鶴から求められたとしても、セックスはしない。
少なくても、今日のところは……。
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