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僕の前世の話をしよう
”僕”の前世の”俺”の運命の出会い
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“俺”は日本の地方都市にある地元企業に勤めの会社員だった。
入社して三年目、配属された営業職にも慣れ、教育係の先輩から叩き込まれたノウハウを生かして、初めて自分だけの力で契約を取れた日に運命の出会いがあった。
「すみません、隣…良いですか?」
大きなパッチリとした二重の瞳に整った鼻筋、小ぶりの唇はほんのり赤く色付いていて艶があり、やや長めで天使の輪を乗せた黒髪を耳に掛けるもサラサラとすぐに幾筋かが頬や首筋に掛かる様子が…思わず目を逸らしてしまう程の色気を醸し出す。
「あ…えと、どうぞ…?」
「ありがとうございます、…“ここ”初めてですか?」
「そう…ですね、前から気にはなってたんだけど、きっかけが無くて」
「今日はきっかけがあったの?」
「初めて一人で契約が取れた記念に…」
「そうなんだ、じゃあお祝いだね!一緒にお祝いしていい?」
「も…もちろん」
隣に座った可愛い系美人は、あっと言う間に違和感無く“俺”のパーソナルスペースに入ってきた。
目が合う度に柔らかく細められる瞳にドキドキしながら、新しく注文したカクテルのグラスを軽く掲げて「乾杯!」と微笑む“彼”に“俺”も「乾杯…!」とグラスを掲げた。
“ここ”はこの街では数少ないゲイオンリーのこじんまりとしたバーで、学生の頃に自分の性的指向に疑問を持っていた“俺”が、社会人になってから「いつか入ってみたい」と思っていたお店だった。
高校生の時も大学生の時も女子からそれなりに告白された事はあるけれど、付き合いたいと思う程の魅力は感じずいつも丁寧に断ってきていた。
「可愛いな」とか「綺麗だな」と思う事はあるけれど、女性に対しては「ただそう思う」だけで、ドキドキしたり触れたいと思うのは「可愛いい“男”」や「綺麗な“男”」に対してだった。
あぁ、自分はゲイなんだろうな…と納得出来たのは、大学を卒業する前に同じゼミだった仲間と一泊二日でバーベキューを楽しむ為にキャンプ場に行った時の事だった。
陽が沈んでも暫くはバーベキューではしゃいで、酒は次々と開けられて皆が思い思いに飲んでいた。
コテージの外に出て月見酒をしている奴もいれば、飲み比べで新しい焼酎を開けている奴、ソファに横になったまま寝落ちしている奴、ずっと狙っていた女子を必死に口説いている奴もいれば、女子からアタックを仕掛けているのも見掛けた。
コテージは男子と女子で分けて借りていた事もあり、深夜に差し掛かる頃に「そろそろ女子は戻った方がいいんじゃないか」と進言して自分も部屋に戻った。
楽な恰好になろうとした矢先にドアのノックに答えて開けると、一人の女子がスルリと入ってきて抱き着かれた。
「ずっと好きだった、付き合ってくれなくてもいい、一度でいいから抱いて欲しい」と服を脱がれ、驚いている間にベッドに押し倒されて腹の上に跨る様に乗られた。
その子にしてみたら心の底から勇気を出したのだろう。真っ赤な顔で、跨った身体は小さく震えていた。自分でホックを外そうと下着に手を掛けた所を「ごめん…出来ない」と制止した。
呆然とした表情の後、涙を溜めて急いで服を着て走って部屋を出て行った後ろ姿を冷静な頭のまま見送った。
全く心が動かなかった。
女の子の下着姿を見ても、柔らかい肌が自分の身体を跨いでも、ドキリともしなかった。
ただ「えっと…どうしよう」と思っただけで、興味を抱けなかった。
「あー…明日の朝、気まずいなぁ…」と気落ちした所に「バァン!」とドアが開き、驚いて振り返るとゼミで一番可愛らしい顔をした奴が「ねぇ信じらんない!いい雰囲気だから違う部屋で寝ろって入れてもらえなかった!」とズカズカと入って来て、ポイポイと服を脱いで長袖のTシャツとトランクス姿になると、あっという間にベッドに転がってしまった。
「え?ちょ…なんでここで寝るんだよ」と困っていると、「だってお前が一番寝相良さそうなんだもん、大丈夫大丈夫、俺狭くても気にしないから一緒に寝ればいーじゃん」と言い放ってさっさと寝てしまった。
仕方なく空いたスペースに横になり、二人とも風邪を引かない様に布団を被ったまでは良かった。
温もりを求めたのか「うぅん…」と唸りながら右腕にしがみつかれ、太ももに足を引っかけられて密着した形になり、さっきは高鳴る事の無かった鼓動がドキドキと速くなった。
太ももに弾力のある物が触れ、その正体に気付いて自分の下半身に熱が集まってしまい、気付かれる事を恐れて必死に「治まれ…治まれ…」と萎える事を考えた。
この時に「あぁ…やっぱり“俺”が性的に興奮するのは男相手なんだな」と納得したのだった。
幸い兆した“そこ”は少しずつ治まっていき、心を無にしていたら寝る事が出来た。
翌朝も「あーよく寝た!やっぱお前寝相良かったなー。狭くしてごめんな?」と、すぐに服を着て「腹減ったぁ!朝飯食べようぜ!」と暢気に部屋を出て行く後ろ姿を眺めてドッと疲れを感じたのは、ある意味良い思い出になったのかもしれない。
まぁ、性的指向を自覚したからと言ってすぐに恋人が出来る訳でもなく、そのまま就職して社会人になり慌ただしい生活の中で見付けたのがこの店だった。
ネットで情報を調べると、やはり同じ性的指向の人間が集まる場所の方が恋人やパートナーを見付けやすいと言う意見も多かったし、所謂マッチングアプリは何となく抵抗があって登録はしなかった。
いつかは行ってみよう、自分にも良い人が見付かるといい…と希望を抱いて、でも踏ん切りが付かなくて訪れる事は無かった。そう、今日の「契約を取れた記念」が無ければ。
自分の運命を変える人間に出会う事も、無かったのだ。
入社して三年目、配属された営業職にも慣れ、教育係の先輩から叩き込まれたノウハウを生かして、初めて自分だけの力で契約を取れた日に運命の出会いがあった。
「すみません、隣…良いですか?」
大きなパッチリとした二重の瞳に整った鼻筋、小ぶりの唇はほんのり赤く色付いていて艶があり、やや長めで天使の輪を乗せた黒髪を耳に掛けるもサラサラとすぐに幾筋かが頬や首筋に掛かる様子が…思わず目を逸らしてしまう程の色気を醸し出す。
「あ…えと、どうぞ…?」
「ありがとうございます、…“ここ”初めてですか?」
「そう…ですね、前から気にはなってたんだけど、きっかけが無くて」
「今日はきっかけがあったの?」
「初めて一人で契約が取れた記念に…」
「そうなんだ、じゃあお祝いだね!一緒にお祝いしていい?」
「も…もちろん」
隣に座った可愛い系美人は、あっと言う間に違和感無く“俺”のパーソナルスペースに入ってきた。
目が合う度に柔らかく細められる瞳にドキドキしながら、新しく注文したカクテルのグラスを軽く掲げて「乾杯!」と微笑む“彼”に“俺”も「乾杯…!」とグラスを掲げた。
“ここ”はこの街では数少ないゲイオンリーのこじんまりとしたバーで、学生の頃に自分の性的指向に疑問を持っていた“俺”が、社会人になってから「いつか入ってみたい」と思っていたお店だった。
高校生の時も大学生の時も女子からそれなりに告白された事はあるけれど、付き合いたいと思う程の魅力は感じずいつも丁寧に断ってきていた。
「可愛いな」とか「綺麗だな」と思う事はあるけれど、女性に対しては「ただそう思う」だけで、ドキドキしたり触れたいと思うのは「可愛いい“男”」や「綺麗な“男”」に対してだった。
あぁ、自分はゲイなんだろうな…と納得出来たのは、大学を卒業する前に同じゼミだった仲間と一泊二日でバーベキューを楽しむ為にキャンプ場に行った時の事だった。
陽が沈んでも暫くはバーベキューではしゃいで、酒は次々と開けられて皆が思い思いに飲んでいた。
コテージの外に出て月見酒をしている奴もいれば、飲み比べで新しい焼酎を開けている奴、ソファに横になったまま寝落ちしている奴、ずっと狙っていた女子を必死に口説いている奴もいれば、女子からアタックを仕掛けているのも見掛けた。
コテージは男子と女子で分けて借りていた事もあり、深夜に差し掛かる頃に「そろそろ女子は戻った方がいいんじゃないか」と進言して自分も部屋に戻った。
楽な恰好になろうとした矢先にドアのノックに答えて開けると、一人の女子がスルリと入ってきて抱き着かれた。
「ずっと好きだった、付き合ってくれなくてもいい、一度でいいから抱いて欲しい」と服を脱がれ、驚いている間にベッドに押し倒されて腹の上に跨る様に乗られた。
その子にしてみたら心の底から勇気を出したのだろう。真っ赤な顔で、跨った身体は小さく震えていた。自分でホックを外そうと下着に手を掛けた所を「ごめん…出来ない」と制止した。
呆然とした表情の後、涙を溜めて急いで服を着て走って部屋を出て行った後ろ姿を冷静な頭のまま見送った。
全く心が動かなかった。
女の子の下着姿を見ても、柔らかい肌が自分の身体を跨いでも、ドキリともしなかった。
ただ「えっと…どうしよう」と思っただけで、興味を抱けなかった。
「あー…明日の朝、気まずいなぁ…」と気落ちした所に「バァン!」とドアが開き、驚いて振り返るとゼミで一番可愛らしい顔をした奴が「ねぇ信じらんない!いい雰囲気だから違う部屋で寝ろって入れてもらえなかった!」とズカズカと入って来て、ポイポイと服を脱いで長袖のTシャツとトランクス姿になると、あっという間にベッドに転がってしまった。
「え?ちょ…なんでここで寝るんだよ」と困っていると、「だってお前が一番寝相良さそうなんだもん、大丈夫大丈夫、俺狭くても気にしないから一緒に寝ればいーじゃん」と言い放ってさっさと寝てしまった。
仕方なく空いたスペースに横になり、二人とも風邪を引かない様に布団を被ったまでは良かった。
温もりを求めたのか「うぅん…」と唸りながら右腕にしがみつかれ、太ももに足を引っかけられて密着した形になり、さっきは高鳴る事の無かった鼓動がドキドキと速くなった。
太ももに弾力のある物が触れ、その正体に気付いて自分の下半身に熱が集まってしまい、気付かれる事を恐れて必死に「治まれ…治まれ…」と萎える事を考えた。
この時に「あぁ…やっぱり“俺”が性的に興奮するのは男相手なんだな」と納得したのだった。
幸い兆した“そこ”は少しずつ治まっていき、心を無にしていたら寝る事が出来た。
翌朝も「あーよく寝た!やっぱお前寝相良かったなー。狭くしてごめんな?」と、すぐに服を着て「腹減ったぁ!朝飯食べようぜ!」と暢気に部屋を出て行く後ろ姿を眺めてドッと疲れを感じたのは、ある意味良い思い出になったのかもしれない。
まぁ、性的指向を自覚したからと言ってすぐに恋人が出来る訳でもなく、そのまま就職して社会人になり慌ただしい生活の中で見付けたのがこの店だった。
ネットで情報を調べると、やはり同じ性的指向の人間が集まる場所の方が恋人やパートナーを見付けやすいと言う意見も多かったし、所謂マッチングアプリは何となく抵抗があって登録はしなかった。
いつかは行ってみよう、自分にも良い人が見付かるといい…と希望を抱いて、でも踏ん切りが付かなくて訪れる事は無かった。そう、今日の「契約を取れた記念」が無ければ。
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