マザコン王太子は悪役令息が可愛くてしかたない

蒼羽

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僕の前世の話をしよう

いつか家族になれたら

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 夜が明けて少し経った頃、扉がコンコンとノックされる音で目が覚めた。

「はい…どうぞ」
「おはよう、気分はどうだい?」

 もぞもぞと起き上がって目を擦っていると、美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。
 レヴィーノルアは出来立ての朝食を運んで来てくれたらしく、二人分の朝食のプレートをテーブルに置いた。

「さぁ、一緒に朝食を取りながら今日の予定を話そう。温かいうちに食べると美味しいよ」
「はい、すぐに顔を洗ってきます」


 ベッドから下りて洗面所に向かい手早く顔を洗うと、用意されていたタオルはとてもふわふわで肌触りが良く、やっぱり王都の教会のタオルは孤児院のタオルと全然違うなぁと思った。
 一晩泊まった宿屋にあったタオルは、孤児院の物とここの物との中間くらいだった。
 タオルの質としては、前世のタオルと比べるとここのタオルが百円ショップで買ったタオルを少しお高い柔軟剤を使って洗濯した感じだろうか。

「リュート?大丈夫かい?」
「あ!はい!今行きます!」

 いけない、ついついタオルのふわふわ具合を堪能してしまった。
 慌てて洗面所を出ると、レヴィーノルアが「ミルクで良かったかい?」と、グラスにミルクを注いでくれていた。「ありがとうございます」と受け取って、向かい合わせでソファに座る。

「今日の恵みに感謝します」
「今日の恵みに感謝します」

 食事の前の挨拶を交わして、パンを手に取るとまだ温かくふわふわしている。
 少し千切ってパクリと食べるとほんのり甘く、前世で言う所のロールパンだ。

「美味しい…」

 ついつい表情が緩んで、続けてフォークを手に取りカリカリに焼かれたサイコロサイズのベーコンとスクランブルエッグを口に運ぶ。
「ん~~~~‼」と頬に手を当てて味わって、またパンを食べてドレッシングが掛かったサラダを食べてシャキシャキの野菜に感動する。
 BLゲームの世界の食事事情が前世の日本とほぼ変わらない事に感謝しか無い。
 転生して食事が残念で美味しい革命を起こす作品がいくつもあったのを覚えている。

「ふふっ…そうやって食べていると小動物みたいだね」
「ふぁっ⁉」
「表情がコロコロ変わって、見ていて楽しいよ」
「す、すみません…美味しくてつい…」

 しまった…レヴィーノルアが居るんだった…。
 美味しくてすっかり同席している事を忘れてしまった。

「かしこまる必要は無いよ、美味しくて何よりだ」


 目を細めて微笑むレヴィーノルアにドキドキしてはにかんでしまう。
 孤児院では食べ物に困る事は無かったとはいえ、それでもメニューは質素だったし、大勢で囲む食卓は賑やかだった。小さい子のお世話をしながら食べたり、途中で立ち上がって遊び始める子も居てシスターが注意したり。
 もうあんな風に、困りながらも楽しかった食事は出来ないのだと思うと寂しくなる。
 みんな大切な兄弟で家族だった。


「今日の予定だけどね、午後は昨日話した通り王太子殿下が直々に魔力について教えてくださる事になった」

 半分程を食べた頃、レヴィーノルアが話し始めた事に顔を上げる。

「午前はこの食事が終わったら教皇様のお部屋にご挨拶に行くよ。腰をやってしまったからうつ伏せのままですまない…との事だ。厳つく見えるけれど優しいおじい様と言う感じだ」
「そういえば昨日閣下が言っていましたね…」
「君が来るから美味しい物を食べさせてあげたいと、りんごが沢山入った木箱を持ち上げたんだよ」
「え?教皇様がですか?」
「そうだよ、普段重い物なんかそう持たないのに、張り切って『よいしょ!』と持ち上げた瞬間に『ピキッ』といったらしい」
「えぇ…」
「傍に居た人の話では、一瞬で顔面蒼白になって脂汗が噴き出ていたらしいよ」

 考えただけで背中がヒュッてなる。
 なんでそんな無茶しちゃったんだろう…。
 元を辿れば原因が僕なのかと思うと居た堪れない。

「教皇様とお会いした後は教会の中を案内するからね。リュートが出入りしそうな所を中心に見て回ろう。時間があったら併設されている時計塔にも行ってみよう」
「はい、よろしくお願いします」


 僕達が朝食を終えた後、レヴィーノルアが「そうだ、ちょっと待っていて」と部屋から出て行き、数分後に何着か服を持って来て僕の身体に合わせた。

「これは…?」
「私が以前着ていた服だよ。後見人の家として落ち着いたら服もいくつか仕立てるけれど、それまでは私のおさがりですまないが我慢してくれるかい?」
「レヴィ兄様のおさがりを着ても良いのですか…?」
「あぁ、似合いそうな色合いの物をいくつか持ってきたんだ…うん、これがいい」

 シンプルなオフホワイトのシャツに淡い空色のウエストコートに、同色のトラウザーを渡される。

「…レヴィ兄様の瞳の色ですか?」
「あぁ、パッと見で我が家の庇護下にあると分かるだろう?…庶民が治癒の力を発現させた事に疑いを持っている者や、あわよくば取り入って利用しようと企む者も居る」

「本当は養子にしたいと父も話していたけれど、親族からの反発もあるんだ…。まだ正式に力が使えると決まった訳ではない…とね。庶民が侯爵家へ養子として入った事例も無い…後見人が精いっぱいだった」

 レヴィーノルアが気にする事でもないのに、小さく「すまない…」と謝る姿に胸がキュウッと傷んだ。フルフルと首を振って「レヴィ兄様が気に病む必要は無いです…!」と言って唇を噛む。自分のせいでレヴィーノルアや閣下が悪く言われたら申し訳ない。


「いつか…本当の家族になれるように取り計らうから、待っていて欲しい」
「は、はい…」

 待って、待って…。
 養子としてと言う意味だと分かっているのに、まるでさりげなくプロポーズされているように錯覚してドキドキしてしまう。主人公補正とかあるのかな?ゲームでは出会った翌日からこんなに優しい態度を取られたりはしなかったはず。
 なんだか好感度凄く高い気がする…。ハーレムルートを目指していると上がりやすかったりするのかな…。

 腹黒キャラ…どこ行った?



 その後、ボタンの多さに四苦八苦している僕を見かねてレヴィーノルアが手伝ってくれたけれど、少し屈んでいるせいで顔が近くて伏せられた瞼から生えている睫毛の多さに『さすが攻略対象…』なんて思いながらドキドキする時間をやり過ごした。



 初めてお会いした教皇様は少し強面だけど本当に優しいおじいちゃんみたいで、ベッドにうつ伏せになりながらも優しい言葉を掛けてくれた。

「おぉ!よくきた!よくきたリューティアスラ!もっと近くに寄っておくれ!おぉ…私が命あるうちに治癒の力を持つお方に出会えるとは…なんと言う僥倖だろうか…。中央教会として最大限そなたを支えていきたい。うぐっ!す…すまない…ぅがっ…!年甲斐もなくはしゃいでしまってのぅ…アップルパイは好きか?コンポートの方が良いか?りんごの果汁と磨り下ろした果肉で作ったゼリーもあるのだ。何、遠慮する事は無い。好きな物をいっぱい食べておくれ。…む?なんじゃ?…うむ。おぉ!いかんいかん!ぁぐっ!名乗っておらなんだな…ソリドルディア・カルダインデムじゃ。カルじぃとでも呼んでおくれ」

 …この世界の偉い人って、こういう“ノリ”が多いのかな…?
 食べさせたがりな所が一緒で沢山お菓子をもらってしまった。
 閣下と教皇様だけ…?

 教皇様は上半身を変な角度で起こそうとしたからか、腰を押さえながら「ふぐぅ…」と唸りながら突っ伏してしまって、傍仕え代わりの若い司教様が残念な物を見る目をしながら氷嚢を取り換えようとしていた。


 …あれ、治癒の力で治せるかな?
 教皇様の為にもしっかり使えるようにならなきゃ…。

 ちなみに退出して扉が閉まる時に「あ」と言う声に続き「ドシャッ!」と言う音と「ふぎゃっ!」と言う悲鳴が聞こえた…。

 …司教様、手を滑らせて氷嚢を腰に落としたのかな。



「さぁ、殿下がいらっしゃる前に回れるだけ回ろう」


 正直な所、レヴィーノルアが教会内を案内してくれている間は王太子殿下に粗相をしたらどうしようかといっぱいいっぱいで、全部は覚えきれなかった。
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