13 / 52
第13話
しおりを挟む
「なんだか、凄く騒がしい人でしたね。でも、まさかAクラス冒険者だったなんて」
「そのAクラス冒険者って、凄いの?」
異世界常識スキルは教えてくれなかったので、俺はリーリアに尋ねる。
「そりゃあ、Aクラスって言ったらかなり強い部類に入る冒険者さんですよ。もしかして、アキラさんって冒険者について詳しくないんですか?」
「あぁ、うん。俺の暮らしてた場所では冒険者なんて見なかったから」
そんな風にごまかすと、リーリアは特に疑問を抱くこともなく教えてくれた。
彼女によると、冒険者にはその功績に応じてS~Fまでのランクが定められているらしい。
基本的にすべての冒険者はFクラスから始まり、依頼をこなしてギルドから認められるとランクが一つ上がる。
そうやって実力を示しながら、冒険者たちは名を上げていくのだという。
「Aクラスと言えば、冒険者の中でも一握りの存在です。Cクラスまでは依頼をこなしていけば上がることができますけど、それ以上に上がるにはギルドの定めた試験を受けて実力を示さなければならなかったはずです」
「へぇ、そうなんだ。人は見かけによらないんだな」
少なくとも、見た目だけではイザベラがそんな実力者とは分からなかった。
あの剣だって、見たところそこまで業物というわけでもなさそうだったし。
「まぁ、それでもAクラス冒険者と知り合えたのは良かったかもね。何かあった時、助けになってくれるかもしれない」
もちろんお金は必要だろうけど、荒事に慣れていない俺たちにとっては役に立つだろう。
「それにしても、リーリアは冒険者に詳しいんだね」
「まぁ、私たち鍛冶師の取引相手はほとんどが冒険者さんですからね。と言っても、私の知識なんてこの街の人ならだれでも知っているような基本的なことですから」
「そんな基本的なことすら、俺は知らなかったけどね」
俺が自虐すると、リーリアは慌てたように視線を泳がせる。
いや、別にそこまで傷ついてないからね。
むしろそこまで気を使われると逆に気にしてしまうけど、それを知らない彼女は気まずそうに話を逸らす。
「そ、そんなことより、さっきの魔法はなんだったんですか? あんなにバラバラだった剣をすぐに直してしまうなんて、普通では考えられないです」
「えっと、まぁ修復の上位魔法ってところかな。普通なら直せないような物でも、あれを使えば直せるみたいだ」
とはいえ、その魔法を使った後は全力疾走した後みたいな疲労感に襲われるから、できるだけ使いたくはないんだけど。
今も気を抜けば座り込んでしまいそうな身体に鞭を打って立っている状態だ。
そんな俺の様子に気付くことなく、瞳をキラキラと輝かる。
「凄いです! アキラさんはやっぱり凄腕の鍛冶師さんなんですね」
「だから、俺はまだ未熟なんだって。それより、なんだか今日はいろいろあって疲れちゃったよ」
「確かに、激動の一日って感じでしたね。アキラさんに出会って、借金取りから助けてもらって、それからアキラさんのおかげで思わぬ収入もありました。……そうだ。これはアキラさんが持っていてください!」
そう言って差し出されたのは、さっきイザベラが置いて行った白金貨だった。
「いやいや、それは受け取れないよ」
「私こそ受け取れませんよ! 私はなにもしていませんし、イザベラさんの剣を直したのはアキラさんですから」
慌てて拒否するも、彼女は一歩も引くことなく無理やり白金貨を俺に押し付けてくる。
あいかわらず頑固な彼女をどうにか説得しようと思考を巡らせている間にも、リーリアは話は終わったとばかりに奥の部屋へと歩き始めてしまう。
「ちょっと待って! やっぱりこれはリーリアに受け取ってほしいんだ」
「だから、無理ですって。なにもしていないのに売り上げだけ徴収するなんて、そんなあくどいことはできません!」
「いや、確かにそうかもしれないけど……」
とはいえ俺だって、彼女に受け取ってもらえないと働いた意味がない。
今の俺の第一目標はリーリアの借金を返すことだし、それにこんな大金を持っていても今の俺には使い道なんてないのだ。
さて、どうしたものか。
考えているうちに俺はある名案を思い浮かんだ。
「じゃあ、こうしよう。俺をしばらく、この工房に住ませてほしい」
「え?」
「それで、このお金は家賃として受け取ってほしいんだ。それじゃ駄目かな?」
「でも……」
「もしも受け取ってくれないんだったら、俺は路頭に迷ってしまうかもしれない。俺を助けると思って、お願いします!」
両手を合わせて懇願すると、リーリアは諦めたようにため息を吐いた。
「はぁ、私の負けです。……分かりました。アキラさんには住み込みの職人としてこの工房で働いてもらいます。でも、家賃だけじゃ貰い過ぎなので食事も私が用意しますね」
「本当に!? リーリアの作った料理は美味しいから、そうしてくれると嬉しいよ!」
というわけで、俺はめでたく住む場所と仕事、それに毎日の食事を手に入れたのだった。
「そのAクラス冒険者って、凄いの?」
異世界常識スキルは教えてくれなかったので、俺はリーリアに尋ねる。
「そりゃあ、Aクラスって言ったらかなり強い部類に入る冒険者さんですよ。もしかして、アキラさんって冒険者について詳しくないんですか?」
「あぁ、うん。俺の暮らしてた場所では冒険者なんて見なかったから」
そんな風にごまかすと、リーリアは特に疑問を抱くこともなく教えてくれた。
彼女によると、冒険者にはその功績に応じてS~Fまでのランクが定められているらしい。
基本的にすべての冒険者はFクラスから始まり、依頼をこなしてギルドから認められるとランクが一つ上がる。
そうやって実力を示しながら、冒険者たちは名を上げていくのだという。
「Aクラスと言えば、冒険者の中でも一握りの存在です。Cクラスまでは依頼をこなしていけば上がることができますけど、それ以上に上がるにはギルドの定めた試験を受けて実力を示さなければならなかったはずです」
「へぇ、そうなんだ。人は見かけによらないんだな」
少なくとも、見た目だけではイザベラがそんな実力者とは分からなかった。
あの剣だって、見たところそこまで業物というわけでもなさそうだったし。
「まぁ、それでもAクラス冒険者と知り合えたのは良かったかもね。何かあった時、助けになってくれるかもしれない」
もちろんお金は必要だろうけど、荒事に慣れていない俺たちにとっては役に立つだろう。
「それにしても、リーリアは冒険者に詳しいんだね」
「まぁ、私たち鍛冶師の取引相手はほとんどが冒険者さんですからね。と言っても、私の知識なんてこの街の人ならだれでも知っているような基本的なことですから」
「そんな基本的なことすら、俺は知らなかったけどね」
俺が自虐すると、リーリアは慌てたように視線を泳がせる。
いや、別にそこまで傷ついてないからね。
むしろそこまで気を使われると逆に気にしてしまうけど、それを知らない彼女は気まずそうに話を逸らす。
「そ、そんなことより、さっきの魔法はなんだったんですか? あんなにバラバラだった剣をすぐに直してしまうなんて、普通では考えられないです」
「えっと、まぁ修復の上位魔法ってところかな。普通なら直せないような物でも、あれを使えば直せるみたいだ」
とはいえ、その魔法を使った後は全力疾走した後みたいな疲労感に襲われるから、できるだけ使いたくはないんだけど。
今も気を抜けば座り込んでしまいそうな身体に鞭を打って立っている状態だ。
そんな俺の様子に気付くことなく、瞳をキラキラと輝かる。
「凄いです! アキラさんはやっぱり凄腕の鍛冶師さんなんですね」
「だから、俺はまだ未熟なんだって。それより、なんだか今日はいろいろあって疲れちゃったよ」
「確かに、激動の一日って感じでしたね。アキラさんに出会って、借金取りから助けてもらって、それからアキラさんのおかげで思わぬ収入もありました。……そうだ。これはアキラさんが持っていてください!」
そう言って差し出されたのは、さっきイザベラが置いて行った白金貨だった。
「いやいや、それは受け取れないよ」
「私こそ受け取れませんよ! 私はなにもしていませんし、イザベラさんの剣を直したのはアキラさんですから」
慌てて拒否するも、彼女は一歩も引くことなく無理やり白金貨を俺に押し付けてくる。
あいかわらず頑固な彼女をどうにか説得しようと思考を巡らせている間にも、リーリアは話は終わったとばかりに奥の部屋へと歩き始めてしまう。
「ちょっと待って! やっぱりこれはリーリアに受け取ってほしいんだ」
「だから、無理ですって。なにもしていないのに売り上げだけ徴収するなんて、そんなあくどいことはできません!」
「いや、確かにそうかもしれないけど……」
とはいえ俺だって、彼女に受け取ってもらえないと働いた意味がない。
今の俺の第一目標はリーリアの借金を返すことだし、それにこんな大金を持っていても今の俺には使い道なんてないのだ。
さて、どうしたものか。
考えているうちに俺はある名案を思い浮かんだ。
「じゃあ、こうしよう。俺をしばらく、この工房に住ませてほしい」
「え?」
「それで、このお金は家賃として受け取ってほしいんだ。それじゃ駄目かな?」
「でも……」
「もしも受け取ってくれないんだったら、俺は路頭に迷ってしまうかもしれない。俺を助けると思って、お願いします!」
両手を合わせて懇願すると、リーリアは諦めたようにため息を吐いた。
「はぁ、私の負けです。……分かりました。アキラさんには住み込みの職人としてこの工房で働いてもらいます。でも、家賃だけじゃ貰い過ぎなので食事も私が用意しますね」
「本当に!? リーリアの作った料理は美味しいから、そうしてくれると嬉しいよ!」
というわけで、俺はめでたく住む場所と仕事、それに毎日の食事を手に入れたのだった。
81
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる