異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト

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第18話

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「それは駄目です。依頼には正当な報酬を与えないと、商人の名が廃りますから」
「真面目だねぇ。私が好きでやってるんだから、報酬なんていらないんだよ」
「それでも、依頼は依頼です。これから良好な関係を築いていくためにも、お金の関わることは曖昧にしない方がいいんです」
 そう言い切ったリーリアに、呆れたようにため息を吐きながらイザベラも応える。
「確かにそうかもしれないけどね。……だったら、こうしよう。どうせ材料分で追加料金がかかるんだから、私たちが持ち込んだ素材の料金はタダってことで。それなら、代金の値引き分が私たちへの報酬ってことになるだろう」
「分かりました。細かいことばかり言ってごめんなさい」
「いや、良いんだよ。しっかりしてる子の方が、私は好きだね」
 どうやら話はまとまったらしい。
 リーリアに促されて必要な素材の数を書いたメモをイザベラに手渡すと、それを一瞥した彼女は力強く頷いた。
「うん、これなら一週間もあれば手に入れられると思うよ」
「本当に? それなら良かった」
 名前だけ分かっても、それがどんな物で入手難度がどれくらいなのかを俺は知らない。
 快く引き受けてくれたなら、それほど難しいものでもなかったのだろう。
「それなら、一週間後に全部の材料がそろってから作業を始めることにするよ。それで、完成までに二週間だ」
「了解。ならさっさと素材を調達しに行かないとね。ついでにエステルの修行にもなるし、一石二鳥だよ」
「が、頑張ります!」
 グッと気合を入れるエステルの背中をパンパンと叩きながら、イザベラは俺たちに笑顔を向ける。
「それじゃ、行ってくるよ。また一週間後に素材を持ってくるからね」
「楽しみに待ってるよ。気を付けて」
「誰に言ってるの? 私はAクラス冒険者だよ」
 そんな軽口を叩きながら、イザベラとエステルは工房を後にした。
 二人が出ていってしばらくして、リーリアが俺に声をかけてくる。
「それで、イザベラさんたちにどんな素材を頼んだんですか?」
「えっと、これだよ」
 書き写しておいたメモをリーリアに渡すと、それを見た彼女は引きつった笑みを浮かべて固まった。
 そんな彼女の反応に、今度は俺が困惑する番だ。
 スキルに教えられるがまま必要な素材を書き連ねただけだけど、なにか問題でもあったのだろうか。
 しばらくの沈黙の後、リーリアは相変わらず引きつった笑みのままで口を開く。
「……これ、本気ですか?」
「え? もしかして、なにかまずかった?」
 この時の俺は、まだ自分のしでかしたことを理解していなかった。
 そして次のリーリアの言葉で、俺は自分がいかに世間知らずかを知ることになる。
「この素材、全部この辺りでは全く流通していない希少な物ですよ」

 ────
 次の日、俺は修行も兼ねて量産品よりも品質の良い武器を大量生産していた。
 まだ俺には一品物を作るほどの実力もないから、結局これを武器屋に卸すのが一番儲かるだろうと判断したのだ。
 ちなみに昨日の素材の件は忘れることにした。
 なんだか気にしたら負けなような気がして、あれ以来ふたりともそのことについては一切触れないようにしていた。
「ふぅ、そろそろ休憩にしようかな」
 出来上がった武器の山を眺めながら、俺は炉の火を落として肩から力を抜く。
 まだ慣れていないからか、長時間炉の前で作業しているとけっこう肩が凝ってしまうのだ。
 腕を回してストレッチをしていると、工房の奥からお菓子を持ってきたリーリアが俺の近くまで歩み寄ってくる。
「そろそろ休憩時間だと思って、お菓子を持ってきました。一緒に食べましょう」
「それは良い案だ。ちょうど甘い物が欲しかったんだよ」
 差し出されたクッキーを一口で頬張ると、サクッとした食感とほんのりとした甘みが疲れた身体に染み渡っていく。
「どうですか? 今日のクッキーは、私の手作りなんですけど」
「そうなの? どうりで、すっごく美味しいはずだよ」
 料理上手なリーリアは、お菓子作りも得意だったようだ。
 二つ目を手に取って微笑むと、リーリアは少し照れくさそうに顔を赤らめる。
「そんなに褒めてもなにもでませんよ。でも、ありがとうございます」
 照れ隠しのようにそう言いながら、リーリアもクッキーに手を伸ばした。
 そうしてしばらく、ふたりでクッキーを食べながら談笑する。
 可愛い女の子と向き合って、可愛い女の子の手作りのクッキーを食べながら他愛もない話をする。
 こんなに楽しい時間を過ごすことができるなんて、前の世界に居た頃は想像することもできなかっただろう。
 それくらい、俺は幸せを感じていた。
 これまでの人生を必死に暮らしてきて、今が一番充実した日々を過ごしているだろう。
「それにしても、やっぱりアキラさんの作る武器は凄いですね。こんなの、普通は王都の方へ行かないと手に入らないですよ」
 しげしげと俺の作った武器を見つめたリーリアは、感心したように何度も頷いている。
「そうなのか? それなら、これを売ればけっこう儲かるんじゃない?」
「そうかもしれないですね。問題は、これを店頭に並べてくれるお店があるかどうかです」
「なんでだ? 良い物なんだから、どこでも置いてくれそうじゃないか」
 不思議に思って尋ねると、リーリアは苦笑いを浮かべながら答えてくれた。

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