異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト

文字の大きさ
19 / 52

第19話

しおりを挟む
「確かにそうかもしれませんけど、実際は品質が良すぎても駄目な場合もあるんです。商売は買ってくれるお客さんが居て初めて成立するんで、たとえ良い品物でも買い手がなければ価値はありません。この街は駆け出しの冒険者さんが多いので、質の良い武器は値段が高くて買えないなんて人が多いんです。だから、少し粗悪でも安く売りさばける商品の方が人気なんですよ」
「へぇ、そういうものなのか」
 まぁ確かに、始めたてでいきなり高価な物を買っても失敗することも多いだろう。
 特に武器なんかは、使いこなせなければ宝の持ち腐れだ。
「でも、イザベラみたいな強い冒険者だって居るんじゃないか? だったら、そういった層をターゲットにすれば」
「イザベラさんクラスになると、すでに愛用の武器を持っている方の方が多いですから。わざわざ街の武器屋で新しい武器を買ったりしないみたいです」
「あぁ、そっか……」
 だったら、俺が作ったこの武器たちはほとんどが売り物にならないガラクタということになってしまう。
「それはちょっと寂しいかな」
「そうですね。そうならない為にも、頑張ってどこか置いてくるお店を探しましょう」
 気合を入れるようにクッキーを頬張ったリーリアは、一緒に用意していた紅茶を飲んで一息ついた。
 確かに彼女の言うとおり、諦める前にまずはできることをやってみよう。
 立ち止まるのは、できることを全部やってからでも遅くはないはずだ。
「それで、リーリアにはどこか心当たりとかある?」
 残念ながら、俺には人脈や伝手が全くない。
 頼みの綱はリーリアだけだけど、しかし彼女も渋い表情を浮かべている。
「私もあまり当てにしないでください。そもそも、ウチみたいな小さな工房では話を聞いてくれるお店も少ないんです」
 そう言えば、この工房が武器を卸しているのはたった三軒だけだ。
 しかも、テッドの店以外はほんの少しだけしか取引をしてもらえていない。
「やっぱり大きな工房の方が力もありますから。少しくらい品質が悪くても、より安価で大量に仕入れられる方が選ばれてしまうんです」
「確かに、俺一人じゃ作れる数に限りがあるからな」
 どうしても、大手ほどの生産量は望めないだろう。
「だけど、これで諦めるのはまだ早いさ。とりあえず片っ端から交渉をしていこう」
「そうですね! もしかしたら、どこかのお店が話を聞いてくれるかもしれません」
 そんな希望を胸に抱いて、俺たちはさっそく出掛ける準備を進めるのだった。

 ────
「ここも駄目、か……。これで何連敗したんだ……」
 取り付く島もなく追い返された俺たちは、店の前で大きなため息を吐いていた。
「分かっていたことですけど、こう何度も連続で断られるとちょっとへこんじゃいますね」
 あはは、と乾いた笑いを浮かべるリーリアも、心なしか元気がなさそうだ。
「せめて話だけでも聞いてくれてもいいのにな。現物を見てもらえれば、きっと気に入ってもらえるはずなのに」
 俺の作った武器は、そこらに売っている物よりも品質が高いという自信がある。
 確かに大量に作ることはできないけど、少しだけでも店に置いてもらえれば工房の良い宣伝になるはずなのだ。
「よし、次に行こう。ここから一番近いのは、テッドの店か」
「そうですね。今のところ一番可能性のあるお店でもありますし、頑張りましょう!」
 気合を入れ直してテッドの店へと向かって歩き出す俺たち。
 しばらくして店に辿り着くと、ちょうどテッドは店の前を掃除している最中だったようだ。
「おぉ、リーリアちゃんにアキラじゃないか。今日はどうした? なにか必要な物でもあるのか?」
「テッドさん、こんにちは。今日は買い物に来たわけじゃないんです。新しい商品のことで、テッドさんに相談があって」
 リーリアのその言葉を聞いて、テッドの表情は商売人のものへと変わっていく。
「よし、詳しくは中で聞かせてもらうよ。まぁ、中に入ってくれ」
 促されて店の中に入ると、そこは相変わらずいろいろな商品が所狭しと並べられていた。
 俺たちに遅れて入ってきたテッドは、近くにあったテーブルの上を大雑把に片付け始める。
 置いてあった物の大半を床にどかしたテッドは、改めて俺たちの方へと向き直った。
「んで、どんな商品を持ってきたんだ? 先に言っておくが、いくらリーリアちゃんの頼みでも半端な物じゃ俺の店には置けないからな」
「分かってます。私だって、情けで置いてもらおうなんて考えていませんから。いつだって私が持ってくる商品は、私が売れると自信を持って言える商品ですから」
 その言葉を聞いて、テッドは楽しそうに表情を緩める。
「いいねぇ、そう言うところが親父さんにそっくりだ」
「私が、父に……?」
 意外そうな表情を浮かべるリーリアに、テッドはさらに楽しそうに笑って答える。
「アイツも今のリーリアちゃんと同じように、新商品を持ってくる時はいつもそうやって大口を叩いてたよ。んで、そう言う時に持ってきた物がハズレだったことはなかった」
 だから、期待しているぜ。
 そう言って再び表情を引き締めたテッドに、リーリアも一緒になって真面目な表情を浮かべる。
 そんな彼女に促されて、俺は持っていた試作品をテーブルの上に広げた。
 さぁ、それじゃあ商談の始まりだ。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...