31 / 52
第31話
しおりを挟む
「それじゃポーションはこのくらいにして、次はスクロールを作ってみよう。スクロール用の紙はどこに置いたっけ?」
「それならここにありますよ。でも、本当に大丈夫ですか?」
差し出された紙束を受け取ると、リーリアは不安そうな表情で俺を見上げてくる。
俺だって少しは不安があるけど、工房の主である彼女にとって失敗は死活問題にもなってくる。
そんな彼女の不安を解消するために、俺は努めて明るい表情を浮かべながら自信満々に答える。
「大丈夫だって。ドロシーに貰った本はちゃんと読んだし、なんならその本を読みながらでも作れるみたいだから」
読みながらと言うのはカンニングみたいでちょっと気が進まないけど、分からないまま失敗するよりはマシだろう。
それにこれは学校のテストではないのだから、まずは確実に成功することが大切だ。
目当てのページで開いた本をテーブルに置いた俺は、手に持った紙にゆっくりと魔力を流していく。
これがなかなか難しい。
そもそも魔力を流すという行為自体に慣れていない上に、紙は金属と比べて魔力が流れにくい気がする。
額に汗をにじませながら、俺は必死に頭の中でイメージを膨らませていく。
水が紙に染み込むように、魔力を紙の繊維一本一本へと行き渡らせる。
そうやって瞳を閉じてイメージに集中していると、魔力はじんわりと紙の中へと浸透していく。
その魔力が紙全体に広がったところで、俺はゆっくりと詠唱を始めた。
「魔力よ、文字を刻み紋様を刻め。我が力の片鱗を残し、わずかな奇跡をこの場所に封じ込めよ。封緘」
俺の詠唱に応じるように魔力が文字となって紙の中央に刻まれ、その文字自体が一つの魔法陣を作り上げる。
一瞬でも気を抜けばたちまち失敗してしまう繊細な作業に、俺は瞬きも忘れて精神を集中させる。
そして最後の一文字が刻み込まれると、詠唱の終了とともに紙はひとりでにクルクルと丸まり、一本の巻物へと変化した。
「よし、とりあえず成功だ。あとはこれを使って、魔法が発動するかを試すだけだな」
「ちょ、ちょっと待ってください! ここで試すんですか!?」
当然のようにスクロールを開こうとすると、慌てた様子のリーリアが俺を制止する。
確かに危険な魔法を封じていれば、ここでそれを発動すれば大惨事になってしまうだろう。
だけど、このスクロールに封じたのは全く問題のない魔法だ。
「大丈夫、安心して。これに封じたのはライトの魔法だから。ちゃんと発動しても、この工房が明るくなるだけだよ」
「あっ、そうなんですね。良かった……」
ほっと胸を撫でおろしたリーリアに微笑みかけながら、俺は改めてスクロールの封に指をかける。
さぁ、緊張の一瞬だ。
ゆっくりと封を切ると、俺はスクロールを一気に広げる。
「っ!?」
その瞬間、スクロールからはまばゆい光を放つ一つの球が飛び出してきた。
飛び出した光の球はスクロールから離れ、やがて俺の身体のすぐそばで止まる。
「……よし、成功だ!」
空中で静止する光の球を眺めながら、俺は初めての魔法に興奮を抑えきれずにいた。
「やりましたね、アキラさん!」
「ああ! これでこの工房に、新しい目玉商品ができたぞ!」
俺の隣で飛び跳ねて喜ぶリーリアと笑いあいながら、俺たちは力強くハイタッチを交わすのだった。
────
新しい商品ができて喜んだのもつかの間、俺たちの前にはまた困難が立ちふさがっていた。
「どうして、どこの店も商品を買い取ってくれないんだ……」
通りに面した道具屋から出てきた俺は、苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべていた。
それもそのはず。
さっきから訪ねた何軒もの道具屋で商品を店に並べてもらうように交渉しても、全ての店で断られてしまったのだ。
それも交渉の末に条件が合わなかったとかなら、まだ納得だってできる。
だけど、その断られ方が少し引っかかる。
最初は商品を見て買い取りに乗り気だったにも関わらず、俺たちの工房の名前を聞いた途端に店主の対応は渋い物になってしまうのだ。
中には実際に契約書を書く段階になって、やっぱり無理だと断られてしまうケースまであった。
「こんなの、絶対におかしい」
どう考えても普通ではない断られ方に、いくら鈍感な俺でもなにかの力が動いていることを感じ取ってしまう。
そしてそんなことは、当然のようにリーリアも感じ取っているわけで。
「一軒や二軒なら偶然で済ませることもできますけど、ここまで露骨だと……」
俺の言葉に同調するように、リーリアも不安そうに表情を曇らせている。
「ともかく、こんなに断られる原因を探らないと」
なんとなく原因の予想はできるけど、まだ確定していない以上は慎重に状況を判断しなければいけない。
「でも、どうやって調べれば……」
そう尋ねられて、俺の頭にはひとりの人物の顔が浮かんだ。
「そうだ! ドロシーならなにかを知っているかもしれない。彼女の店に行ってみよう!」
「確かに、そうですね。行きましょう!」
お互いを見て頷き合った俺たちは、そのまま急ぎ足でドロシーの店へと向かった。
「それならここにありますよ。でも、本当に大丈夫ですか?」
差し出された紙束を受け取ると、リーリアは不安そうな表情で俺を見上げてくる。
俺だって少しは不安があるけど、工房の主である彼女にとって失敗は死活問題にもなってくる。
そんな彼女の不安を解消するために、俺は努めて明るい表情を浮かべながら自信満々に答える。
「大丈夫だって。ドロシーに貰った本はちゃんと読んだし、なんならその本を読みながらでも作れるみたいだから」
読みながらと言うのはカンニングみたいでちょっと気が進まないけど、分からないまま失敗するよりはマシだろう。
それにこれは学校のテストではないのだから、まずは確実に成功することが大切だ。
目当てのページで開いた本をテーブルに置いた俺は、手に持った紙にゆっくりと魔力を流していく。
これがなかなか難しい。
そもそも魔力を流すという行為自体に慣れていない上に、紙は金属と比べて魔力が流れにくい気がする。
額に汗をにじませながら、俺は必死に頭の中でイメージを膨らませていく。
水が紙に染み込むように、魔力を紙の繊維一本一本へと行き渡らせる。
そうやって瞳を閉じてイメージに集中していると、魔力はじんわりと紙の中へと浸透していく。
その魔力が紙全体に広がったところで、俺はゆっくりと詠唱を始めた。
「魔力よ、文字を刻み紋様を刻め。我が力の片鱗を残し、わずかな奇跡をこの場所に封じ込めよ。封緘」
俺の詠唱に応じるように魔力が文字となって紙の中央に刻まれ、その文字自体が一つの魔法陣を作り上げる。
一瞬でも気を抜けばたちまち失敗してしまう繊細な作業に、俺は瞬きも忘れて精神を集中させる。
そして最後の一文字が刻み込まれると、詠唱の終了とともに紙はひとりでにクルクルと丸まり、一本の巻物へと変化した。
「よし、とりあえず成功だ。あとはこれを使って、魔法が発動するかを試すだけだな」
「ちょ、ちょっと待ってください! ここで試すんですか!?」
当然のようにスクロールを開こうとすると、慌てた様子のリーリアが俺を制止する。
確かに危険な魔法を封じていれば、ここでそれを発動すれば大惨事になってしまうだろう。
だけど、このスクロールに封じたのは全く問題のない魔法だ。
「大丈夫、安心して。これに封じたのはライトの魔法だから。ちゃんと発動しても、この工房が明るくなるだけだよ」
「あっ、そうなんですね。良かった……」
ほっと胸を撫でおろしたリーリアに微笑みかけながら、俺は改めてスクロールの封に指をかける。
さぁ、緊張の一瞬だ。
ゆっくりと封を切ると、俺はスクロールを一気に広げる。
「っ!?」
その瞬間、スクロールからはまばゆい光を放つ一つの球が飛び出してきた。
飛び出した光の球はスクロールから離れ、やがて俺の身体のすぐそばで止まる。
「……よし、成功だ!」
空中で静止する光の球を眺めながら、俺は初めての魔法に興奮を抑えきれずにいた。
「やりましたね、アキラさん!」
「ああ! これでこの工房に、新しい目玉商品ができたぞ!」
俺の隣で飛び跳ねて喜ぶリーリアと笑いあいながら、俺たちは力強くハイタッチを交わすのだった。
────
新しい商品ができて喜んだのもつかの間、俺たちの前にはまた困難が立ちふさがっていた。
「どうして、どこの店も商品を買い取ってくれないんだ……」
通りに面した道具屋から出てきた俺は、苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべていた。
それもそのはず。
さっきから訪ねた何軒もの道具屋で商品を店に並べてもらうように交渉しても、全ての店で断られてしまったのだ。
それも交渉の末に条件が合わなかったとかなら、まだ納得だってできる。
だけど、その断られ方が少し引っかかる。
最初は商品を見て買い取りに乗り気だったにも関わらず、俺たちの工房の名前を聞いた途端に店主の対応は渋い物になってしまうのだ。
中には実際に契約書を書く段階になって、やっぱり無理だと断られてしまうケースまであった。
「こんなの、絶対におかしい」
どう考えても普通ではない断られ方に、いくら鈍感な俺でもなにかの力が動いていることを感じ取ってしまう。
そしてそんなことは、当然のようにリーリアも感じ取っているわけで。
「一軒や二軒なら偶然で済ませることもできますけど、ここまで露骨だと……」
俺の言葉に同調するように、リーリアも不安そうに表情を曇らせている。
「ともかく、こんなに断られる原因を探らないと」
なんとなく原因の予想はできるけど、まだ確定していない以上は慎重に状況を判断しなければいけない。
「でも、どうやって調べれば……」
そう尋ねられて、俺の頭にはひとりの人物の顔が浮かんだ。
「そうだ! ドロシーならなにかを知っているかもしれない。彼女の店に行ってみよう!」
「確かに、そうですね。行きましょう!」
お互いを見て頷き合った俺たちは、そのまま急ぎ足でドロシーの店へと向かった。
55
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる