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第33話
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思わず確認するようにリーリアの顔を見つめると、彼女は思いつめたような表情を浮かべながらも小さく頷く。
そんなリーリアの反応を確認してから、俺はゆっくりと口を開いた。
「実は、リーリアと出会った日の夜に工房に来た借金取りと揉めたんだ。貸した金を今すぐ返せって、すごい剣幕でね。返さなきゃ身体で稼いでもらうって、無理やりリーリアを連れて行こうとまでされたよ」
「そんな……。そんな大変なこと、どうして私に相談してくれなかったんだ!? ……いや、今はそんな話をしている場合じゃないね。それで、その時はどうやって場を収めたの?」
「その時は向こうのお偉いさんと話をつけて、返済を待ってもらう約束をしたんだ。と言っても、下っ端の奴らはあまり納得してなかった気がする」
俺の話を聞いたドロシーは、納得したように頷いている。
「なるほどね。それで、嫌がらせの一環として今回の圧力をかけた可能性があるってことだ」
「だけど、たかが借金程度でそこまでするか? それよりも、そんなことをしたらむしろ返済が滞る可能性だって高くなるのに……」
そんなことになれば、彼らだってそうとう困るはずだ。
まぁ借金取りって言うのは、借金を回収するのが目的なのに平気で人の収入源を潰すようなことをしてくる集団ではあるけど。
それでも、わざわざ圧力をかけてまで回りくどいやり方をするのは考えられない。
そんな俺の予想を、しかしドロシーは首を振って否定した。
「……もしも、それが本当の目的だったとしたら?」
「えっ?」
「例えば、リーリアに借金を返されたら困る人物が居るとすればどう?」
「そんなまさか……。さすがにありえないだろ」
いくらなんでもそれは考え過ぎではないだろうか。
そんな俺の考えを否定するように、ドロシーはもう一度大きく首を振る。
「残念ながら、そう考えないと今回の圧力がかかる理由が分からないのよ。回りくどすぎるし、脅しにしては効果が薄すぎるもの。知らない所で取引を潰されてたとしても、気付かない可能性だって低くないでしょ?」
そう言われてしまえば、確かにそうかもしれない。
実際こうやってドロシーに相談しなければ、取引に圧力がかかっているなんて俺たちには知る由もなかったのだ。
「でもだったら、いったい誰がこんなことをしているんだ? 借金が返ってこなくて喜ぶ奴なんて、本当に居るのか?」
「それは分からないわ。相当の物好きか、さもなければお金以外に目的でもあるんじゃないかしら」
例えば、リーリア自身とかね。
そんな風にいきなり話を振られて、驚いた様子のリーリアは恐怖に顔を歪ませた。
「なにそれ、怖い……」
怯えたようにそれだけ呟いて、彼女は自分の身体を両手で抱きしめる。
そりゃあ、自分の知らない所で自分の存在が狙われていたら恐怖以外の何物でもないだろう。
それがリーリアみたいな若い女の子なら、なおさらだ。
「まぁ、あくまでただの推測だから本当のところは分からないわ。だけど、そういった可能性も考えておいた方がいいと思う」
「確かにそうかもな。少なくとも、実際によく分からない圧力がかかっているのは確実なんだ。今後も注意するに越したことはない」
とは言え、相手の正体についてはこれ以上考えても答えはでないだろう。
分かっているのは、俺たちが敵に回しているのはこんな圧力を平気でかけることができる存在だということだけだ。
どうやら俺たちは、知らない間にとんでもない奴と敵対していたみたいだ。
「ともかくまずは、この圧力を跳ねのける方法を見つけるしかないか。じゃないと、いくら新商品を作っても全く意味がなくなるからな」
「そうですね。でも、どうしましょう……」
気を取り直したようにきゅっと唇を引き締めたリーリアに見上げられて、俺は言葉に詰まる。
この街の店全部に圧力がかけられているのだとしたら、この街以外の場所で売るしかない。
そうなるとやっぱりノエラに頼むことになるだろうけど、果たして彼女だけに頼り切って良いのだろうか。
ありえないとは思うけど、彼女に依存しきってしまった段階でいきなり梯子を外されてしまったらどうにもならなくなってしまう。
今後ノエラにも圧力がかかる可能性だってゼロではないんだから、その場合のことも考えておかないと。
考えることが多すぎて頭がこんがらがってしまう。
そんな俺に助け舟を出すように、ドロシーが気だるげに声をかけてくる。
「とりあえず、君たちが今持っている商品はウチの店で買い取ってあげるよ」
「本当に!? ありがとう、ドロシー!」
今にも抱き着かんばかりに喜ぶリーリアをさらっと躱しながら、彼女は俺の差し出した商品をじっくりと眺めた。
「うん、いい出来ね。値段は、これくらいでどう? この値段で卸してもらえるなら、今後も定期的に仕入れたいんだけど」
「悪いけど、俺は値段の交渉はやってないんだ。リーリアと相談してくれ」
交渉ごとはリーリアに丸投げして、俺は再び思考の海に沈んでいく。
視界の端ではすっかり元気を取り戻したリーリアとドロシーのふたりが、カウンターを挟んで舌戦を繰り広げていた。
そんなリーリアの反応を確認してから、俺はゆっくりと口を開いた。
「実は、リーリアと出会った日の夜に工房に来た借金取りと揉めたんだ。貸した金を今すぐ返せって、すごい剣幕でね。返さなきゃ身体で稼いでもらうって、無理やりリーリアを連れて行こうとまでされたよ」
「そんな……。そんな大変なこと、どうして私に相談してくれなかったんだ!? ……いや、今はそんな話をしている場合じゃないね。それで、その時はどうやって場を収めたの?」
「その時は向こうのお偉いさんと話をつけて、返済を待ってもらう約束をしたんだ。と言っても、下っ端の奴らはあまり納得してなかった気がする」
俺の話を聞いたドロシーは、納得したように頷いている。
「なるほどね。それで、嫌がらせの一環として今回の圧力をかけた可能性があるってことだ」
「だけど、たかが借金程度でそこまでするか? それよりも、そんなことをしたらむしろ返済が滞る可能性だって高くなるのに……」
そんなことになれば、彼らだってそうとう困るはずだ。
まぁ借金取りって言うのは、借金を回収するのが目的なのに平気で人の収入源を潰すようなことをしてくる集団ではあるけど。
それでも、わざわざ圧力をかけてまで回りくどいやり方をするのは考えられない。
そんな俺の予想を、しかしドロシーは首を振って否定した。
「……もしも、それが本当の目的だったとしたら?」
「えっ?」
「例えば、リーリアに借金を返されたら困る人物が居るとすればどう?」
「そんなまさか……。さすがにありえないだろ」
いくらなんでもそれは考え過ぎではないだろうか。
そんな俺の考えを否定するように、ドロシーはもう一度大きく首を振る。
「残念ながら、そう考えないと今回の圧力がかかる理由が分からないのよ。回りくどすぎるし、脅しにしては効果が薄すぎるもの。知らない所で取引を潰されてたとしても、気付かない可能性だって低くないでしょ?」
そう言われてしまえば、確かにそうかもしれない。
実際こうやってドロシーに相談しなければ、取引に圧力がかかっているなんて俺たちには知る由もなかったのだ。
「でもだったら、いったい誰がこんなことをしているんだ? 借金が返ってこなくて喜ぶ奴なんて、本当に居るのか?」
「それは分からないわ。相当の物好きか、さもなければお金以外に目的でもあるんじゃないかしら」
例えば、リーリア自身とかね。
そんな風にいきなり話を振られて、驚いた様子のリーリアは恐怖に顔を歪ませた。
「なにそれ、怖い……」
怯えたようにそれだけ呟いて、彼女は自分の身体を両手で抱きしめる。
そりゃあ、自分の知らない所で自分の存在が狙われていたら恐怖以外の何物でもないだろう。
それがリーリアみたいな若い女の子なら、なおさらだ。
「まぁ、あくまでただの推測だから本当のところは分からないわ。だけど、そういった可能性も考えておいた方がいいと思う」
「確かにそうかもな。少なくとも、実際によく分からない圧力がかかっているのは確実なんだ。今後も注意するに越したことはない」
とは言え、相手の正体についてはこれ以上考えても答えはでないだろう。
分かっているのは、俺たちが敵に回しているのはこんな圧力を平気でかけることができる存在だということだけだ。
どうやら俺たちは、知らない間にとんでもない奴と敵対していたみたいだ。
「ともかくまずは、この圧力を跳ねのける方法を見つけるしかないか。じゃないと、いくら新商品を作っても全く意味がなくなるからな」
「そうですね。でも、どうしましょう……」
気を取り直したようにきゅっと唇を引き締めたリーリアに見上げられて、俺は言葉に詰まる。
この街の店全部に圧力がかけられているのだとしたら、この街以外の場所で売るしかない。
そうなるとやっぱりノエラに頼むことになるだろうけど、果たして彼女だけに頼り切って良いのだろうか。
ありえないとは思うけど、彼女に依存しきってしまった段階でいきなり梯子を外されてしまったらどうにもならなくなってしまう。
今後ノエラにも圧力がかかる可能性だってゼロではないんだから、その場合のことも考えておかないと。
考えることが多すぎて頭がこんがらがってしまう。
そんな俺に助け舟を出すように、ドロシーが気だるげに声をかけてくる。
「とりあえず、君たちが今持っている商品はウチの店で買い取ってあげるよ」
「本当に!? ありがとう、ドロシー!」
今にも抱き着かんばかりに喜ぶリーリアをさらっと躱しながら、彼女は俺の差し出した商品をじっくりと眺めた。
「うん、いい出来ね。値段は、これくらいでどう? この値段で卸してもらえるなら、今後も定期的に仕入れたいんだけど」
「悪いけど、俺は値段の交渉はやってないんだ。リーリアと相談してくれ」
交渉ごとはリーリアに丸投げして、俺は再び思考の海に沈んでいく。
視界の端ではすっかり元気を取り戻したリーリアとドロシーのふたりが、カウンターを挟んで舌戦を繰り広げていた。
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