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第22話
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「アキラじゃないか。こんな所でなにをしてるんだ?」
その声のした方に視線を向けると、そこにはあの時の馬車で一緒だった男が立っていた。
「どうした? もしかして、やっぱりウチで働く気にでもなったか?」
「あはは、残念ながら違うよ。今日は別の用事で、ノエラさんに会いに来たんだ」
冗談っぽく笑う男に軽く笑顔を返しながら、今日来た用事を伝える。
「でも、アポを取ってなかったから守衛に止められちゃって」
「ははっ、お前らしいな。いいぜ、俺が案内してやるよ」
そう言った男は、守衛としばらく言葉を交わすと、どうやら話が付いたようで改めて俺たちに向き直った。
「よし、それじゃ行こうか。今の時間ならノエラも暇してるだろうし、お前が来てくれると喜ぶだろうさ」
男の先導で建物の中を歩いていくと、たくさんの従業員とすれ違う。
「やっぱり大企業だけあって、働いている人も多いんだな」
「まぁな。俺もまだ全員の顔と名前を覚えられないんだよな。ノエラは、全員覚えてるらしいけど」
「へぇ、そりゃあ凄いんだな」
と、そんな話をしているうちに男はなにかを思い出したように振り向く。
「そういえば、俺もアキラに自己紹介してなかったな。俺はジェリスっていうんだ、よろしくな」
差し出された手を握って握手をすると、ジェリスは俺の後ろについてきているリーリアにも声をかける。
「お嬢ちゃんもよろしくな。……っと、着いたぞ」
廊下をしばらく歩いて、俺たちはある扉の前に到着した。
他よりも少し立派なその扉をノックすると、中から微かに声が聞こえてくる。
「ノエラ、入るぞ」
ジェリスが扉を開けると、そこは広く立派な部屋だった。
「なんだ、ジェリスじゃないか。いったいどうしたんだい?」
「ノエラにお客さんを連れてきたよ。ほら、遠慮せずに入ってくれ」
促されて部屋の中に入ると、高級そうな椅子に座っているノエラと目が合った。
「あんた、アキラじゃないか! よく来てくれたね!」
嬉しそうに笑いながら立ち上がったノエラは、満面の笑みを浮かべながらソファの前まで移動する。
「ほら、とりあえず座っておくれよ。今お茶を用意させるから」
「なら、俺が用意してこよう。紅茶でいいか?」
そう言ってジェリスは部屋を出ていき、俺たちは促されるままにソファに座る。
正面のソファに座ったノエラは相変わらず楽しそうで、俺の隣にちょこんと座るリーリアに視線を向けた。
「それで、お嬢さんはどちらさま? もしかして、アキラの恋人かい?」
「こっ、恋人だなんてっ!」
「違うよ。俺が今お世話になっている工房の主人なんだ」
「なんだ、そうだったのかい。ウチで働くのは断ったのに、結局アキラは人の下で働いてるってわけだ」
なんだか少しトゲのある言い方に困惑していると、俺の代わりにリーリアが反論をする。
「違います。アキラさんには私が頼み込んでウチの工房に居てもらってるんです。どっちが上とか下とか、そういったものはないですから」
必死になって俺を庇うリーリアに、ノエラは面白そうに笑う。
「あはは、そんなに必死にならなくても大丈夫だよ。ちょっとした冗談なんだから」
それを聞いて恥ずかしくなったリーリアが顔を赤くして黙り込むと、少し笑いを抑えたノエラが彼女に声をかける。
「笑っちゃってごめんね。別にあんたをバカにするつもりはないんだよ。えっと……」
「あっ、自己紹介がまだでしたよね。私はリーリアって言います」
「そっか。リーリアは、素直ないい子だねぇ。アキラにはもったいないよ」
からかうように笑ったノエラさんに、俺は話を逸らすように本題を告げる。
「ところで、今日はノエラさんにお願いがあって会いに来たんです」
「お願いねぇ。まぁ、私にできることなら聞いてあげなくもないよ。もちろん、報酬は貰うけどね」
そう言って悪戯っぽく笑うノエラさんに笑みを返しながら、俺は荷物から一振りの剣を取り出した。
「これは?」
「俺が作った剣です。実は、これをノエラさんの商会の商品に加えてほしいんです」
「なるほど、商売の話だね。だったら、私も少し真面目にならなきゃ」
さっきまでの人懐っこい笑顔を収めたノエラさんは、一気に商売人の顔に変わる。
「それで、改めて聞くけどこれをどうして欲しいんだい?」
「実は、この街じゃほとんどの店で取引をしてもらえなくって。それで別の街で売りたいんだけど、工房には俺とリーリアの二人しかいないから定期的に納品することができないんだ」
「それで、ウチの商会を利用しようって考えたわけだね」
「うん、そういうこと。ノエラならいろんな街を回って商売しているし、その商品と一緒にウチの商品を運んでいってほしいんだ」
俺の言葉を聞いて、ノエラはおもむろに剣を手に取る。
角度を変えながら刀身を何度も確認して、やがて満足したように小さく頷いた。
「うん、良い品だ。これなら、確かに別の街に持って行っても高く売れるだろうね」
「だったら……」
「でも、さすがの私でも二つ返事でOKはできないよ。なんと言っても、社員の生活が懸かっているからね。適当な商売をして、信用を落とすわけにはいかないんだ」
「ああ、もちろん分かってるよ」
駄目でもともと、もしも上手くいけば助かると思ってやってきたのだ。
話を聞いてくれただけでも、感謝するべきだろう。
「それで、いったいこれをいくらで売るつもりだい?」
「こちらとしては1万ガルムくらいを考えています」
値段のことが分からない俺の代わりに、リーリアが質問に答える。
「なるほどね……。ちょっと待ってておくれ」
少し考え込んだノエラは、ちょうど紅茶を持って部屋に入ってきたジェリスに手招きをする。
「ジェリス、次に出発する馬車の積み荷はどれくらい余裕がある?」
「武具を入れるのなら、だいたい50本ほど積み込めると思うぞ」
ノエラの言いたいことを完全に理解しているようにジェリドが答え、その答えに満足した彼女は俺たちに向き直る。
その顔は満面の笑みを浮かべていて、そして彼女はゆっくりと口を開いた。
「この剣と同じ物を50本、来週までに用意してちょうだい。一本3万ガルムで買い取るよ」
その声のした方に視線を向けると、そこにはあの時の馬車で一緒だった男が立っていた。
「どうした? もしかして、やっぱりウチで働く気にでもなったか?」
「あはは、残念ながら違うよ。今日は別の用事で、ノエラさんに会いに来たんだ」
冗談っぽく笑う男に軽く笑顔を返しながら、今日来た用事を伝える。
「でも、アポを取ってなかったから守衛に止められちゃって」
「ははっ、お前らしいな。いいぜ、俺が案内してやるよ」
そう言った男は、守衛としばらく言葉を交わすと、どうやら話が付いたようで改めて俺たちに向き直った。
「よし、それじゃ行こうか。今の時間ならノエラも暇してるだろうし、お前が来てくれると喜ぶだろうさ」
男の先導で建物の中を歩いていくと、たくさんの従業員とすれ違う。
「やっぱり大企業だけあって、働いている人も多いんだな」
「まぁな。俺もまだ全員の顔と名前を覚えられないんだよな。ノエラは、全員覚えてるらしいけど」
「へぇ、そりゃあ凄いんだな」
と、そんな話をしているうちに男はなにかを思い出したように振り向く。
「そういえば、俺もアキラに自己紹介してなかったな。俺はジェリスっていうんだ、よろしくな」
差し出された手を握って握手をすると、ジェリスは俺の後ろについてきているリーリアにも声をかける。
「お嬢ちゃんもよろしくな。……っと、着いたぞ」
廊下をしばらく歩いて、俺たちはある扉の前に到着した。
他よりも少し立派なその扉をノックすると、中から微かに声が聞こえてくる。
「ノエラ、入るぞ」
ジェリスが扉を開けると、そこは広く立派な部屋だった。
「なんだ、ジェリスじゃないか。いったいどうしたんだい?」
「ノエラにお客さんを連れてきたよ。ほら、遠慮せずに入ってくれ」
促されて部屋の中に入ると、高級そうな椅子に座っているノエラと目が合った。
「あんた、アキラじゃないか! よく来てくれたね!」
嬉しそうに笑いながら立ち上がったノエラは、満面の笑みを浮かべながらソファの前まで移動する。
「ほら、とりあえず座っておくれよ。今お茶を用意させるから」
「なら、俺が用意してこよう。紅茶でいいか?」
そう言ってジェリスは部屋を出ていき、俺たちは促されるままにソファに座る。
正面のソファに座ったノエラは相変わらず楽しそうで、俺の隣にちょこんと座るリーリアに視線を向けた。
「それで、お嬢さんはどちらさま? もしかして、アキラの恋人かい?」
「こっ、恋人だなんてっ!」
「違うよ。俺が今お世話になっている工房の主人なんだ」
「なんだ、そうだったのかい。ウチで働くのは断ったのに、結局アキラは人の下で働いてるってわけだ」
なんだか少しトゲのある言い方に困惑していると、俺の代わりにリーリアが反論をする。
「違います。アキラさんには私が頼み込んでウチの工房に居てもらってるんです。どっちが上とか下とか、そういったものはないですから」
必死になって俺を庇うリーリアに、ノエラは面白そうに笑う。
「あはは、そんなに必死にならなくても大丈夫だよ。ちょっとした冗談なんだから」
それを聞いて恥ずかしくなったリーリアが顔を赤くして黙り込むと、少し笑いを抑えたノエラが彼女に声をかける。
「笑っちゃってごめんね。別にあんたをバカにするつもりはないんだよ。えっと……」
「あっ、自己紹介がまだでしたよね。私はリーリアって言います」
「そっか。リーリアは、素直ないい子だねぇ。アキラにはもったいないよ」
からかうように笑ったノエラさんに、俺は話を逸らすように本題を告げる。
「ところで、今日はノエラさんにお願いがあって会いに来たんです」
「お願いねぇ。まぁ、私にできることなら聞いてあげなくもないよ。もちろん、報酬は貰うけどね」
そう言って悪戯っぽく笑うノエラさんに笑みを返しながら、俺は荷物から一振りの剣を取り出した。
「これは?」
「俺が作った剣です。実は、これをノエラさんの商会の商品に加えてほしいんです」
「なるほど、商売の話だね。だったら、私も少し真面目にならなきゃ」
さっきまでの人懐っこい笑顔を収めたノエラさんは、一気に商売人の顔に変わる。
「それで、改めて聞くけどこれをどうして欲しいんだい?」
「実は、この街じゃほとんどの店で取引をしてもらえなくって。それで別の街で売りたいんだけど、工房には俺とリーリアの二人しかいないから定期的に納品することができないんだ」
「それで、ウチの商会を利用しようって考えたわけだね」
「うん、そういうこと。ノエラならいろんな街を回って商売しているし、その商品と一緒にウチの商品を運んでいってほしいんだ」
俺の言葉を聞いて、ノエラはおもむろに剣を手に取る。
角度を変えながら刀身を何度も確認して、やがて満足したように小さく頷いた。
「うん、良い品だ。これなら、確かに別の街に持って行っても高く売れるだろうね」
「だったら……」
「でも、さすがの私でも二つ返事でOKはできないよ。なんと言っても、社員の生活が懸かっているからね。適当な商売をして、信用を落とすわけにはいかないんだ」
「ああ、もちろん分かってるよ」
駄目でもともと、もしも上手くいけば助かると思ってやってきたのだ。
話を聞いてくれただけでも、感謝するべきだろう。
「それで、いったいこれをいくらで売るつもりだい?」
「こちらとしては1万ガルムくらいを考えています」
値段のことが分からない俺の代わりに、リーリアが質問に答える。
「なるほどね……。ちょっと待ってておくれ」
少し考え込んだノエラは、ちょうど紅茶を持って部屋に入ってきたジェリスに手招きをする。
「ジェリス、次に出発する馬車の積み荷はどれくらい余裕がある?」
「武具を入れるのなら、だいたい50本ほど積み込めると思うぞ」
ノエラの言いたいことを完全に理解しているようにジェリドが答え、その答えに満足した彼女は俺たちに向き直る。
その顔は満面の笑みを浮かべていて、そして彼女はゆっくりと口を開いた。
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