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行方不明
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日が傾いた時刻の住宅街。
日課の散歩に出かけた初老の谷垣五郎は、その先の三叉路でUターンして帰るつもりだった。
が、三叉路まで行った時、右側の道に曲がったすぐ先に、薄汚いばあさんがしゃがんでいるのが見えた。
どうかしました?
声をかけて近寄ろうとすると、ばあさんは俊敏な感じで立ち上がり、何も言わず、その姿からは想像もつかない軽い足取りで走り出した。
どこのばあさんや!
見ると、足元にパラパラと土が落ちていた。
ばあさんは、すごいスピードで遠ざかって行った。
はぁ~びっくりだ
なんだ?あのばばぁ
谷垣は、そのばあさんがどこまで走り去ったのか確かめようとしたが、もうその姿は見えなかった。
あの~ ちょっとすみません
白い軽自動車が通りかかり、窓ガラスを下ろして、60代くらいの男が谷垣に話しかけて来た。
汚れた小さなばあさん、見ませんでしたか?
はぁ、見ましたよ
たった今です
髪とか服とか、すごく汚れたばあさんが土をこぼしながらあっちに走って行きましたよ
小さなスコップ持ってました
え!あっちですね!
そうですか
どうもありがとうございます
はぁ、気をつけて
谷垣はそう言って白い軽自動車を見送った。
あのばあさん、何だったんだろう
何か異様なものを見たような気がしていた。
なんか、気味悪いな
さっさと帰ろう
誠と真由美、道で会った人にばあさんを見たと聞いて、その方向にしばらくクルマを走らせたけどその姿は見えない。
どこに消えたんや
たった今って言ってたな
まだそこらへんにいるはずや
住宅街を抜けると空き地や農地が多くなり、見通しがよく、右も左も気にしながら探したけど、数人の農作業をしている人が目に入るだけだ。
すみませ~ん
小柄なおばあさんを見ませんでしたか?
農作業の人は、腰を起こして首と片手を横に振るばかり。
しばらくあちこち走り回っていたが、それ以上何の情報もなく、辺りは薄暗くなって来た。
帰るか
家に戻っとるかもしれんで
また公園に埋まっとるかもね
ところが、家に戻りはしたが、家の前にも中にも、そして公園にも気配はなかった。
どこに消えた?
行方不明だな
どうする?
明日探すにしても、夜はまだ肌寒い。
低体温症とかで、どこかで死なれても困る。
一応警察に言っておいた方がいい?
う~ん、そうするしかないな
で、警察に行くことに。
警察署内、若い男性の警官が対応した。
あなたのお母様ですね
最後に見たのは?
きのうの夜です
晩ごはんを食べさせて…私たちが寝る時間もちゃんと家にいました
1人で家を出られたりするんですか?
はい、勝手に家を抜け出すことがあって…
夜間に出て行ったりも?
はい、探しに行くと、近所の公園にいたりして…
認知症でいらっしゃるんですか?
はい
それから、さらにあれこれ聞かれ、2人は警察を後にした。
さすがに土にもぐってたとは言えないよね?
うーん、さすがになあ
その夜もたよ子ばあさんは家に帰らなかった。
次の日、また2人は白い軽自動車でばあさんを探しに出かけることに。
そうだ、このきゅうり持って行こう
真由美が冷蔵庫からきゅうりを2本取り出した。
誠が好きなきゅうりもみを作ろうと思って買ってあったものだ。
なんや、かあさんに見せたら嫌がるで
だからさぁ
お守りよ
噛みつかれないように
なるほどね~
そして2人はまたたよ子ばあさんを探しに出かけた。
続く…
日課の散歩に出かけた初老の谷垣五郎は、その先の三叉路でUターンして帰るつもりだった。
が、三叉路まで行った時、右側の道に曲がったすぐ先に、薄汚いばあさんがしゃがんでいるのが見えた。
どうかしました?
声をかけて近寄ろうとすると、ばあさんは俊敏な感じで立ち上がり、何も言わず、その姿からは想像もつかない軽い足取りで走り出した。
どこのばあさんや!
見ると、足元にパラパラと土が落ちていた。
ばあさんは、すごいスピードで遠ざかって行った。
はぁ~びっくりだ
なんだ?あのばばぁ
谷垣は、そのばあさんがどこまで走り去ったのか確かめようとしたが、もうその姿は見えなかった。
あの~ ちょっとすみません
白い軽自動車が通りかかり、窓ガラスを下ろして、60代くらいの男が谷垣に話しかけて来た。
汚れた小さなばあさん、見ませんでしたか?
はぁ、見ましたよ
たった今です
髪とか服とか、すごく汚れたばあさんが土をこぼしながらあっちに走って行きましたよ
小さなスコップ持ってました
え!あっちですね!
そうですか
どうもありがとうございます
はぁ、気をつけて
谷垣はそう言って白い軽自動車を見送った。
あのばあさん、何だったんだろう
何か異様なものを見たような気がしていた。
なんか、気味悪いな
さっさと帰ろう
誠と真由美、道で会った人にばあさんを見たと聞いて、その方向にしばらくクルマを走らせたけどその姿は見えない。
どこに消えたんや
たった今って言ってたな
まだそこらへんにいるはずや
住宅街を抜けると空き地や農地が多くなり、見通しがよく、右も左も気にしながら探したけど、数人の農作業をしている人が目に入るだけだ。
すみませ~ん
小柄なおばあさんを見ませんでしたか?
農作業の人は、腰を起こして首と片手を横に振るばかり。
しばらくあちこち走り回っていたが、それ以上何の情報もなく、辺りは薄暗くなって来た。
帰るか
家に戻っとるかもしれんで
また公園に埋まっとるかもね
ところが、家に戻りはしたが、家の前にも中にも、そして公園にも気配はなかった。
どこに消えた?
行方不明だな
どうする?
明日探すにしても、夜はまだ肌寒い。
低体温症とかで、どこかで死なれても困る。
一応警察に言っておいた方がいい?
う~ん、そうするしかないな
で、警察に行くことに。
警察署内、若い男性の警官が対応した。
あなたのお母様ですね
最後に見たのは?
きのうの夜です
晩ごはんを食べさせて…私たちが寝る時間もちゃんと家にいました
1人で家を出られたりするんですか?
はい、勝手に家を抜け出すことがあって…
夜間に出て行ったりも?
はい、探しに行くと、近所の公園にいたりして…
認知症でいらっしゃるんですか?
はい
それから、さらにあれこれ聞かれ、2人は警察を後にした。
さすがに土にもぐってたとは言えないよね?
うーん、さすがになあ
その夜もたよ子ばあさんは家に帰らなかった。
次の日、また2人は白い軽自動車でばあさんを探しに出かけることに。
そうだ、このきゅうり持って行こう
真由美が冷蔵庫からきゅうりを2本取り出した。
誠が好きなきゅうりもみを作ろうと思って買ってあったものだ。
なんや、かあさんに見せたら嫌がるで
だからさぁ
お守りよ
噛みつかれないように
なるほどね~
そして2人はまたたよ子ばあさんを探しに出かけた。
続く…
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