ゾンビばばぁとその息子

歌あそべ

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森の中の墓地

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前日走った田舎道を走りながら…

ふと、誠が言った。
この道の先で左に曲がったらうちの墓やな
おやじが眠ってる

もしかしたら…

おかあさん、墓参りにでも?
お父さんに会いに行った?

そうかも
行ってみよう

それは誠が生れ育った集落にある墓地で、クルマでは行けない森の中にあった。
空き地にクルマを停め、森の中の細く荒れた道を行く。

年に一度は墓参りに行く場所だった。
こんな寂しい森の中の墓には入りたくないわ
と真由美が言うと、オレもや
と誠も言った。

お父さん、火葬じゃないって言ってたよね
そうや、昔のことやからな、村の若い衆が墓穴掘ってな、そのまま土葬や
え?誠さんも掘ったことあるの?
あるある
ほんとはな、年に一度しか掘ったらあかんねん
でも、それを知らなくてな
その年、村に何人も死人が出てな、それで掘ってたら今年何回めやって聞かれたんや
3回目やって言ったら、
あかんあかん、掘っていいのは年に1回だけや、祟られるで
って言われてな、他の人に代わってもらったんや

やだ怖い!
祟られなかった?
と真由美が不安な顔をしたら、
そんなことあるかいな、迷信やで
と誠は笑った。

嫌だな、ミミズやムカデのいる土の中に埋められるなんて、ゾッとするわ

もう死んで土に埋まったら、ミミズもムカデもお友だちやで
誠はそう言って、一緒に真由美も小さく笑ったけど、そこは昼間でも薄暗く、真由美からしたら、ただただ気味の悪い場所だった。

幾つかの立派な墓石とは少し離れた、墓地の片隅の土の中に誠の父は埋まっていた。
その上にしるしとして大き目の石が置かれていたけど、他にも幾つか石が置かれていて、もう父親の墓がどこなのか、誠の記憶は定かでなかった。
たよ子ばあさんにはわかるのかもしれない。

墓地の片隅に、土が少し盛り上がった場所があった。
墓地の端の方の森の茂みに近い辺り。
まさか?
そうかもな

近寄ってみると、一つのしるしの石のそばに土が盛り上がっており、その部分だけ雑草がなく、新しい盛り上がりに見えた。
きっとこの石やおやじの墓は
と誠が言った。

もしかしてここに?
おかあさんが?
真由美は、その石のそばにある土の盛り上がりを、ぽんぽんと叩いてみた。

反応はない。

ここで眠りたかったの?
おかあさん
今、土の中で安らかなの?

そうやな、きっと…
おやじと一緒に眠りたかったんやろ

夫婦でね
なんか健気やね、おかあさん

そうだ、このきゅうり置いて帰ろうよ
なんや、かあさんの苦手なやつやで
這い出てこないようにさぁ
なるほどな

2人は盛り上がったなだらかな土の山の前後に、1本ずつ持って来たきゅうりを置いた。

墓地の片隅に咲いていた、名前を知らない白い花を1輪摘んで、土の山の上に置いた。

帰ろうか
うん

帰り道、運転しながら誠がつぶやいた。
かあさん、もうすでに死んどったんかもしれんな
病院で、もうもたんと言われてたやろ
歩けるような状態じゃなかったはずや

うん、それなのにうそみたいに歩き出したりして…

本当はもうとっくに死んどったんや

とっくに…
うん、そうかも
あれは亡霊やったんやね
それで、ゆっくり眠る場所を探してたんかな

きっとそうやで

2人はなんだか不思議に安らいだ気持ちになっていた。


  続く…
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