ゾンビばばぁとその息子

歌あそべ

文字の大きさ
8 / 8

白い花

しおりを挟む
取り締まり室で、誠は、小さな机を挟んで先ほどの強面の中年の刑事と向かいあっていた。

お母さんがどこにいるか、あなたは知ってますね?
それであなた、お母さんをどこに隠しました?

いえ、隠してなど…

本当のことを言えるだろうか
誰が信じる?

あぁ、また疼き出した。
うう、うぅん
誠は唸り声をあげて、机の上に突っ伏した。

どうかしましたか?
しっかりしてくださいよ!
お気持ちはわかりますがね
本当のことを言っていただかないとね

その時、誠が刑事の腕を掴んだ。
助けて、助けてください…
唸るように誠は叫び、次の瞬間、刑事はああっ!
と大きな声をあげた。
何をした?!
噛みついたな、おまえ!

しかし、誠は机に突っぷしていて反応がない。
どうしました?
若い方の刑事が飛んできた。

どうしたんですか?
噛みつかれた刑事は、誠の胸ぐらを掴んでいた。
どういうつもりや、おまえ!

しかし誠は白目をむいていて、まともに話せる様子ではなかった。

何があった?
いったい何が?

床には血が流れ、血溜まりができつつあった。
見ると、誠のズボンには血の色に染まったシミができていて、若い刑事がそのズボンをまくり上げてみると、ふくらはぎの包帯が赤く染まり、そこから血が流れ落ちていた。

なんやおまえ、怪我しとったんか!
救急車を呼んでやれ

とりあえず、誠は担がれて、医務室に運ばれて行った。

誠に噛みつかれた刑事は
やってくれおったな!
と怒り狂っており、噛みつかれた手の甲をもう片方の手で押さえていたが、血がポタポタと落ちていた。
あいつ、精神状態がもうおかしなっとんな

それで、女の方はどうなんや!
吐いたんか?!

いや、手強いですわ
認知症がどうのこうのと…



夜も更けた、森の中の墓地。

満月の夜である。

たよ子ばあさんが埋まった土の盛り上がりの周りには、ミミズやムカデが蠢いていた。

2本のきゅうりに、土の中から這い出したミミズやムカデや、虫たちが群がり、きゅうりをむさぼり食っていた。

やがてきゅうりはあとかたもなく食い尽くされてしまった。

その時、土の盛り上がりがかすかに動いた。
ぱらぱらと盛り上がりの頂上から土が流れ落ち…

森の木立の隙間から月の光が差し込んでいた。

盛り上がった土の中から、すくっと細い腕が伸び出て来た。
そして、土の山が崩れて…

むくむくと、人間ではないナニモノかが姿を現した。

暗闇の森の中、スポットライトのように差し込んだ月明かりが、そのナニモノかを浮かび上がらせた。

それは、土にまみれたまま歩き出そうとしていた。
土と、ミミズと、ムカデたちを纏ったまま。

頭の上に
1輪の白い花を乗せて。


   …終…
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

処理中です...