王子様を放送します

竹 美津

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本編

吟遊詩人の家族事情

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ロテュスも一緒でいい?と聞かれて、エルフのロテュス王子は残念そうに。
「心惹かれるお誘いですけど、エステの皆さんとお仕事しながら、お昼、食べますね。テレビ見ながら応援してます!」
名残惜しく、うふっと竜樹の腕にギュッとして、エルフのロテュス王子は転移で帰って行った。
あら、ふられちゃった。

まあ、ご飯だ、ご飯。
子供達のお腹は待ったなしだし、ひとまずドゥアーの前向きな気持ちも、少しは何とかなったかな、という所。
予定では、出場者達にチームワイルドウルフがインタビューしてから、テレビ、ラジオスタッフもお昼休憩だったけれど、時間も過ぎてきているし、食べながら和やかにお話しようとなった。じゃないとスタッフがご飯抜きになる。カメラは交代で回しっぱなし。

眠りのタイラスの母、ミモザ夫人と、その婚約者ポムドゥテール嬢の母ラシーヌのお母さんズが、なんとも歌いたい話も、ゆっくりここで食べながら。まずは休憩、何はなくとも休憩、だからミモザ夫人、そんなに赤く頬染めて切迫詰まった顔しないで、落ち着いて。

竜樹が宥めて、ミモザ夫人、ラシーヌ母さん達もその場に混ざってお昼食べ。

関係者席とオーケストラピット、ステージの間には、幾分空き空間がある。そこに折りたたみの椅子を、出張お助け侍従さんが用意して、3王子やチームワイルドウルフ達が、向かい合わせになりながらお弁当を。

歌の競演会出場者達は自由に出店のご飯などを食べに行っても良かったのだけれど、できれば主催者側で用意したお弁当を食べてもらって。出歩いて帰って来られなくなる、などの不測の事態に備えて。歌い終わった者も、まだの者も、今は1番前の、関係者席で各々お弁当を食べる。

「お飲み物はこちらですよ。お代わり要りませんか?」
すっと身のこなしが端正な侍従さん達の笑顔に、貴族出身の出場者も、吟遊詩人達も、ふっと気を抜いて。あちこち飲み物をもらっている。
果実水、温かい紅茶、柑橘の蜂蜜湯。
お酒は?と聞いたお茶目な吟遊詩人もいたけれど、競演会が終わるまでは我慢の子。

「ぼくたちのおべんとう、はんばーぐはいってる!」
ニリヤが、お弁当の蓋をあけてまず一声。やっぱりお弁当にはハンバーグでしょ。
「洋風の幕の内弁当、かな。ハンバーグ大好きだろ?」

どうかなどうかな。竜樹は今回も力を入れてお弁当を手配した。お弁当を考えた時、幕の内にしよう!と決めて、調べていたら松花堂弁当も出てきた。美味しそうな響きに、ちょこっと説明を読むと、十字に切った箱にお皿が4つ入って、それぞれ懐石のように豪華なものになるので、ちょっとここで食べるには仰々しすぎる。そして子供ウケはどうか、とも考え、やっぱり洋風幕の内に。
松花堂弁当と幕の内の違いは、松花堂の方が豪華、おもてなし、で合ってる。

ニリヤはお弁当から顔を上げて、ししょうに、ニコニコニンニンとお返事。
「うん!だいすき!」

お弁当箱も、また発注して作ってもらった。仕切りが細かくついていて、小さなおかずをちょこちょこ、色々食べられる。良くある黒に朱の塗りではなくて、白木で、だけどそれが清潔感があって、木の匂いも美味しそうなのだ。

デミグラスのハンバーグ。ポテトサラダ。ナポリタン。甘い卵焼き。エビフライ。サイコロステーキ2こ。ちょっと箸休めに、パプリカのピクルス。人参とドゥ芋、根菜のグラッセ。ブロッコリーのコーンマヨ。干しあんずと切ったりんごのヨーグルトあえ。
お箸だったりフォークだったりするけれど、皆笑顔で、いただきま~す。

とことことっ、と、モグモグハンバーグから食べているニリヤの所に、お弁当も持たずに子虎妹のエンリちゃんがやってきた。
? とはてなのニリヤだったけれど、エンリちゃんは、お手てを、もじもじ合わせてこねくりながら、エへ、と笑い。くるりとニリヤに背中を見せて、抱っこねだるかと思いきや、すとん、ペタンと足元に座って、後ろ頭をニリヤに寄っかかって懐いた。

エンリとアルノワおにーたのお家からの虎侍女、スープルが、「エンリ様、床などに、あら、あらら!」と焦っていたが。
竜樹は、このくらいの子供が床と仲良しなのは、あるある、と余裕の表情で。

「お。好かれたねぇニリヤ。エンリちゃん、どした。ニリヤがいいの?」
スープルからエンリちゃん用の小さなお弁当箱を受け取って、しゃがんで、撫でこしてやる。
子虎お耳が、コクン、と頷く。ニリヤの、折りたたみ椅子から、プランと足がつかないのに、エンリちゃんの小さなお手てが、ブランコに乗るように両脇、握って。

「いしょ、たべるでつ。ニリヤでんか、なかよし、でつ!」
照れて、ニヘニヘしながら、お手てがニリヤの足、ズボンをギュッとする。

もぐ、とブロッコリーコーンマヨを食べて、ニリヤはお目々をぱしぱし。
「なかよし。そっか。おてて、つないだもんね。よるに。」
「うん、でつ!いしょ、おうちどこやー、したでつよ。」
ねー、とお顔を上と下で見合わせて、ムフフフ、と笑う2人は何だか意気投合。
いつの間に仲良くなったんだ?とおにーたのアルノワは、虎お耳をひこ、と外側に向けながらエビフライをパクリ。
虎侍女スープルが、あわあわ焦るのを、大丈夫、ここで食べさせてあげて、と竜樹がとりなして、エンリちゃんはご機嫌に、ニリヤの足に挟まれて、ふんふん頭を振りながら、先が丸いフォークを持ってお弁当。
パカリと開けたお弁当は、おかずをそれぞれ少なめにしたミニサイズで、その小ささが、こんだけしか食べないんかい!とツッコミたいくらい。
グサリ、フォークでハンバーグ。
あーん、のお口、デミグラスが口端に付くが、気にしな~い。
にっこ、にっこ。

「可愛いわねぇ。ウチの子の小ちゃい時を思い出すわー。」
吟遊詩人の、華やぎのアラシド。迫力ある甘い低音で午前中に歌い終わった、ふくっと体格の良いお姉さまが、お弁当をもぐ、と口止めて、目を細めている。

「アラシドはんは、もぐ、ごくん。お子さんがいたんですね。」
竜樹もパプリカをモグモグしつつ。

「ええ、1人男の子がいるんですよ。旦那とこの会場で見てくれてます。今頃ご飯かなぁ。」
えへへ、とゴマを振ったご飯を、フォークで口に入れる。

「えっ、この会場にいるの。じゃあ一緒に食べられなくて、悪かったねぇ。来年は、そういうのも考えようか。」

いえいえ!色々手厚くて、ありがたいですよ!とアラシドは手を振って。

「アラシド•••さん。すまない、歌の競演会では、皆、さん付けで呼ぶのだったな。吟遊詩人は、旅をするのだろう?歌いながら。それで、どうやって、けっこんして子供を産んだのだ?」
食べながらも、お仕事忘れてません。チームワイルドウルフのリーダー、ファング王太子。

「そうだよね、言われてみれば不思議です。吟遊詩人たちは、どうやって家族と暮らすのですか?」
しっかりした熊少年、ルトランが、上品ながら既に半分も、お弁当を食べ終わって。

吟遊詩人アラシドは、仲間の吟遊詩人達と目配せをして、ちょっと照れながら。
「私は旅をしながら、遠くへ行ったり王都に戻ったりして歌ってたの。王都の時に旦那と知り合ったのよ。話し合って、温かい時期は私は旅を。冬の寒い時期は王都に戻って一緒に暮らそう、ってしたの。農村なんか、寒い地方の出稼ぎと、逆になるわね。」

「でかせぎ、なあに?」
垂れ耳兎弟のルルンが、はてな?と首を傾げる。

「お家を離れていっとき別の場所に働きに行くことよ。ワイルドウルフも、他のお国に働きに行ったりしてるでしょう、大人達が、工事や冒険者なんかの、身体を使うお仕事で。歌ってても、良く会うわよ、獣人の皆に。」

「うむ!ワイルドウルフは、他国からのお金をそうやって稼いでいるのだ!季節で、お国と他国を行ったり来たりするのだよな。」
ファング王太子とアルディ王子の兄弟は、うんうんとお勉強したり見聞きした事を思い出す。

「寒い時期しか、子供と一緒しないの?」
垂れ耳兎姉ラランが、寂しくなあい?と眉を下げる。

「そうねえ。寂しいな、って思う事も、いっぱいあるけどね。妊娠して、ある程度子供が大きくなるまでは、旅を控えてたんだけど、私は旅して歌わないと何となく調子出ないし。お金も、旦那と私とで稼いでみようか、子育ての為にも、老後の為にも、ってなってね。冒険者組合で、お金、送金できるじゃない?」

「吟遊詩人って、そんなに稼げるの?」
馬獣人ポニテのシュヴァが、ウマウマ卵焼きを口に。

「そりゃ人によるわね。私の場合は、母から継いだ、毎年行ってたあちこちの歌い場があってね。お祭りや、行事も知ってるから、そこそこ稼ぎがあるのよ。」
吟遊詩人は情報を街に伝える者。それを良く使えるかどうかが、歌の才能とまた別に、稼ぎの差となって表れるのだろう。

「子供、何歳なの?」
獅子少年クリニエも、寂しいかもしれない子供が気になるようだ。

「今12歳よ。8歳の時くらいから、吟遊詩人の旅に出ているんだけど、冬は一緒にいられるから、寒いけど嬉しい、って言ってくれるわ。歌と旅の才能は、息子は継がなかったっぽいから、旦那は宝飾の職人をしてるんだけど、そっちを習っているわね。夫に似て、器用なの。私がいない季節も多いから、家事も良くできる、頼り甲斐のある素敵な旦那に、息子なのよ。」

へえぇ~、と一同感心である。
確かに、1年の大半、妻を自由に旅に出す事ができる甲斐性のある男性なのだろう。

「他の吟遊詩人たちは、どんな感じ?男性達もさ。」
オランネージュ王子が、気になるなぁ、って聞くと。

1人の青年吟遊詩人が。
あー。
あ~。
言いづらそう。

「そのぅ。何となくいい感じになったりしてる女の子が、何人かぁ街ごとにぃ。」
うん、無責任っぷり恋多き男よ。吟遊詩人らしい自由さである。
ニリヤの隣、ネクター王子が、んん?ん!ってなっている。

「俺はカナン地方に家があって、妻と子供が待ってるから、アラシドと同じ感じだな。」
「家族は誰もいないね。全くの自由。」
「私は2年か3年毎くらいに、実家に帰るわよ。」

色々、色々なのである。

竜樹が、ヨーグルトに良く漬かった干しアンズを食べながら。
「ご家族がいない吟遊詩人達も、お世話になった師匠とか、この人には歌の競演会聞いて欲しいな、っていう知り合い、恩ある人とか友達が、いたりしますかね。」

言われてみればねぇ。
「腹壊して寝込んだ時に拾ってくれた親父とか、聞いて欲しいかなー。」
「すごくお世話になった商店の人、いるー。」
「ちっさな村で泊めてくれた、ばあさま。」
全く誰も人と、心傾ける関わり合いのない吟遊詩人は、いないようだ。
「あぁ~、そういう人も呼んであげられたら良かったかなぁ。吟遊詩人達や、貴族の歌い手さん達の、いわば晴れ舞台だよね、歌の競演会。きっとーーー。」

「竜樹様。」
吟遊詩人の、いつか竜樹のギフトの歌を作って歌ってくれたロペラ青年、ヒョロリとしたつり目美人の彼が、ニコ、と笑って。
「そうですね、晴れ舞台なんです、歌の競演会。吟遊詩人って、一つ所に居なくて、その場で留まる人より責任がない、気楽な感じ、時々軽く見られがちなんですけどね。そんな俺たち、すごく今日晴れがましいんですよ。会場でじゃなくても、テレビで、広場の大画面で、ラジオで。関わった人が、聞いてくれるだけで、もう、胸いっぱいに嬉しくてーーー。」

あの街の彼。この街の彼女。
あのおばさん。ご飯を沢山食べさせてくれたっけな。
ずっと後をつけて興味津々に聞いてくれた、あの子も見てるかな。

アラシドも。
「私も、息子が近所の友達に揶揄われたりしてたみたい。お前の母ちゃん、今どこにいんだ、フラフラ遊んでるんだろ、って。でも、歌の競演会で選ばれたからさ。すっごく自慢してるみたいよ!どうだ!俺の母ちゃん、どうだ!って。」
うふふ、と嬉しそうに笑う。

「そっかぁ。」
認められる。それは、誰にでも必要な事だ。


「だからなのです。」

ミモザ夫人が、お弁当を食べ終わって、箱の蓋を被せながら。
「竜樹様。大丈夫です、私たち、落ち着きましてよ。だから、お話させて下さいな。」

「はい、伺いましょう。ドゥアーさんを勇気づけたい、のですっけ?」

「ええ、ええ。吟遊詩人の方々、貴族の歌い手の方々、どちらもですけれど、ドゥアーさんを見ていて、ラシーヌ様が、まず思ったのです。そんなに怖い思いを乗り越えて、そして色々な思いを乗せて、舞台で力の限り歌って下さる皆様。私たちの、呪いをかけられたタイラスと、ラシーヌ様の娘さん、ポムドゥテール嬢の未来の為だけに歌っているのではない、って分かってはいますけれど、それでも。私共家族は、歌い手さん頼みで、何も出来ず、ただ祈るばかりで。」

ラシーヌ母は、娘のポムドゥテールと夫のベッシュのお世話で。流動食を管で胃に入れた後、少し慣らしにスープをお匙でもらって満足して、そうして、爛々と戦う目をしている。

「だから、だから。ラシーヌ様と、余興でいいんです。お昼の休憩の時で、一時で、構わないんです。私たちも、そのステージの圧を、少しでも味わって、戦って、そうして、その姿を歌い手さん達に見てもらいたい、ドゥアーさんの、歌い手さんの、力になれれば。もっと自分なら上手くできる、って思ったので構わない!私たち、歌の上手くない素人でも。戦う姿を、見せられるって。」

戦う姿を見せる。
お母さんは、いつだって子供達の為に戦っているのだ。



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