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66.二人の間に隠し事はない
しおりを挟む~人通りの少ない裏庭にて~
「マリアが怪しい?」
「しーっ。レイズ様、声が大きいです」
これ内緒話だっての。
確かに周囲に人気はないけど、こういうのはコソコソとやり取りするのがセオリーだろうに。
「知るかよ」
この男め。
『二人で話がしたい』ってお願いしたとおり、タイミングを見計らってここまで来てくれた時は少し見直したのに。
「大体お前、俺をなんだと思ってるんだ。マリアのパートナーだぞ」
「知ってます」
紹介されたからね。
「知っててそのパートナーに『お前のパートナー怪しいぞ』って言うか、普通」
「言いませんね」
「だろ」
そんなことくらい私にだって分かってるし。
「じゃあなんでそんな事をあえて俺に言ったんだよ」
「……面倒だからです」
「は?」
「いちいち一人で悩んだり、遠回りして物事の裏を取ったり、そういう展開を挟むのが面倒だからです」
「は!?」
レイズ様、やっぱり声がちょっとうるさい。
「何だその自己中心的で頭の悪そうな理由」
「いやむしろ頭が良いって言ってくださいよ」
「どこが」
「本来ならば何十話にかけて行われるかもしれない展開を一話に収めようとしてるところです」
「何言ってんだお前」
真顔でそう言われた。
酷いな、この画期的な提案が理解出来ないなんて。
だってさ、普通ならこの後もっと恐ろしいトラブルが起こって、それに巻き込まれて、そこから事件の真相を暴くためにあちこち奔走して、犯人を追い詰めて、やっとのことでハッピーエンド、とかそういう展開が繰り広げられるよ。そのためにギスギスした対立とか発生しちゃうよ。面倒じゃん、そんなの。
だからあれだよ、最初から事件の真相っていうゴールと最終的になるであろう味方を用意したんだよ。
「分からないならいいです」
「あ、投げやがったな」
だって言ってもどうせ理解してくれなさそうなんだもん。
「とりあえずマリアさんが怪しい人物ってことだけご理解ください」
「強引過ぎるだろ」
すまんね。
「……まあいい。で、怪しいと思う根拠は」
「あれっ? 今ので理解してくれるんですか」
レイズ様にしては随分素直。
どうした、変な物でも食べたか?
「するか馬鹿。でもお前を放置して勝手に変なことされても腹立つから話は聞くんだよ」
あ、よかった。いつものレイズ様だ。
「変なことはしないですよぉ」
「そんなこと言って、俺の景品を偽物とすり替えた馬鹿がいたからな」
おや、まだアリスちゃん事件を根に持っていらっしゃる。
でもそもそもあれはレイズ様がアリスちゃんの形見を盗まなければ起きなかった事件だし。
「いやー、お互い様でしょう」
「黙れ」
前から思ってたけど、苦楽を共に過ごした主人とメイドって、字面だけみれば結構いい感じになりそうなのに、なんでうちはこうなんだろう。
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