うちの悪役令息が追放されたので、今日から共闘して一発逆転狙うことにしました

椿谷あずる

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147.いえす家です

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「家だよな」
「家です」

 私達二人は目の前に広がる見たまんまの光景を、それはもうなんの脚色も無しに見たまんま口にした。だって、家だし。
 問題は「なぜ家なのか?」ってところだ。
 ちょっと前まで洞窟だったはずなのに。

「いやいやおかしいだろ」

 疑問を抱いているのは私だけではなく、同じように感じたらしいレイズ様も私が思ったことを同じように口にした。

「洞窟だったのに」

 ですよね。

「なんでだよ……」

 トントントンと組んだ腕を人差し指で叩きながら、何かを考えているレイズ様。
 チラッと私を見たかと思うと、再び口を開いた。

「お前さ」
「なんでしょう」

 その視線はぴたりと私をとらえた。

「何か料理に変な物入れたな?」
「は?」

 世界が静止したかのような微妙な間。
 私が、変な物を……入れた?
 この私がメイドとしてレイズ様のお世話をするのをいいことに、料理に幻覚剤でも仕込んでいたと? 犯人は、私? 確かに、時々起こる殺意は十分な動機になり得る。

「そっそんな、まさか」

 ミステリーの犯人役も真っ青のリアクション。
 私はわなわなと震えて下を向いた。
 そして一言。

「……って、そんな訳ないでしょう」

 私は再び顔を上げた。

「大体私、追放されてから一度もレイズ様に料理なんて作ってませんし」

 メイドの仕事とはなんなのだろう。そう聞かれたら逆に困るが、でもこれだけははっきりしている。私は料理に盛る機会などない。
 それを聞いたレイズ様は鼻で笑った。

「ま、自信満々で言うことでも無いけどな」
「私がそう返答するの分かってて言ったくせに」
「まあな」

 性格が悪い奴だ。

「とりあえず、変な物を食べたわけじゃないにせよ、私達は何かの罠にかかっていた可能性はありますね」
「その辺、お前の魔法に近いんじゃないのか?」
「偽装魔法ですか」

 偽装魔法。確かに集団に偽りの姿を見せるという点では同じかもしれないけど。

「多分違うと思いますよ、例えばこの広さとか」

 そう言って私はぐるりと部屋の中を観察した。

「偽装魔法はあくまでその物を別の物に偽る魔法です。でも今回の場合、家が洞窟になっていた。広さから大きさから何もかも違うのに偽装なんて出来ませんよ」

 少なくとも私は洞窟を10分は探索して歩いた。けれど、この家は端から端まで歩いても30秒もかからない。

「だから偽装魔法じゃなくて、もっと別の力が働いたんでしょうね」

 それが何かは今のところ分からないけど。

「大体、同じ場所にいたのに私とレイズ様が出会えなかったってのも不思議ですしね」
「それもそうだな」

 これは家の外に出て判明したことであるが、外には追放してすぐ私達が二人で休憩した形跡がそのまま残っていた。ということは、私達はずっと近場で互いに遭遇出来ずにウロウロしていたことになる。

「気持ち悪いな」
「気持ち悪いですね」

 家具も食器も何も無い、まるで引っ越しする前の空き部屋のような家の中を眺めながら、私達は珍しく同じことを口にした。

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