うちの悪役令息が追放されたので、今日から共闘して一発逆転狙うことにしました

椿谷あずる

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152.敵モンスターより極悪な男がいる

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「ここに」

 ……え。
 家。うん、確かにここは家ではあるけど。

「いやここは、敵のアジトじゃないですか」

 よっぽど記憶の抜け落ちた馬鹿でない限り、そう思うのは自然なことだろう。ですよね、レイズ様。

「そいつらは全員出て行っただろ」
「出ていきましたね」
「じゃあ今、この家に所有者は」
「いない…………はあぁ!?」

 それは確かにそうだけど!
 この場合、出て行ったってのは留守的なものであって、完全退去的なものでは無いと思うんだ。そこに居座るってどんな神経してんだよ、この人。

「……レ、レイズ様」
「なんだ」
「一応聞きますが、彼らが戻ってきたらどうするんです?」
「決まってるだろ」
「と言いますと?」
「また追い返せばいい」
「……」

 うっわ出たよ、自己中発言。
 もうどっちが悪人だ。

「でっ、でもほら」

 私はめげない。
 だってここで生活するのと、お嬢様の誘いに乗るのじゃ生活水準が大きく違うからね。

「家があってもそれだけで生活するのって難しくありません? わ、私達、無一文ですし!」

 だからそんな盗賊みたいな事は止めて、大人しくお嬢様のヒモになろうぜ。

「この家にある宝箱とか探せば、奴らが貯めてたものとか出てくるだろ。それを使え」
「まごうことなき悪人じゃないですか」
「なんとでも言え」

 グレーってレベルじゃない。黒だ、黒。真っ黒に染まった極悪人。

「……」
「なんだよ」
「いえ」

 少しは良心が痛まないのだろうか。いや、この男はそもそも性根が悪役令息みたいなもんだから、そんな心持ち合わせていないのか。むしろ悪側の方が馴染みやすいのかもしれない。

「いいんだよ。どうせ元々あいつらモンスターが善良な民から奪った金だろ」

 じゃあ善良な民に返してやれよ。

「分からないじゃないですか。汗水流して稼いだお金かもしれないのに」
「そんな事する奴らなら、最初から人間なんて襲わない」
「ぐっ、確かに」

 妙に納得してしまった。駄目だ、このままじゃ言い負ける。
 というか私もココネ嬢の申し出が無かったら、普通にレイズ様と同じ行動取りそうだしな。いや、私はレイズ様みたいに人でなしだから占拠するんじゃなくて、やむおえず拝借するってだけだけど。

「おい」
「は、はい」
「話は決まったな」
「んん……」

 この様子じゃレイズ様はこれ以上、意志を曲げないな。くっそう、ここは私が腹をくくるしかないのか。

「分かりましたよぉ……」

 さようなら、私の無償のご招待ライフ。

「ココネお嬢様」
「はい」

 無垢な少女の瞳が胸に刺さる。

「申し訳ありません。この度のお申し出、お気持ちだけ頂戴いたします」

 こうして私は自ら地獄の道へと舵を切ったのであった。
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