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無題
45.永遠のうたたね⑦
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次の日の朝、目覚ましに気付かなくて、起きたのは普段より40分も遅い時間だった。
「うわっ、マジかよ……!」
顔だけ洗って寮を飛び出す。タイムカードを切ったのは始業の1 分前でなんとかセーフだった。
ゼーゼー肩で息をしていると、龍崎さんがやってきた。
「どうしたんだよ、ギリギリじゃん。体調悪いのか?」
「あっ……目覚まし気づかなくて……寝坊っす」
叱られると思っていたのに、意外にも……ってのは失礼か。
昨日いろいろあったから、普通に心配してくれた。……まぁ原因はこの人なんだけど。
「だから全然、大丈夫です」
そう言って一歩距離を取った。
シャワーを浴びてないからこれ以上接近されるとヤバい。
……ガキの頃を思い出す。
何がキツイって事実だって自覚してたことだ。風呂にも入れてもらえず何日も同じ服を着て……普通じゃないし汚い。
でも、自分じゃどうしようもなかった。体が成長すると体臭も出てくるし……。
存在するだけで迷惑だって言われてたけど、龍崎さんにも言われたらさすがに落ち込む。
クソ、朝っぱらからイヤなこと思い出したな。
その日は一日、誰とも近づかないようにして過ごした。泥棒扱いされてるせいで視線は冷たかったけど、前からこんなもんだった気がする。
俺と龍崎さんが真相を知っていればそれでよかった。
仕事を終えて、ロッカーから出てきたところでトイレに来た龍崎さんに声をかけられた。
「なんか今日、よそよそしかったじゃん。なんで?」
「あー……風呂入ってなくて……臭かったから、あはは」
「なんだそれ」
急に聞かれたからつい本当のことを答えてしまった。やっちまったと心の中で舌打ちをする。絶対「汚えな」って笑われると思ったけど、
龍崎さんは少し間を置いてボソッと呟いた。
「お前さ……俺のこと、好きじゃないよな」
そのまま背を向けて作業場に戻っていく。
……え、え、え。どういう意味だ、それ。
俺はその場に立ち尽くした。
帰り道も、シャワーを浴びてる時も、布団に潜ってる時も眠れなくて、頭の中は龍崎さんでいっぱいだった。
「お前さ……俺のこと、好きじゃないよな」
あの一言がずっと耳に残ってる。
……違う。好きだから、俺は龍崎さんについてってるのに。どんなつらいことも耐えてるのに。
どこが悪くて、何が足りなくてそんな風に思われたんだろう……。
くだらねぇ恋愛ごっこはしないって言ってたくせに「好き」って言葉を使うのはズルい。
心がかき乱されて、なかなか寝つけなかった。
「うわっ、マジかよ……!」
顔だけ洗って寮を飛び出す。タイムカードを切ったのは始業の1 分前でなんとかセーフだった。
ゼーゼー肩で息をしていると、龍崎さんがやってきた。
「どうしたんだよ、ギリギリじゃん。体調悪いのか?」
「あっ……目覚まし気づかなくて……寝坊っす」
叱られると思っていたのに、意外にも……ってのは失礼か。
昨日いろいろあったから、普通に心配してくれた。……まぁ原因はこの人なんだけど。
「だから全然、大丈夫です」
そう言って一歩距離を取った。
シャワーを浴びてないからこれ以上接近されるとヤバい。
……ガキの頃を思い出す。
何がキツイって事実だって自覚してたことだ。風呂にも入れてもらえず何日も同じ服を着て……普通じゃないし汚い。
でも、自分じゃどうしようもなかった。体が成長すると体臭も出てくるし……。
存在するだけで迷惑だって言われてたけど、龍崎さんにも言われたらさすがに落ち込む。
クソ、朝っぱらからイヤなこと思い出したな。
その日は一日、誰とも近づかないようにして過ごした。泥棒扱いされてるせいで視線は冷たかったけど、前からこんなもんだった気がする。
俺と龍崎さんが真相を知っていればそれでよかった。
仕事を終えて、ロッカーから出てきたところでトイレに来た龍崎さんに声をかけられた。
「なんか今日、よそよそしかったじゃん。なんで?」
「あー……風呂入ってなくて……臭かったから、あはは」
「なんだそれ」
急に聞かれたからつい本当のことを答えてしまった。やっちまったと心の中で舌打ちをする。絶対「汚えな」って笑われると思ったけど、
龍崎さんは少し間を置いてボソッと呟いた。
「お前さ……俺のこと、好きじゃないよな」
そのまま背を向けて作業場に戻っていく。
……え、え、え。どういう意味だ、それ。
俺はその場に立ち尽くした。
帰り道も、シャワーを浴びてる時も、布団に潜ってる時も眠れなくて、頭の中は龍崎さんでいっぱいだった。
「お前さ……俺のこと、好きじゃないよな」
あの一言がずっと耳に残ってる。
……違う。好きだから、俺は龍崎さんについてってるのに。どんなつらいことも耐えてるのに。
どこが悪くて、何が足りなくてそんな風に思われたんだろう……。
くだらねぇ恋愛ごっこはしないって言ってたくせに「好き」って言葉を使うのはズルい。
心がかき乱されて、なかなか寝つけなかった。
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