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時は遡り
しおりを挟むそれは、この事件の数時間前に遡る。
膝をついている私の首に奴隷が填められる隷属の首輪がつけられていた。
この首輪には主の命を害するとお仕置きが発生する魔法がかけられている。
さらに首輪の魔法石が填められていれば数によってその数だけ具体的な命令を無理矢理にさせる事ができるのだけど、私についているのは魔法石が3つ。
「あら、安いのを買ったのだけど似合ってるじゃない?」
「姫様。まだ主を指定していないので噛まれますよ。」
「ふふふ。猿轡されているから大丈夫よ。」
目の前には金糸の髪にエメラルド色の瞳の嘲笑うかのような態度の女と、それに寄り添う赤茶の端正な顔の男。
そう、この二人が例の姫様とその従者。
そして、私に隷属の首輪を取り付けている黒髪の筋肉男が従者その2である。
二人はこの女のお気に入りで護衛もかねているからか、国の大会で好成績を納める程度には強い。
そんな従者が、うやうやしく女の手を取ると私の首筋、もとい首輪にその指を近づけた。首輪の一点から蔓のようなものが伸びて魔力の登録がされると、その時点から主様に危害を加えることが出来なくなる。
淡い光を発して登録の完了が示されると、姫様は歪んだ笑みを浮かべて、私を蹴りつけた。
容赦のないその蹴りに身体は倒れ、痛みに苦酸っぱい何かが込み上げてきて猿轡のままえずいていると、そんな私の顔をヒールで踏みつけてきた。
「お前には名誉な役割をあげるわ。」
「なんとも、姫様はお優しい。」
「でしょ?まずは『時間までお祈りすると偽って私達の逃走時間を稼ぎなさい。』次に『時間になったら伝言を伝えなさい。わたくし、貴方達の様な野蛮な所に嫁ぎたくありませんの。なので、死んでいただけません?』ってね。」
きゃははと嗤う姫様に、それを持て囃す男達。どことなく淀んだ空気をかもしだしている。
盛大に嗤ったあと、私の抵抗が無いことにつまらなさそうにため息をついて、顔からの踏みつけをやめたかと思えば勢い良く身体を従者その2によって起こされた。
この際には何本かの髪の束も抜けて悲鳴を上げかけたがどうにか何も発することはしなかった。
「姫様、この女、生意気にも髪飾りをしていますが取り上げますか?」
「そんな女がつけてるのなんて興味ないわ。しかも地味で私には似合わないでしょ?」
「確かに。これは失礼を。」
「良いわよ。貴方の失言なら許してあげる。」
男の謝罪に姫様は満足そうに嗤うと、私の片手を取り従者に小さな手に隠せるぐらいの刃物を持ってこさせて握らせた。
怪しい輝きを持つそれをしっかりと握らせると、歪んだ笑みを向けて最後の命令を下す。
「『この手でアイツを…イェシル・レオ・ウインターを刺しなさい。』」
「なっ!」
最後の命令と共に猿轡が外され、かすれた声で最後の命令に驚きを示した。
よりによって、これから嫁ぐ予定だった男をしかも獣人の国の王族を害せと言うのか。
「ひ、姫様は戦争がしたいのですか!」
「…うるさいわね。『黙りなさい。』」
「!…… ……。」
簡単な命令を首輪が受け付けたのか、声を発しようとするととてつもない痛みが身体中に発生する。魔法石による命令ではないため強制力はないから我慢すれば話せなくはなさそうだが今の身体の状態ではなかなかうまくいかない。
姫様は普段から整えさせている爪をうっとりと眺めたあと、その爪に歯を立てた。
「私ってあの獣臭い獣人が大嫌いなの。なのにあの女のせいで嫁ぐことになって赦さない。」
赦さない赦さないと呟く姫様の指から血が滲んできた。それに気が付いた従者がそっと指先を口元から外し、回復魔法を使って治す。
その行動で気分が少しだけ向上したのだろう、ふふと笑って私に詰め寄ってきた。
「人生の最後に姫様を守った侍女という名誉をあげるわ。そうすれば、あの木偶の坊がいた貴女の家は助かるわ。」
「……!」
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