この記憶、復讐に使います。

SHIN

文字の大きさ
2 / 31

時は遡り

しおりを挟む


 それは、この事件の数時間前に遡る。

 膝をついている私の首に奴隷が填められる隷属の首輪がつけられていた。
 この首輪には主の命を害するとお仕置きが発生する魔法がかけられている。
 さらに首輪の魔法石が填められていれば数によってその数だけ具体的な命令を無理矢理にさせる事ができるのだけど、私についているのは魔法石が3つ。


「あら、安いのを買ったのだけど似合ってるじゃない?」
「姫様。まだ主を指定していないので噛まれますよ。」
「ふふふ。猿轡されているから大丈夫よ。」


 目の前には金糸の髪にエメラルド色の瞳の嘲笑うかのような態度の女と、それに寄り添う赤茶の端正な顔の男。
 そう、この二人が例の姫様とその従者。
 そして、私に隷属の首輪を取り付けている黒髪の筋肉男が従者その2である。
 二人はこの女のお気に入りで護衛もかねているからか、国の大会で好成績を納める程度には強い。


 そんな従者が、うやうやしく女の手を取ると私の首筋、もとい首輪にその指を近づけた。首輪の一点から蔓のようなものが伸びて魔力の登録がされると、その時点から主に危害を加えることが出来なくなる。

 淡い光を発して登録の完了が示されると、は歪んだ笑みを浮かべて、私を蹴りつけた。
 容赦のないその蹴りに身体は倒れ、痛みに苦酸っぱい何かが込み上げてきて猿轡のままえずいていると、そんな私の顔をヒールで踏みつけてきた。


「お前には名誉な役割をあげるわ。」
「なんとも、姫様はお優しい。」
「でしょ?まずは『時間までお祈りすると偽って私達の逃走時間を稼ぎなさい。』次に『時間になったら伝言を伝えなさい。わたくし、貴方達の様な野蛮な所に嫁ぎたくありませんの。なので、死んでいただけません?』ってね。」


 きゃははと嗤う姫様に、それを持て囃す男達。どことなく淀んだ空気をかもしだしている。
  盛大に嗤ったあと、私の抵抗が無いことにつまらなさそうにため息をついて、顔からの踏みつけをやめたかと思えば勢い良く身体を従者その2によって起こされた。
 この際には何本かの髪の束も抜けて悲鳴を上げかけたがどうにか何も発することはしなかった。


「姫様、この女、生意気にも髪飾りをしていますが取り上げますか?」
「そんな女がつけてるのなんて興味ないわ。しかも地味で私には似合わないでしょ?」
「確かに。これは失礼を。」
「良いわよ。貴方の失言なら許してあげる。」


 男の謝罪に姫様は満足そうに嗤うと、私の片手を取り従者に小さな手に隠せるぐらいの刃物を持ってこさせて握らせた。
 怪しい輝きを持つそれをしっかりと握らせると、歪んだ笑みを向けて最後の命令を下す。


「『この手でアイツを…イェシル・レオ・ウインターを刺しなさい。』」
「なっ!」


 最後の命令と共に猿轡が外され、かすれた声で最後の命令に驚きを示した。

 よりによって、これから嫁ぐ予定だった男をしかも獣人の国の王族を害せと言うのか。



「ひ、姫様は戦争がしたいのですか!」
「…うるさいわね。『黙りなさい。』」
「!…… ……。」


 簡単な命令を首輪が受け付けたのか、声を発しようとするととてつもない痛みが身体中に発生する。魔法石による命令ではないため強制力はないから我慢すれば話せなくはなさそうだがではなかなかうまくいかない。

 姫様は普段から整えさせている爪をうっとりと眺めたあと、その爪に歯を立てた。
 

「私ってあの獣臭い獣人が大嫌いなの。なのにあの女のせいで嫁ぐことになって赦さない。」


 赦さない赦さないと呟く姫様の指から血が滲んできた。それに気が付いた従者がそっと指先を口元から外し、回復魔法を使って治す。

 その行動で気分が少しだけ向上したのだろう、ふふと笑って私に詰め寄ってきた。


「人生の最後に姫様を守った侍女という名誉をあげるわ。そうすれば、あの木偶の坊がいた貴女の家は助かるわ。」
「……!」

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいました

みゅー
恋愛
『転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります』のスピンオフです。 前世から好きだった乙女ゲームに転生したガーネットは、最推しの脇役キャラに猛アタックしていた。が、実はその最推しが隠しキャラだとヒロインから言われ、しかも自分が最推しに嫌われていて、いつの間にか悪役令嬢の立場にあることに気づく……そんなお話です。 同シリーズで『悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい』もあります。

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

【短編】男爵令嬢のマネをして「で〜んかっ♡」と侯爵令嬢が婚約者の王子に呼びかけた結果

あまぞらりゅう
恋愛
「で〜んかっ♡」 シャルロッテ侯爵令嬢は婚約者であるエドゥアルト王子をローゼ男爵令嬢に奪われてしまった。 下位貴族に無様に敗北した惨めな彼女が起死回生を賭けて起こした行動は……? ★他サイト様にも投稿しています! ★2022.8.9小説家になろう様にて日間総合1位を頂きました! ありがとうございます!!

好きになったあなたは誰? 25通と25分から始まる恋

たたら
恋愛
大失恋の傷を癒したのは、見知らぬ相手からのメッセージでした……。 主人公の美咲(25歳)は明るく、元気な女性だったが、高校生の頃から付き合っていた恋人・大輔に「おまえはただの金づるだった」と大学の卒業前に手ひどくフラれてしまう。 大輔に大失恋をした日の深夜、0時25分に美咲を励ます1通のメールが届いた。 誰から届いたのかもわからない。 間違いメールかもしれない。 でも美咲はそのメールに励まされ、カフェをオープンするという夢を叶えた。 そんな美咲のカフェには毎朝8時35分〜9時ちょうどの25分間だけ現れる謎の男性客がいた。 美咲は彼を心の中で「25分の君」と呼び、興味を持つようになる。 夢に向かって頑張る美咲の背中を押してくれるメッセージは誰が送ってくれたのか。 「25分の君」は誰なのか。 ようやく前を向き、新しい恋に目を向き始めた時、高校の同窓会が開かれた。 乱暴に復縁を迫る大輔。 そこに、美咲を見守っていた彼が助けに来る。 この話は恋に臆病になった美咲が、愛する人と出会い、幸せになる物語です。 *** 25周年カップを意識して書いた恋愛小説です。 プロローグ+33話 毎日17時に、1話づつ投稿します。 完結済です。 ** 異世界が絡まず、BLでもない小説は、アルファポリスでは初投稿! 初めての現代恋愛小説ですが、内容はすべてフィクションです。 「こんな恋愛をしてみたい」という乙女の夢が詰まってます^^;

【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます

ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」 「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」  シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。 全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。  しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。  アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

処理中です...