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男が目撃したもの
しおりを挟むオレらのリーダーはいっつも無気力で、つまらなそうだった。
生まれが王族だからと持て囃されたりもするが、あの人は王のスペア部品であると影では言われていた。どんなに頑張っても頑張ったそれは実らない。
オレらからしたらあの人は凄い。本を読めば一回で理解し説明もしてくれるし、やろうと思えば獲物を狩り尽くす事もできる。
だけど、いくら勉強で満点を取ろうが、誰よりも強い獲物を狩ろうが彼の目の前には王である兄の後ろ姿があるのだ。
何をしようとも追い付けない後ろ姿が。
だから、何事にも興味をしめさない。
どうせ、兄が最後には全て持っていく。
オレらのリーダーさんは諦めているのだ。すべてを。
そんな、イェシルさんが珍しく興味を持ったのは、異国の侍女だった。
政略結婚と言われたらなんか嫌な感じだが、イェシルさんは人間の国のお姫様と結婚する事になった。
人間には獣人が嫌いな奴も多いし、イェシルさんは結婚にも相手にも興味もないからきっと純潔の白い結婚になると思っていたのに。
迎えに行った場所には馬車と一人の侍女が立っている。この侍女が言うには時間である昼の鐘まで姫様は祈りを捧げるという。
まあ、オレらのリーダーが待つって言ってるから待つけどよ。
めんどくさいお姫さんだな。
一緒についてきた宰相のおっさんは文句を相手の馬車に聞こえるようにずっと言っていてうるさい。
もう、帰れよ。
しばらくして、侍女の細すぎる腕に気が付いた。
海のワカメの様にたまに身体が揺れているが、しっかりと地に足をつけている。
長い黒髪が風を受けて、前髪をさらい目が微かに見えた。
「ひゅっ…。」
思わず息を呑んだ。
あの目はやばい。
グレーの混じった黒曜石のような瞳が、熱を孕みながらじっとこちらを見ている。
あれば何かを企んで、決心している眼だ。
ちょと待て、そういえば祈りの声は聞こえない。獣人だから人よりも微かな声を聞くことが出来るのにだ。
まさか、イェシルさんを狙っているのでは。そんな事が頭をよぎり、リーダーの顔を伺ってみると。
「笑っている?」
久しぶりにイェシルさんの笑みを見た気がする。
獲物を見つけたときのような高揚感を滲ませた男のオレでもゾクッとする厭らしい笑み。
珍しい、どうやら彼女が気になるようだ。
その時、昼を示す鐘がなった。
イェシルさんは誰の制止も聞かず、馬車を降りて一人で侍女の元に向かって行く。
本来なら無理矢理にでも止めないと行けないのだが、我らのリーダーの邪魔をしてはならないと本能が命じている。
もうすぐ、侍女に触れるといった位置で、侍女が伝言だと言う言葉を投げ掛けてきた。それは、あまりにも酷い言葉で顔を歪めた。
それと同時に彼女の手のひらに光る何かが有ることに気が付いた。
だが、もうすでに彼女は動き出していて、片手を片手で押さえる形に固まっている。
侍女の詰め襟のようなシャツから何度もスラムでみたことのある首輪が見えた。
彼女は命じられていたのだ。
あの様子だと魔法石までついているだろう。
もちろんそれは彼女のすぐ側にいるイェシルさんも気づいたことで、侍女に見えないようにハンドサインを送ってくる。
そのないように、眉間に皺がよりそうになるが、いつもの人の食えない笑みを浮かべて、見えないだろうけど頷く。
何人かは馬車や彼の元に行ったが、馬車には誰も居なかったらしい。それによって彼女の言葉の信用性がたかまる。
彼女の息が少しずつ乱れていく。イェシルさんが考察したことは当たっているようだ。
やれやれ、相も変わらず人使いが荒いことで。
そう思いながら、皆から少し離れて懐かしい人達に連絡を入れる事にしたのだ。
『マリオネット』『毒』『飢餓』『暴力』
イェシルさんの出した合図はこの4つ。
『マリオネット』はあの首輪を指しているとしてのこりの3つ。
はあ、オレってば優秀だから意味が分かっちゃうんだけどね。
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