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冬麻バレンタイン作戦編
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「はぁ……」
もう何度目のため息をついたかわからない。
冬麻は実家には帰らず、夜の久我のマンションの近所の公園にいた。
この公園は、砂地の広場と少しの遊具の他、緩やかな階段状にウッドデッキのような場所がある。冬麻はそのウッドデッキ階段を椅子がわりにして、ひとり佇んでいた。
千代田区番町の夜はとても静かだ。特にこの公園の周囲にあるのは工事現場と小学校くらいのもので、余計に静かに感じるのだろう。
「あのときだって俺なりに本気だったのに」
たしかに出会いは強引だったけど、簡単に身体を許すことなんてしないし、キスだって初めてだった。自分の中で考えて、考えて、最初から久我に惹かれていたんだと気がついたのに。
久我のあまりに強い力に戸惑っていたけど、多分、一目惚れに近いような形で、目が離せなくて、あっという間に心が占有されていって、間違いなく恋に落ちた。
それを、勘違いだなんて。
「ひどい……」
全力で好きだし、一生懸命好きだって伝えたいって思っているのに、勘違い……。
好きじゃないなら、一緒に暮らしたりしない。久我は、家賃無料で職場から近いから、ここに暮らしているとでも思っているのだろうか。
好きじゃないなら、相手に喜んでもらいたくてアレコレ悩んだり、無理して朝晩料理の練習なんてしない。それも伝わらないなら、どうしたらいいかわからない。
「好きじゃないのに、エッチなんてしないよ……」
なんで伝わらないんだろう。それが悔しくて、涙が止まらない。
あれだけのことをしておいて、勘違いなわけがないだろうと怒鳴りつけてやればよかった。まさかあの行為も、家賃代わり、ただのセフレ、仕方がないから嫌々付き合っているみたいなふうに見ていたのだろうか。
たしかに、恥ずかしくて積極的じゃなかったかもしれない。されるばかりで、冬麻から「したい」と言ったこともないし、いつも久我にリードされているだけ、自分ばっかり気持ちよくて、久我が楽しいのは最後ふたりが繋がるときくらいだと思う。
「俺が悪かったのかな……」
悶々と考えていたとき、冷たい風が吹いた。それに一気に体温を奪われ、冬麻は寒さに肩をすくめる。
二月の夜は寒い。とてもじゃないが、このままずっと外にはいられない。
久我には実家に帰ると言ったが、実家には帰れない。帰ったら両親が「ケンカでもしたの?」と心配するに決まっている。
久我のマンションにも当然帰れない。今は距離をとって、ひとり考えたかった。
「そうだ」
冬麻は鞄からスマホを取り出す。木内からのメッセージには、ビジホのHPのリンクと割引券のリンクがあった。
そういえば今日、木内に男子ホテル会をしないかと誘われたんだった。冬麻が明日シフトの定休日だと木内は知っていて「今夜なら気兼ねなく遊べるだろ」って声をかけてくれたのだ。
レストランの仕事は朝から夜は二十三時過ぎまで続く。同僚と遊ぶにも時間が合わないから、夜中に遊ぶしかないんだろう。
「平日限定割引券だと宿泊代50%オフだって」
木内は新メニューの研修を終え、そろそろ帰るころだろう。今から「男子ホテル会しましょう」と返信したら、ひと晩一緒に過ごしてくれるだろうか。
また、強い風が吹いた。砂埃が舞い、冬麻は思わず手で目を覆う。
「冬麻」
風に乗って幻聴かと思うような、いつもの聞き慣れた声が聞こえてきた。
手を下ろし、そっと目を開けると、目の前に久我が立っている。
もう何度目のため息をついたかわからない。
冬麻は実家には帰らず、夜の久我のマンションの近所の公園にいた。
この公園は、砂地の広場と少しの遊具の他、緩やかな階段状にウッドデッキのような場所がある。冬麻はそのウッドデッキ階段を椅子がわりにして、ひとり佇んでいた。
千代田区番町の夜はとても静かだ。特にこの公園の周囲にあるのは工事現場と小学校くらいのもので、余計に静かに感じるのだろう。
「あのときだって俺なりに本気だったのに」
たしかに出会いは強引だったけど、簡単に身体を許すことなんてしないし、キスだって初めてだった。自分の中で考えて、考えて、最初から久我に惹かれていたんだと気がついたのに。
久我のあまりに強い力に戸惑っていたけど、多分、一目惚れに近いような形で、目が離せなくて、あっという間に心が占有されていって、間違いなく恋に落ちた。
それを、勘違いだなんて。
「ひどい……」
全力で好きだし、一生懸命好きだって伝えたいって思っているのに、勘違い……。
好きじゃないなら、一緒に暮らしたりしない。久我は、家賃無料で職場から近いから、ここに暮らしているとでも思っているのだろうか。
好きじゃないなら、相手に喜んでもらいたくてアレコレ悩んだり、無理して朝晩料理の練習なんてしない。それも伝わらないなら、どうしたらいいかわからない。
「好きじゃないのに、エッチなんてしないよ……」
なんで伝わらないんだろう。それが悔しくて、涙が止まらない。
あれだけのことをしておいて、勘違いなわけがないだろうと怒鳴りつけてやればよかった。まさかあの行為も、家賃代わり、ただのセフレ、仕方がないから嫌々付き合っているみたいなふうに見ていたのだろうか。
たしかに、恥ずかしくて積極的じゃなかったかもしれない。されるばかりで、冬麻から「したい」と言ったこともないし、いつも久我にリードされているだけ、自分ばっかり気持ちよくて、久我が楽しいのは最後ふたりが繋がるときくらいだと思う。
「俺が悪かったのかな……」
悶々と考えていたとき、冷たい風が吹いた。それに一気に体温を奪われ、冬麻は寒さに肩をすくめる。
二月の夜は寒い。とてもじゃないが、このままずっと外にはいられない。
久我には実家に帰ると言ったが、実家には帰れない。帰ったら両親が「ケンカでもしたの?」と心配するに決まっている。
久我のマンションにも当然帰れない。今は距離をとって、ひとり考えたかった。
「そうだ」
冬麻は鞄からスマホを取り出す。木内からのメッセージには、ビジホのHPのリンクと割引券のリンクがあった。
そういえば今日、木内に男子ホテル会をしないかと誘われたんだった。冬麻が明日シフトの定休日だと木内は知っていて「今夜なら気兼ねなく遊べるだろ」って声をかけてくれたのだ。
レストランの仕事は朝から夜は二十三時過ぎまで続く。同僚と遊ぶにも時間が合わないから、夜中に遊ぶしかないんだろう。
「平日限定割引券だと宿泊代50%オフだって」
木内は新メニューの研修を終え、そろそろ帰るころだろう。今から「男子ホテル会しましょう」と返信したら、ひと晩一緒に過ごしてくれるだろうか。
また、強い風が吹いた。砂埃が舞い、冬麻は思わず手で目を覆う。
「冬麻」
風に乗って幻聴かと思うような、いつもの聞き慣れた声が聞こえてきた。
手を下ろし、そっと目を開けると、目の前に久我が立っている。
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