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第1章
20.失いたくない?
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「もういいよ、ありがとうノア」
ライオネルは俺の手を払い除け、ベッドから立ち上がる。
「じゃあ、俺は行ってくる。これが今生の別れになるかもしれないが、元気で暮らせよ」
おいおいライオネル、なんて不吉なことを言うんだ!
「待って、ライオネルっ」
なぜだろう。気がついたら俺は、ライオネルを引き止めていた。
ライオネルがいなくなってくれたほうが、俺にとってはいいはずだ。
ライオネルが死亡した場合、バーノン司教から継承されている爵位は、一年待たずに俺のものになる。ライオネルの親族で、もっとも近い立場の男は俺だからだ。
「なんだ?」
返事はしてくれたものの、ライオネルはこれ以上は聞く耳を持たない、というような態度だ。
ライオネルにそんな態度をとられて、なぜかさみしいと思った。
「こ、今夜は寒いから……」
「ああ。そうだな、マントを羽織っていくとしよう」
「そうじゃなくて、あの……」
あー! もう!
「ライオネル。今夜は俺のこと、抱きしめて……」
俺がそう言うと、ライオネルが動きを止め、俺を信じられないというような目で見ている。
「触れていいよ。ひと晩中、許可する。だから、行かないで。そばにいて……」
言ってて恥ずかしくなってきて、俺はライオネルをまともに見られなくなる。
どうかな。少しは効果があったかな。
俺はどうかしている。
こんなことをしてまで、ライオネルを引き止める理由なんてどこにもない。
それなのに、何をしているんだろう。
ライオネルはおもむろに俺に近づいてきた。
「ノア。それは反則だぞ」
ライオネルは、俺の身体をそっと腕の中に包み込んできた。
俺が許可したから、ライオネルは俺に触れてもビリビリしない。
「そんなことを言われたら、どこにも行けない。ノアのそばにいるに決まっているじゃないか」
ライオネルに抱きしめられても全然嫌じゃない。
それどころか、すごくいい。
だって今夜は本当に寒いし、ライオネルはあったかいんだ。
俺は、何をしているんだろう。
さっさとライオネルがいなくなれば、目的は果たせるのに。
百歩譲って、この感情がライオネルから命まで奪うのは可哀想だという、同情の気持ちだったとしても。
どうして、この身をライオネルに差し出すようなことを言ってしまったんだろう。
俺に触れることを、許可してしまったんだろう。
「本当だ。抱き合っていると温かいな」
ライオネルは俺を離そうとしない。俺の背中を撫で、そっと俺の髪にキスをする。
「ノア。怖くない……?」
ライオネルは俺を気遣っている。
俺がライオネルに嘘をついたからだ。アルファに襲われて、触れられることに恐怖心があると嘘をついたから、ライオネルはそれを今でもバカみたいに信じているのだろう。
俺はその設定を忘れかけてたよ。ライオネルは本当に俺に騙されっぱなしだな。
「うん。大丈夫だよ」
俺のほうからライオネルに身体を寄せると、ライオネルがそれに呼応するように俺を抱きしめ返してきた。
これはいい嫁を演じているだけだ。別にライオネルにくっつきたかったわけじゃない。
俺はライオネルなんて好きじゃない。
「よかった。でもノア、怖くなったら教えてほしい。すぐにやめるから」
「うん……」
バカライオネル。俺にはそんな繊細なトラウマなんてないんだよ。だからそんなに優しくしてくれなくていい。
その夜、俺たちはベッドで抱き合って眠った。足先が寒いからライオネルの足に俺の足を絡めたら、ライオネルは俺を温めるように包み込んでくれた。
「ノア……」
ライオネルは時々俺の名前を呼ぶ。愛おしそうに俺の名前を呼ぶライオネルの顔なんて見られない。
だから俺はライオネルの胸に顔を埋めたままだ。
今、ライオネルと目を合わせたら、きっと俺はライオネルの熱情に絡め取られる。
ライオネルには心を許さない。そう決めていたのに、なんで俺はライオネルの胸に抱かれて、離れたくないって思うんだ?
きっとこれは運命の仕業だ。俺とライオネルは、別になんとも思っていないのに、無条件に相手に惹かれるっていう『運命の番』なんだろう。
ライオネルは俺の手を払い除け、ベッドから立ち上がる。
「じゃあ、俺は行ってくる。これが今生の別れになるかもしれないが、元気で暮らせよ」
おいおいライオネル、なんて不吉なことを言うんだ!
「待って、ライオネルっ」
なぜだろう。気がついたら俺は、ライオネルを引き止めていた。
ライオネルがいなくなってくれたほうが、俺にとってはいいはずだ。
ライオネルが死亡した場合、バーノン司教から継承されている爵位は、一年待たずに俺のものになる。ライオネルの親族で、もっとも近い立場の男は俺だからだ。
「なんだ?」
返事はしてくれたものの、ライオネルはこれ以上は聞く耳を持たない、というような態度だ。
ライオネルにそんな態度をとられて、なぜかさみしいと思った。
「こ、今夜は寒いから……」
「ああ。そうだな、マントを羽織っていくとしよう」
「そうじゃなくて、あの……」
あー! もう!
「ライオネル。今夜は俺のこと、抱きしめて……」
俺がそう言うと、ライオネルが動きを止め、俺を信じられないというような目で見ている。
「触れていいよ。ひと晩中、許可する。だから、行かないで。そばにいて……」
言ってて恥ずかしくなってきて、俺はライオネルをまともに見られなくなる。
どうかな。少しは効果があったかな。
俺はどうかしている。
こんなことをしてまで、ライオネルを引き止める理由なんてどこにもない。
それなのに、何をしているんだろう。
ライオネルはおもむろに俺に近づいてきた。
「ノア。それは反則だぞ」
ライオネルは、俺の身体をそっと腕の中に包み込んできた。
俺が許可したから、ライオネルは俺に触れてもビリビリしない。
「そんなことを言われたら、どこにも行けない。ノアのそばにいるに決まっているじゃないか」
ライオネルに抱きしめられても全然嫌じゃない。
それどころか、すごくいい。
だって今夜は本当に寒いし、ライオネルはあったかいんだ。
俺は、何をしているんだろう。
さっさとライオネルがいなくなれば、目的は果たせるのに。
百歩譲って、この感情がライオネルから命まで奪うのは可哀想だという、同情の気持ちだったとしても。
どうして、この身をライオネルに差し出すようなことを言ってしまったんだろう。
俺に触れることを、許可してしまったんだろう。
「本当だ。抱き合っていると温かいな」
ライオネルは俺を離そうとしない。俺の背中を撫で、そっと俺の髪にキスをする。
「ノア。怖くない……?」
ライオネルは俺を気遣っている。
俺がライオネルに嘘をついたからだ。アルファに襲われて、触れられることに恐怖心があると嘘をついたから、ライオネルはそれを今でもバカみたいに信じているのだろう。
俺はその設定を忘れかけてたよ。ライオネルは本当に俺に騙されっぱなしだな。
「うん。大丈夫だよ」
俺のほうからライオネルに身体を寄せると、ライオネルがそれに呼応するように俺を抱きしめ返してきた。
これはいい嫁を演じているだけだ。別にライオネルにくっつきたかったわけじゃない。
俺はライオネルなんて好きじゃない。
「よかった。でもノア、怖くなったら教えてほしい。すぐにやめるから」
「うん……」
バカライオネル。俺にはそんな繊細なトラウマなんてないんだよ。だからそんなに優しくしてくれなくていい。
その夜、俺たちはベッドで抱き合って眠った。足先が寒いからライオネルの足に俺の足を絡めたら、ライオネルは俺を温めるように包み込んでくれた。
「ノア……」
ライオネルは時々俺の名前を呼ぶ。愛おしそうに俺の名前を呼ぶライオネルの顔なんて見られない。
だから俺はライオネルの胸に顔を埋めたままだ。
今、ライオネルと目を合わせたら、きっと俺はライオネルの熱情に絡め取られる。
ライオネルには心を許さない。そう決めていたのに、なんで俺はライオネルの胸に抱かれて、離れたくないって思うんだ?
きっとこれは運命の仕業だ。俺とライオネルは、別になんとも思っていないのに、無条件に相手に惹かれるっていう『運命の番』なんだろう。
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