策士オメガの完璧な政略結婚

雨宮里玖

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第2章

47.重なる想い

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「やっと気がついたんだ。俺が欲しかったものは、お金でも爵位でもない。理由はなんでもいいからライオネルのそばにいたかったんだ。その気持ちは今もそうだよ? だから俺と離婚してもいいなんて言わないで。そばにいさせてよ」

 俺はライオネルの肩に額を寄せる。
 離さないでほしい。祈るような気持ちで俺はライオネルの肩を掴む手に力を込めた。


「……ノア。俺と過ごした時は、お前にとっても幸せだったのか?」

 それは、いつか俺がマードック陛下に聞かれて答えた言葉だ。
 あのときの俺は、ライオネルが護衛兵だなんて知らなかった。でもそうだ。思い返してみれば、ライオネルはあのとき俺のそばにいたんだ。
 俺の気持ちを聞いていてくれたんだ。

「うん。幸せだった。俺は嫌な奴で、ライオネルに意地悪ばかりしていたけど、幸せだった」

 俺がどんなに悪態をついても、可愛くなくても、ライオネルは真っ直ぐに俺に気持ちを伝えてくれた。俺を愛してくれていた。
 こんな性格の捻じ曲がった俺のことを見捨てず、理解して、愛してくれるのはライオネルしかいない。

「俺も、ノアとの結婚生活は楽しくて仕方がなかった」

 ライオネルは息を吐いて小さく笑った。

「ノアと結婚したし、遺言書も書いた。俺は一日でも早くノアの前から消えて、七十五日、姿を消さなければならなかった。でも、ノアと過ごす日々が楽しくて、俺の隣で眠るノアが愛おしくて、時ばかり過ぎてしまったんだ」
「えっ? そんなに早くから、いなくなろうとしてたの?」

 ライオネルはなんて奴だ。結婚した翌日から失踪するつもりだったのか!?

「ああ。ノアの幸せのためには俺はいなくならないといけないと思っていたから。戦場で俺が死ねば、ノアは喜ぶと思って日々過ごしていた」
「喜ばないよ! なんてこと言うんだ。ダメだ。それだけは絶対に許さない。命を粗末にする奴は騎士にはなれない。死ぬために戦うのは、いけないことだと学校で習っただろう?」

 ライオネルを見ていて、どこか死に急ぐような危なっかしい男だと思っていた。
 それは俺のせいだったんだ。
 死んだら俺が喜ぶなんて、バカみたいなことを考えていたから、命を粗末にするような言動をしていたんだ。

 俺がポカポカとライオネルの胸を叩く。でも頑丈なライオネルはびくともしなかった。

「今は違う」

 ライオネルは優しく微笑んだ。

「ノアと結婚生活を過ごしていくうちに、何もかも諦めていた俺に欲が出た」
「……欲?」

 世のため人のために生きているようなライオネルは、何を欲したんだろう。

「生きたいと思うようになったんだ」

 俺はハッと目を開いた。
 呪われた身体のライオネルは、そんな当たり前のことすら、諦めていたんだ。

「こうやって毎日ノアと過ごせたら幸せだなと思ったんだ。呪われている俺が何を言うかと笑うかもしれないが、ノアと一緒に生きていきたいと思った。ノアと結婚して、俺は初めて生きたいと思えるようになったんだ」
「ライオネル……」

 やっぱり俺とライオネルは運命で繋がっているんだ。俺もライオネルがいないと生きていけないし、ライオネルもきっと同じ気持ちでいてくれているんじゃないか。

「ノア。俺のそばにいてくれないか?」

 ライオネルが俺を見つめるその目は、俺が今まで見たどんな景色よりも美しかった。

「命尽きるまで、ノアを愛すると誓う。命が尽きたって、俺はノアのことを愛している。ノアと一緒に生きていきたいんだ」
「俺も。俺もライオネルを愛してる。ライオネルじゃなきゃダメなんだ」

 ライオネルがどんな運命を背負っていようとも、俺が好きになるのは、愛しているのはライオネルだけだ。他のアルファなんか、ただの一度も好きになったことなんてない。

「ノアに触れてもいい?」

 俺が頷くと、ライオネルは俺の腰に手を回して、自分のほうへと抱き寄せた。
 ライオネルと見つめ合う視線の意味がわかった。でも、ライオネルは俺に念書を書かされたから、許可がないと俺に触れられない。

「ライオネル。キス、して……」

 俺の許しを待っていたかのように、ライオネルは唇を重ねてきた。
 初めての感覚だった。
 俺たちは結婚しているのだから、いけないことをしているわけじゃないのに、すごくドキドキする。
 一度じゃない。ライオネルは、感触を確かめるみたいに角度を変えて、何度も俺にキスをする。
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