推しと一緒に君に近づく方法

かわち

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第6話:いつも通りの朝じゃなかった

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 夏の蒸し暑さと、燦々と照りつける太陽の光で優は目が覚めた。

 けれど、その目覚めはまるで泥の中から引きずり出されたような、重たいものだった。

 起き上がってすぐ、スマホを確認する。

「はぁ……」

 通知は、ない。

 昨夜。

 遥にメッセージを送り、既読がついたのを確認したあと――返信は来なかった。

“既読無視された”

 その事実が、優の胸に鋭く突き刺さる。

 用事ができただけかもしれない。

 忙しかっただけかもしれない。

 何度もそう思い込もうとした。

 けれど、眠気に抗ってスマホを握りしめていたあの時間にも、

 今こうして朝を迎えた今でも、返信は来ていない。

 昨日の、あの笑顔は――本物だったのに。
 
それを否定するような現実が、画面の中にだけある。

 夏休み終了まで、あと二週間。
 
いったい、どんな気持ちで過ごせばいいんだろう。



 両足の筋肉痛と、カーテン越しに差し込む太陽の光で遥は目を覚ました。
 
まだ半分も開いていないまぶたで、スマホに手を伸ばす。
 
いつものようにSNSを開こうとして、指が止まった。

 ロックを解除した画面に表示されていたのは――優とのトーク画面だった。

 最後のメッセージは、優から。

 そして、そのメッセージには、遥自身の“既読”マークが付いていた。

 ……やってしまった。完全に、やらかした。

「早く返信しないと……!」

 慌てて入力画面を開くが、指が止まる。

《ごめん!昨日寝落ちしちゃって返信できなかったm(__)m》

 ……いや、ちょっと砕けすぎ?

《おはようございます。昨日は寝落ちしてしまって返信できませんでした。すみません。》

 ……硬すぎる。

 何度も打っては消してを繰り返し、気づけば一時間が経過していた。

「ダメだ……なんて返せばいいのか分かんない……」

 遥がスマホを睨んでいると、リビングから声が響いた。

「遥~、朝ごはんできてるよー」

母親の元気な声が遥を呼んでいる。

「今行くー」

 しぶしぶスマホを置き、朝食を取りに行ったものの、返信はその後もできないままだった。

 まるで砂時計の砂だけが、無言で落ち続けているようだった。

 送らなきゃ、とは思うのに。

 なにか決定的な一言が思いつかない。
 
返信しない時間が長くなるほど、言い出しにくくなっていく。


 気付けばすでに夜になっていた。

 もはや絶望的な気持ちでスマホを睨んでいると、部屋のドアをノックする音がした。

「ねーちゃーん、お母さんが明日、家族でミラージュランド行くけど行くー?だって」

 弟――陽翔の声だった。

「え、明日?」

「うん。なんかチケット取れたらしいよー。たぶん、強制連行されると思うよ」

 遥の顔が一気に曇る。

 今そんな気分じゃない。

 人混みは苦手だし、なにより優のことで頭がいっぱいだ。

「……私は留守番でいいって伝えといて」

「一応言ってみるけど、たぶん無理だと思うよ。お母さんこういうとき、全力で強引だから」

「……行きたくない……」

「じゃあ明日の朝、全力で抵抗して。おやすみ~」

 そう言って部屋を出ていった陽翔の背中を見送りながら、遥はまたスマホとにらめっこを始める。

 けれど、返信は――やっぱり送れなかった。



ピコンッ、と通知音が鳴り、優は飛び起きるようにスマホを手に取った。
 
しかし、そこに表示された名前は期待していたものではなかった。

《中谷 陽介》

 優の数少ないオタク友達。

 明るく、社交的で、優とは正反対のタイプ。

「……なんだよ、こんなときに……」

 落胆の言葉を漏らしながらトーク画面を開く。

 ≪お前、明日ヒマか?≫
 
 ≪まぁヒマだけど≫

 ≪親がミラージュランドのペアチケットくれたんだけど、行かね?≫

 ≪なんで俺なんだよ。他に誘うやついくらでもいるだろ≫

 ≪他はみんな予定あるって断られたからお前に声かけたんだよ≫

 ≪俺、滑り止めかよ≫

 ≪まあまあ、そう言わず。チケットもったいないし、暇なら行こうぜ≫

 普段なら断る。

 でも、今の優には――気を紛らわせる何かが必要だった。

 ≪分かった。明日、何時にどこ集合?≫



 ――翌朝。
 
ドアがバンッと勢いよく開いて、遥は飛び起きた。

「遥~!ミラージュランド行くわよ!」

「……私はいいってば……」

「何言ってんのよ。家族でお出かけなんて、そうそうないんだから! 早く準備!」

「やだ……」

「今日もどうせ予定ないでしょー?」

 布団が勢いよく引っぺがされる。

 遥は丸くなって、必死に抵抗した。

「まだ起きないかぁ……じゃあ、こうだ!」

 お母さんは容赦なく脇腹をくすぐってきた。

「わかった、わかったからやめてっ……!行くから!」

 もう高3なのに、お母さんはずっとこんな感じだ。

 でも親ってきっと、いつまで経っても“子ども”として見てくるんだろう。

 観念して、ベッドを抜け出す。

「それでよろしい!」

 お母さんは満足げに去っていった。

「正直、行ってる場合じゃないんだけどなぁ……」

 遥はぽつりとつぶやいた。
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