7 / 7
第6話:いつも通りの朝じゃなかった
しおりを挟む
夏の蒸し暑さと、燦々と照りつける太陽の光で優は目が覚めた。
けれど、その目覚めはまるで泥の中から引きずり出されたような、重たいものだった。
起き上がってすぐ、スマホを確認する。
「はぁ……」
通知は、ない。
昨夜。
遥にメッセージを送り、既読がついたのを確認したあと――返信は来なかった。
“既読無視された”
その事実が、優の胸に鋭く突き刺さる。
用事ができただけかもしれない。
忙しかっただけかもしれない。
何度もそう思い込もうとした。
けれど、眠気に抗ってスマホを握りしめていたあの時間にも、
今こうして朝を迎えた今でも、返信は来ていない。
昨日の、あの笑顔は――本物だったのに。
それを否定するような現実が、画面の中にだけある。
夏休み終了まで、あと二週間。
いったい、どんな気持ちで過ごせばいいんだろう。
◇
両足の筋肉痛と、カーテン越しに差し込む太陽の光で遥は目を覚ました。
まだ半分も開いていないまぶたで、スマホに手を伸ばす。
いつものようにSNSを開こうとして、指が止まった。
ロックを解除した画面に表示されていたのは――優とのトーク画面だった。
最後のメッセージは、優から。
そして、そのメッセージには、遥自身の“既読”マークが付いていた。
……やってしまった。完全に、やらかした。
「早く返信しないと……!」
慌てて入力画面を開くが、指が止まる。
《ごめん!昨日寝落ちしちゃって返信できなかったm(__)m》
……いや、ちょっと砕けすぎ?
《おはようございます。昨日は寝落ちしてしまって返信できませんでした。すみません。》
……硬すぎる。
何度も打っては消してを繰り返し、気づけば一時間が経過していた。
「ダメだ……なんて返せばいいのか分かんない……」
遥がスマホを睨んでいると、リビングから声が響いた。
「遥~、朝ごはんできてるよー」
母親の元気な声が遥を呼んでいる。
「今行くー」
しぶしぶスマホを置き、朝食を取りに行ったものの、返信はその後もできないままだった。
まるで砂時計の砂だけが、無言で落ち続けているようだった。
送らなきゃ、とは思うのに。
なにか決定的な一言が思いつかない。
返信しない時間が長くなるほど、言い出しにくくなっていく。
気付けばすでに夜になっていた。
もはや絶望的な気持ちでスマホを睨んでいると、部屋のドアをノックする音がした。
「ねーちゃーん、お母さんが明日、家族でミラージュランド行くけど行くー?だって」
弟――陽翔の声だった。
「え、明日?」
「うん。なんかチケット取れたらしいよー。たぶん、強制連行されると思うよ」
遥の顔が一気に曇る。
今そんな気分じゃない。
人混みは苦手だし、なにより優のことで頭がいっぱいだ。
「……私は留守番でいいって伝えといて」
「一応言ってみるけど、たぶん無理だと思うよ。お母さんこういうとき、全力で強引だから」
「……行きたくない……」
「じゃあ明日の朝、全力で抵抗して。おやすみ~」
そう言って部屋を出ていった陽翔の背中を見送りながら、遥はまたスマホとにらめっこを始める。
けれど、返信は――やっぱり送れなかった。
◇
ピコンッ、と通知音が鳴り、優は飛び起きるようにスマホを手に取った。
しかし、そこに表示された名前は期待していたものではなかった。
《中谷 陽介》
優の数少ないオタク友達。
明るく、社交的で、優とは正反対のタイプ。
「……なんだよ、こんなときに……」
落胆の言葉を漏らしながらトーク画面を開く。
≪お前、明日ヒマか?≫
≪まぁヒマだけど≫
≪親がミラージュランドのペアチケットくれたんだけど、行かね?≫
≪なんで俺なんだよ。他に誘うやついくらでもいるだろ≫
≪他はみんな予定あるって断られたからお前に声かけたんだよ≫
≪俺、滑り止めかよ≫
≪まあまあ、そう言わず。チケットもったいないし、暇なら行こうぜ≫
普段なら断る。
でも、今の優には――気を紛らわせる何かが必要だった。
≪分かった。明日、何時にどこ集合?≫
◇
――翌朝。
ドアがバンッと勢いよく開いて、遥は飛び起きた。
「遥~!ミラージュランド行くわよ!」
「……私はいいってば……」
「何言ってんのよ。家族でお出かけなんて、そうそうないんだから! 早く準備!」
「やだ……」
「今日もどうせ予定ないでしょー?」
布団が勢いよく引っぺがされる。
遥は丸くなって、必死に抵抗した。
「まだ起きないかぁ……じゃあ、こうだ!」
お母さんは容赦なく脇腹をくすぐってきた。
「わかった、わかったからやめてっ……!行くから!」
もう高3なのに、お母さんはずっとこんな感じだ。
でも親ってきっと、いつまで経っても“子ども”として見てくるんだろう。
観念して、ベッドを抜け出す。
「それでよろしい!」
お母さんは満足げに去っていった。
「正直、行ってる場合じゃないんだけどなぁ……」
遥はぽつりとつぶやいた。
けれど、その目覚めはまるで泥の中から引きずり出されたような、重たいものだった。
起き上がってすぐ、スマホを確認する。
「はぁ……」
通知は、ない。
昨夜。
遥にメッセージを送り、既読がついたのを確認したあと――返信は来なかった。
“既読無視された”
その事実が、優の胸に鋭く突き刺さる。
用事ができただけかもしれない。
忙しかっただけかもしれない。
何度もそう思い込もうとした。
けれど、眠気に抗ってスマホを握りしめていたあの時間にも、
今こうして朝を迎えた今でも、返信は来ていない。
昨日の、あの笑顔は――本物だったのに。
それを否定するような現実が、画面の中にだけある。
夏休み終了まで、あと二週間。
いったい、どんな気持ちで過ごせばいいんだろう。
◇
両足の筋肉痛と、カーテン越しに差し込む太陽の光で遥は目を覚ました。
まだ半分も開いていないまぶたで、スマホに手を伸ばす。
いつものようにSNSを開こうとして、指が止まった。
ロックを解除した画面に表示されていたのは――優とのトーク画面だった。
最後のメッセージは、優から。
そして、そのメッセージには、遥自身の“既読”マークが付いていた。
……やってしまった。完全に、やらかした。
「早く返信しないと……!」
慌てて入力画面を開くが、指が止まる。
《ごめん!昨日寝落ちしちゃって返信できなかったm(__)m》
……いや、ちょっと砕けすぎ?
《おはようございます。昨日は寝落ちしてしまって返信できませんでした。すみません。》
……硬すぎる。
何度も打っては消してを繰り返し、気づけば一時間が経過していた。
「ダメだ……なんて返せばいいのか分かんない……」
遥がスマホを睨んでいると、リビングから声が響いた。
「遥~、朝ごはんできてるよー」
母親の元気な声が遥を呼んでいる。
「今行くー」
しぶしぶスマホを置き、朝食を取りに行ったものの、返信はその後もできないままだった。
まるで砂時計の砂だけが、無言で落ち続けているようだった。
送らなきゃ、とは思うのに。
なにか決定的な一言が思いつかない。
返信しない時間が長くなるほど、言い出しにくくなっていく。
気付けばすでに夜になっていた。
もはや絶望的な気持ちでスマホを睨んでいると、部屋のドアをノックする音がした。
「ねーちゃーん、お母さんが明日、家族でミラージュランド行くけど行くー?だって」
弟――陽翔の声だった。
「え、明日?」
「うん。なんかチケット取れたらしいよー。たぶん、強制連行されると思うよ」
遥の顔が一気に曇る。
今そんな気分じゃない。
人混みは苦手だし、なにより優のことで頭がいっぱいだ。
「……私は留守番でいいって伝えといて」
「一応言ってみるけど、たぶん無理だと思うよ。お母さんこういうとき、全力で強引だから」
「……行きたくない……」
「じゃあ明日の朝、全力で抵抗して。おやすみ~」
そう言って部屋を出ていった陽翔の背中を見送りながら、遥はまたスマホとにらめっこを始める。
けれど、返信は――やっぱり送れなかった。
◇
ピコンッ、と通知音が鳴り、優は飛び起きるようにスマホを手に取った。
しかし、そこに表示された名前は期待していたものではなかった。
《中谷 陽介》
優の数少ないオタク友達。
明るく、社交的で、優とは正反対のタイプ。
「……なんだよ、こんなときに……」
落胆の言葉を漏らしながらトーク画面を開く。
≪お前、明日ヒマか?≫
≪まぁヒマだけど≫
≪親がミラージュランドのペアチケットくれたんだけど、行かね?≫
≪なんで俺なんだよ。他に誘うやついくらでもいるだろ≫
≪他はみんな予定あるって断られたからお前に声かけたんだよ≫
≪俺、滑り止めかよ≫
≪まあまあ、そう言わず。チケットもったいないし、暇なら行こうぜ≫
普段なら断る。
でも、今の優には――気を紛らわせる何かが必要だった。
≪分かった。明日、何時にどこ集合?≫
◇
――翌朝。
ドアがバンッと勢いよく開いて、遥は飛び起きた。
「遥~!ミラージュランド行くわよ!」
「……私はいいってば……」
「何言ってんのよ。家族でお出かけなんて、そうそうないんだから! 早く準備!」
「やだ……」
「今日もどうせ予定ないでしょー?」
布団が勢いよく引っぺがされる。
遥は丸くなって、必死に抵抗した。
「まだ起きないかぁ……じゃあ、こうだ!」
お母さんは容赦なく脇腹をくすぐってきた。
「わかった、わかったからやめてっ……!行くから!」
もう高3なのに、お母さんはずっとこんな感じだ。
でも親ってきっと、いつまで経っても“子ども”として見てくるんだろう。
観念して、ベッドを抜け出す。
「それでよろしい!」
お母さんは満足げに去っていった。
「正直、行ってる場合じゃないんだけどなぁ……」
遥はぽつりとつぶやいた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
モテ男とデキ女の奥手な恋
松丹子
恋愛
来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。
学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。
ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。
そんなじれじれな話です。
*学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記)
*エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。
*拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。
ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。
*作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。
関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役)
『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー)
『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル)
『物狂ほしや色と情』(名取葉子)
『さくやこの』(江原あきら)
『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
駆け出しご当地アイドルがヤクザに一目惚れされた話
一ノ瀬ジェニファー
恋愛
ド田舎の道の駅で、持ち歌もグッズもないまま細々と活動を続けるご当地アイドル・桜あかり(16)。
夢は大きく武道館!……と言いたいところだけど、今はレジ打ちもこなす「なんでもできるマルチな地底アイドル」。
そんな彼女に、ある日転機が訪れる。
地元の道の駅がテレビで紹介され、あかりの笑顔が全国放送で流れたのだ。
その映像を東京で目にしたのが、幸村 静(ゆきむら しずか)。
見た目は完璧、物腰も柔らか──けれどその正体は、裏の世界の男だった。
「会いたいから」というシンプルすぎる理由で、あかりに会いに片道10時間を車で会いに来た。
謎のヲタク知識もを引っ提げて、推し活(という名の執着)が始まる……!
これは、アイドルを夢見る少女と、厄介オタクなヤクザの、ピュアで不穏でちょっと笑える物語。
ズボラ上司の甘い罠
松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。
仕事はできる人なのに、あまりにももったいない!
かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。
やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか?
上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる