部下に秘密を知られたから口止めとしてセフレになったのに思ってたのとなんか違う!

丸井まー(旧:まー)

文字の大きさ
8 / 30

8:ちょっと浮かれてるかも?

しおりを挟む
 ダミアンが下町にある家に帰ると、母のナタリアが夕食を作っていた。台所へ顔を出すと、ナタリアがこちらを向いてゆるく笑った。


「おかえり。ダン」

「ただいま。手伝うよ。手を洗ってくる」

「もう出来上がるわよ。着替えてきな」

「はぁい」


 ダミアンは二階の自室に向かうと、制服から楽な私服に着替えて階下の脱衣場にある洗面台で手を洗い、居間に向かった。
 ダミアンの家は小ぢんまりとした二階建ての家で、ナタリアの祖父の代から住んでいる。古い家だが、昨年大規模な改修工事をしてもらったので、雨漏りも隙間風もなくなった。

 商家で働いていた父は、ダミアンが10歳の時に、商家の使用人の女と駆け落ちをした。それ以降は、ナタリアがお針子として働き、女手一つでダミアンを育ててくれた。ナタリアはお針子としての腕がいいと評判で、50歳で現役のお針子から引退してからは、年若いお針子見習い達の指導をしている。

 ナタリアが作ってくれた美味しい夕食を食べていると、ナタリアがじっとダミアンを見て、悪戯っぽく笑った。


「アンタ、最近恋人ができたでしょ」

「いや?」

「えー。最近なんか浮かれてるし? まだ片想いなわけ?」

「俺、浮かれてる?」

「なんか楽しそうにしてるわよ」

「そうかな? あ、明日の晩ご飯はいらないから。泊まってくるし、帰りは明後日の夜になるかも」

「あら。お泊りするような相手なんじゃない。やっぱり恋人なんでしょ」

「まぁ、近いかな?」

「ふぅん。そろそろアンタも落ち着く相手を見つけなきゃね。ちゃんとした相手にするのよ。浮気するような男はだめだめ」

「この歳で恋人って厳しんだけど」

「何言ってるのよー。まだ36でしょ。十分若いわよ。遊ぶのもいいけど、早くあたしに紹介してくれる恋人を見つけなさいよ」

「はぁい。そういう母さんこそ、いい人見つけたら?」

「えー。あたしはもう50過ぎてるのよ。こんなお婆ちゃん、誰が相手にするのよー」

「いやー。分かんないよ? 縁はどこに転がってるか分かんないもんじゃない。母さんもいい人できたら紹介してくれよ」

「はいはい。まぁ、無理だけどね!」

「とか言ってー。角の肉屋の親父さんとよく喋ってるの知ってるからな?」

「あの人はお喋り好きなだけよ。男はこりごりなの。旦那に気を使ったり、旦那の世話をするのは二度とごめんよ。あたしは自分が好きなことだけをして生きるって決めてるの」

「それはそれでいいけどさ。まぁ、一応考えといてよ。母さんにもいい人できたら俺は嬉しい。母さんには飛び切り幸せになってもらわないとね」

「もう十分幸せよ。仕事はやり甲斐があるしね。あとは、アンタが連れ添ってくれる恋人を連れてきてくれたら、なんの心配もないんだけど」

「ははっ。まぁ気長に待っててよ」

「そうするわ」

「後片付けは俺がするよ。今日の晩ご飯も美味しかったです」

「それは何より。じゃあ、後片付けはお願いするわ。明日の課題の刺繍でもしていようかしら」

「根は詰めないでよ。母さん、集中すると寝食忘れるタイプなんだから」

「はいはい。適当な時間にちゃんと寝るわよ。じゃあ、先にお風呂入ってくるわ」

「うん。今日は冷えるから、ゆっくり温まってきて」

「えぇ。そうするわ」

「あ、腰の湿布はまだある?」

「あるわよ。残りが心もとないから、明後日にでも診療所に行ってくるわ」

「そうしてよ。近いうちにあかぎれの薬は買い足しておくから」

「ありがとね。アンタも早く寝なさいよ。仕事で疲れてるんだから」

「はぁい」


 ナタリアが立ち上がったので、ダミアンも立ち上がり、使った食器類を重ね始めた。
 ナタリアには、男が好きだと自覚した10代半ばの頃に、そのことを告げてある。同性愛者はかなり少数派で、沢山の人が集まる王都でも奇異な目で見られやすい。
 ナタリアからどんな反応が返ってくるのかドキドキしながら告げたら、ナタリアはあっさりと『別にいいんじゃない? アンタが幸せに笑ってるなら、相手は女だろうが男だろうが関係ないわよ』と言った。あまりにもあっさり受け入れられて、拍子抜けすると同時に、ダミアンは心から安堵した。

 大好きで沢山の恩があるナタリアから白い目で見れれるのは正直耐えられないと思っていた。ナタリアの器の大きさに心から感謝した。
 未だにナタリアに紹介できる程惚れ抜いている相手は見つかっていないが、できたら、ナタリアが元気なうちにナタリアに紹介できる相手が欲しい。
 とはいえ、恋をするのは面倒に感じるようになってしまった。燃えるような恋ではなく、熾火のように穏やかな恋ならしてもいいかな、と思うが、相手を探すのが一苦労である。

 ダミアンは手早く食器類を洗うと、風呂に入ってから自室に引き上げた。少しだけ今やっている研究の参考になる魔術書を読んでから、灯りを消してベッドに上がって横になる。ナタリアが湯たんぽを入れてくれていたので、布団の中がじんわりと暖かい。

 ダミアンは天井を見上げて、ふとアルノーの顔を頭に思い浮かべた。
 アルノーは存外可愛くて、セフレとしては最高だが、残りの人生を寄り添う相手にはならない。身分違いだし、アルノーにはダミアンよりももっといい相手がいくらでもいるだろう。

 暫くの間だけ、アルノーにはダミアンに付き合ってもらおう。ダミアンがセックスで満足できる相手は貴重だ。そもそもペニスが入らない相手が多いし、遅漏気味で絶倫のダミアンとのセックスを嫌がって別れを切り出されたこともある。その点、アルノーは長年のアナニー生活のお陰でスムーズにペニスがずっぽりしっかり入ったし、意外と体力もあった。男に抱かれることに抵抗があるようだが、いざセックスを始めたら、ものすごく気持ちよさそうに喘ぎまくっていた。

 ダミアンは明日の夜が楽しみで、小さく笑った。アルノーに夕食を作って食べさせよう。ダミアンが作れるのは庶民的な家庭料理だけだが、貴族のアルノーには物珍しくていいかもしれない。実際、前回遊んだ時は、美味しそうに食べてくれた。アルノーの家の台所は広くて機能的で、料理をするのが楽しかった。次は何を作ろうかとぼんやり考えながら、ダミアンは温かい眠りに落ちた。

 いつもの時間に自然と目覚めると、ダミアンは欠伸をしながらベッドから下りて、着替えを片手に階下の洗面台へと向かった。台所の方からパンが焼けるいい香りが漂っている。
 ダミアンは顔を洗って髭を剃り、長い髪を一つの三つ編みにすると、制服に着替えた。魔導洗濯機に洗濯物を突っ込み、洗剤を入れてから蓋をして、スイッチを押す。

 台所へ行けば、ナタリアがスープをかき混ぜていた。今朝のスープは腸詰め肉と根菜ゴロゴロのスープらしい。ダミアンの好物の一つである。


「おはよう。母さん。卵はオムレツと目玉焼き、どっち?」

「んー。そうねぇ。今日は目玉焼きかしら。パンにのせて食べるわ」

「いいねぇ。俺もそうしよ。ミルクは蜂蜜あり? なし?」

「ありで。たっぷり入れてちょうだい。たっぷりね」

「いいよ。あ、蜂蜜を買い足した方がいいな。近いうちに買ってくるよ」

「お願いねー。冬場は消費が早いのよねぇ」

「風邪予防だと思えば安いもんじゃない」

「まぁね。お医者さんにかかるよりマシかしらね」

「明日の夜に帰るから、先に寝ててよ」

「はいはい。楽しんでらっしゃい」


 ダミアンはナタリアと出来上がった朝食を食べると、手分けして洗濯物を干してから、急いで出勤準備をして家を出た。
 今夜が今から楽しみだ。残業にならないように気合を入れて仕事をせねば。

 ダミアンは軽やかな足取りで職場へと向かった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
毎日投稿だけど時間は不定期   【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。  次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。    巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

処理中です...