拾った子犬は英雄様

丸井まー(旧:まー)

文字の大きさ
24 / 43

24:少しずつの進歩

しおりを挟む
 デニスが家に帰り着くと、いつも通りコニーがお出迎えをしてくれた。可愛いコニーを抱き上げて頬ずりしてから台所に行くと、クリストフが来ていた。一緒に料理をしていた2人がデニスに気づき、珍しく興奮気味に話しかけてきた。


「おかえり! デニス! 聞いてちょうだい! 今度こそ大幅にコニーが人間の姿に戻れる時間を増やせそうなの!!」

「おかえり! デニス! 今回は絶対上手くいく自信があるんだ! 倍近い時間、人間の姿に戻せる筈なんだ! 先にお風呂に入っておいで! 晩ご飯は完全に日が暮れた後! 早速実験するよ!」

「ただいま……えーと、2人ともお疲れ様? じゃあ、とりあえずお風呂に入ってくるねー」

「うふふ。お祝いのお酒の準備もしなくっちゃ!」

「この間買ってきたワインを開けようよ。アデラ」

「いいわね! 美味しいチーズも出しちゃいましょう」

「最高!」


 いつになく2人のテンションが高い。もう何か月もコニーにかけられた魔法を騙す魔法の研究をしているから、研究の成果が表れるのが嬉しいのだろう。デニスも、なんだかワクワクしてきた。コニーが人間の姿に戻れる時間が増えると、一緒にできることも増える。食事やお喋り、もしかしたら、また触りっことかできるかもしれない。
 デニスはうきうきしながら、二階の自室に向かい、着替えを取って、風呂場に向かった。

 コニーと一緒にお風呂に入ると、アデラとクリストフも順番にお風呂に入った。コニーのブラッシングをして待っていると、最後にお風呂が入ったアデラが出てくる頃には、完全に日が暮れていた。
 アデラが興奮気味にデニスに声をかけた。


「デニス! コニーにキスをして!」

「はぁい」


 デニスは、用意しておいた毛布でコニーを包んでから、コニーの口にキスをした。コニーの身体がすぐに白く光り、急いでソファーの上にコニーを置くと、数拍後に、毛布で身体を包んだ人間姿のコニーが現れた。


「今の時間! クリストフ! 正確に記録をつけるわよ!」

「よしきた! コニー君。体調に問題は? 違和感とかない?」

「あー……問題ないので服を着てもいいだろうか」

「「どうぞ!」」


 本当に今日はいつになく2人のテンションが高い。デニスも壁にある時計を見て、今の時間を確認した。
 服を着てきたコニーも一緒に、夕食を食べ始める。いつもは食べ終わって少しお喋りをしていると子犬の姿に戻るのだが、今日はまだ戻る気配がない。


「半刻は経ったわね」

「うん。まだ戻る気配はなさそう」

「どのくらい人間の姿でいられるのかな」

「デニス。まだ戻る様子がないし、もしよかったら、皿洗いの仕方を教えてくれないか? 人間の姿でいられる時間が伸びるのなら、俺もなにか手伝いたい」

「いいですよー。じゃあ、一緒に後片付けしましょうか」


 嬉しそうに微笑むコニーの言葉に、なんだかデニスも嬉しくなる。デニスは、『とりあえず第一関門達成!』とワインで乾杯しているアデラ達をそのままに、空になった皿をコニーと一緒に台所に運んで、コニーと一緒に皿洗いを始めた。コニーが慣れない手つきで真剣な顔をして皿を洗うのを見守りつつ、なんかいいなぁと思った。コニーと一緒に食事をして、お喋りをするのも楽しいが、こうして些細なことを一緒にできるのもなんだか嬉しい。
 デニスはコニーが洗ってくれた皿を一緒に拭きながら、だらしなく笑った。

 一刻が過ぎても、コニーが子犬の姿に戻る気配がない。4人で居間のソファーに座り、今は暇潰しも兼ねて、カードで遊んでいる。人間の姿のコニーとカードで遊ぶのは初めてだ。なんだかすごく嬉しいし、楽しい。


「一刻過ぎても子犬にならないわね」

「これは想定以上に時間が伸びてる可能性が大きいね」

「素直にありがたいな。一度一緒にこうしてカードで遊んでみたかったんだ」

「楽しいですね。コニー」

「あぁ」


 コニーがはにかんで笑った。人間の姿のコニーは本当にすごく格好いいのだが、なんだか今のコニーは可愛く思える。デニスは嬉しそうなコニーにほっこりしながら、カード遊びを楽しんだ。

 コニーが子犬の姿に戻ったのは、人間の姿に戻ってから、二刻を少し過ぎた頃だった。アデラとクリストフが、手を取り合って大喜びした。


「四倍! 四倍の時間だよ! アデラ!」

「やったわね! クリストフ! コニー! なにか違和感とかない?」

「わふん」

「大丈夫みたい」

「ふははー! これはもしかしたら、本当にコニー君の魔法がとけるかもしれないよ!」

「えぇ! 慎重に進めるべきだけど、これは大きな進歩よ!」

「やったね。コニー」

「わふん!」


 デニスがコニーを抱き上げると、コニーが嬉しそうに尻尾をぶんぶん振った。コニーをやんわり撫でると、甘えるように掌に頭を擦りつけられる。うちの子世界で一番可愛い。デニスはでれっとしながら、コニーを思う存分撫でまわした。

 デニスは明日も仕事なので、先にコニーと寝ることにした。アデラとクリストフは、魔法の成功のお祝いでお酒を飲むらしい。2人とも本当に嬉しいのだろう。デニスもすっごく嬉しい。二刻も人間の姿に戻れると、コニーと一緒にできることがぐっと増える。

 デニスは、コニーを抱っこして自室に向かいながら、ふと思った。どうして自分は、こんなにも嬉しいのだろう。コニーはもう家族同然だからだろうか。でも、魔法がとけてしまったら、コニーはこの家からいなくなってしまう。それは酷く寂しいし、素直に嫌だなって思う。
 自分でもうまく言葉にできない感情が、デニスの頭の中をぐるぐる回っている。

 デニスは布団に潜り込み、定位置で丸くなっているコニーに話しかけた。


「コニー。あのね。コニーが人間の姿に戻れるのは本当に嬉しいんだ。でも、コニーの魔法が完全にとけて、この家から出ていっちゃうのは嫌だなぁ。僕」

「わふっ!?」


 コニーの垂れ耳が、驚いたようにぴょんと動いた。


「うーん。コニーのことを完全に家族だと思ってるからかなぁ。コニーと一緒に何かできるのがすごく嬉しくて楽しいんだよねぇ。人間の姿に戻っても、ずっと一緒にいて欲しいなぁ。……なんて、僕の我儘だね。ごめんね。コニー」

「わふわふ!!」

「ん? あ、今日はもう人間の姿に戻るのはダメだよ。身体に負担がかかるかもしれないから。次の満月って4日後だよね。その時に、いっぱい話そう?」

「……わふ」


 コニーが何か伝えようとしているのか、デニスの唇に口を触れさせようとしたので寸前で止めた。一晩に何回も人間の姿に戻って、コニーの身体に何かあるといけない。幸い、次の満月は4日後だ。その時に、ゆっくりと話せばいい。
 デニスは、コニーの背中をやんわりと撫で、なんとなくコニーを抱きしめて、目を閉じた。

 翌朝。顎にふわふわしたものが触れる感覚で目覚めたデニスは、朝から可愛いコニーを見て、だらしなく笑った。


「おはよう。コニー。起こしてくれてありがとう。身体に変化はない?」

「わふ」


 コニーが首を横に振ったので、一安心である。寝間着から着替えて、コニーを抱っこして階下に向かい、顔を洗って髭を剃ってから居間に行くと、居間がものすごく酒臭かった。アデラとクリストフが、ソファーで寝ている。空になっている瓶がいっぱいある。2人でどれだけ飲んだのだろうか。デニスはちょっと呆れて、コニーを抱っこしたまま、まずは居間の窓を開けた。


「コニー。片付けが終わるまで、僕の部屋で待ってる? お酒臭いでしょ」

「わふ……」


 コニーの鼻に微妙に皺が寄っている。コニーにはキツいくらいの臭いらしい。デニスはぱたぱたとコニーを自室に連れて行ってから、大急ぎで居間の空瓶を台所に運び、バタバタと外に出て、急いでコニー用のミルクを搾って、卵を分けてもらうと、台所で朝食を作り始めた。

 多分、酒に強いアデラとクリストフでも、あの量を飲んだら二日酔いになっていると思う。手早く卵入りの雑穀粥を作り、コニーのご飯も作ると、コニーを迎えに行って、少しだけ酒の臭いがマシになった居間に向かった。

 寝ていた2人を起こすと、2人とも見事に二日酔いになっていた。とりあえず、気分がスッキリする薬草茶を淹れて、2人に飲ませてから、デニスは急いでコニーと一緒に朝食を食べた。

 玄関のところでお見送りをしてくれるコニーに、しゃがんで話しかける。


「ごめんだけど、あの2人のこと、よろしくね」

「わふっ!」

「ふふっ。ありがとう。コニー。いってきます」

「わふ!」


 デニスはコニーに見送られて、いつもより急いで出勤した。遅刻はギリギリ回避できたのでよかったが、とりあえずアデラとクリストフには、暫くお酒禁止令を出そうと思う。飲み過ぎは身体によくない。
 デニスは今日も真面目に働きながら、昼食の時間までには、飲み過ぎてぐったりしていた2人が復活しているといいなぁと祈った。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...