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第二部――第三章 大事な人を守る聖戦
第二十九話 仕組みを超えた愛情
しおりを挟む数秒、数分、数十分、数時間と時は過ぎていき、通常の人間ならばそろそろ起きるはずの時間にも陽炎は目覚めず、毒の熱に魘され、苦しみもがいている。
ベッドのシーツをぎゅっと無意識に掴んでいて、その手に鴉座は触れたかったが、彼を守ることを許されたとはいえ、今触れるのは自分には許されないこと。
自分は数ある星座の代理なのだ、今は。
本来ならば、何の能力もない自分が此処にいて良いはずはないのだから。
だから、せめて星座を代表して陽炎が苦しみながらも、痛み虫を得て毒から逃れることを見守ることだけが自分の役目。
「星座の誰もがきっと苦しんでいる、果物だって苦しんでいる。だけど、それでも貴方達は幸せだ――愛してる人が下手したら死ぬかも知れない光景を、直に目の当たりにしないのだから」
(プラネタリウムの仕組みなんかじゃない、この思いはきっと。プラネタリウムの仕組みだとしたら、今この方に被害を与えないために忠実属性に変えてる私の――この心のざわつき、それに自然と口に愛してると出せるのはどういう訳だ?)
鴉座はため息をついて、首を振る。
柘榴に自分が現れる条件に一つ出したのだ。自分は陽炎をもう傷つけたくないから、自分の属性だけ操ることを。それを柘榴も了承した、というよりも寧ろ望んでいた。
だから、――現れたときから忠実だった筈なのに……。
「……プラネタリウムが狂っているのか、それともこの方に私が狂っているのか。……どちらもあり得そうだ。他に、私みたいなのが居ないといい」
そうじゃなくても、自分が現れる前の陽炎の心は、不安定だった。
それはこの状況の所為ではなく、柘榴の言葉で――。
思い出すだけで腹立たしく知らぬうちに拳に力が宿り、陽炎には見せられない凶悪な顔をしてしまう。
歯の奥を噛みしめ、怒りを抑える。
(――だから人間は嫌いだ。弱っているところに、戸惑いをもたらすな。煩わせるな。お前がもしも本気になってしまったら――また、お前に奪われる。今度こそ、心まで……。この人は、お前には底なしに弱いのだから)
弱くさせた原因の己を憎みつつも、そんな自分を選んではくれないだろうか、と鴉座は少し欲が出ている自分に気づき、苦笑する。
(――何を、期待して居るんだ。自分が何をしたか、忘れたのか? 本来なら、許される存在じゃない。今、此処に居るだけでも――苦しむ姿でも見守れることを、良しとしろ。私を……もう二度と期待させないで。貴方は、あの時何を言おうとしたの?)
「俺は、の先はこの事件が終わったら聞いても宜しいでしょうか? 我が……愛しの神」
本気ではない。
そしてこの言葉は全部嘘にしよう。
鴉座は覚悟しながら、苦しんで聞こえないであろう主人に問いかける。
丁度、その時だった。ノック音が聞こえたので、赤蜘蛛だろうかと思い、部屋に入るのが駄目なことを説明しようとしたのだが何か言葉を発するよりも先に、やけに耳障りの良い男の声が聞こえた。
脳に響くようで、すぐにその声音は忘れてしまう、だけどどんな印象だったかは覚えてしまうような声。
印象は、やけに耳に優しい低い声。
「陽炎君はいる? 鴉の妖仔も居る?」
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