122 / 358
第三部 第一章――再会
第十四話 選抜コック
しおりを挟む
次の日、コック選抜の日だった。
まだ白律季には正式には会えない。何やら、妖術師同士で何か初めての国のための妖術を考え出してるようで、忙しいみたいだ。
陽炎は、少し胸が軋む思いで、王族の席に座っていた。鴉座と蟹座は今回は立会人としてしか許されて無く、二人とも他の城の従者と一緒に会場を見守っている。
会場には数人のコックスーツに身を纏った者と、白銀陽がいる。
白銀陽と黒雪の目はあわされることがなく、合った瞬間が恐ろしく陽炎はひたすら心臓の震えを実感する。
――もしもばれたら。
――もしも、ガンジラニーニだとばれたら、柘榴だとばれたら。
(神様、確たる証拠を与えさせませんように――)
陽炎は縋る思いで、滅多に信じないあらゆる神という神に祈っておいた。
そんな心情を察したように、陽炎と白銀陽が目を合わせた瞬間、白銀陽は微笑み調理器具の準備をする。
彼の笑みは、既に会ってる母親を思い出させる。
すぐ側にいるのに、側にいる母親よりも、母のような印象が強くて、陽炎はただの笑み一つで少し緊張が解ける。
「――では、調理開始」
選抜のための、王族に出すための料理対決が始まった。
全員同じ器具だがどれをどう使うかは任されている。そして食材もスパイスも同じだが、一つだけ何かを持ち込んでいいとされている。
白銀陽は手慣れた手つきで調理していき、他の者も緊張しながらも手際よく作っていく。
数十分後には、見目が見事で味も美味しそうな料理達が並ぶ。
飾り付けも味としての外見も、一番白銀陽が見事だっただけに黒雪は不快感を、陽炎は安堵を感じる。
それぞれ王族達に出される前に一口、毒味係が食べてから王族に渡る。
陽炎の隣にいる妹が、美味しそうね、と呟いて何処か嬉しそうなのが見える。
実際、厳しい顔つきをしているのは王様と黒雪くらいなものだ。そして複雑な顔をきっと己はしているのだろう、と陽炎は苦笑した。
幼い妹も、同い年くらいの妹も楽しげに料理を口にする。
そして行儀良く口にして満足そうな顔をしている。
陽炎も躊躇いがちに食べてみる。
口にすれば、ふわっと広がる香辛料と不思議な味付け。
目を見開き、思わず陽炎は飲み込んでから、美味しいと呟いてしまう。
柘榴が持ち込んだのはキクラゲだった。不思議な味付けに丁度よい食感がこりこりとする。
それぞれコック達はコック帽を脱いで、姿をちゃんと露わにする。
それぞれ胸にネームプレートを書いてある。
「そこの君」
黒雪が料理を口にしてから、にこりと微笑み白銀陽の隣の者を指さす。
突如名指され驚いた彼は目が落ちるのではと思うほど見開き、はいと今にも張りつめた糸が切れそうな声で返事をする。
「君は何を持ち込んだの?」
「はい、予め作っておいたラスクです。歯ごたえに少々工夫をと思いまして……」
「とても美味しいね。それに経済的だ。ラスクはパンの耳でも作れるからね。じゃあ隣の君は?」
目というか言葉が交わされる瞬間が、きた。
陽炎は目を背けたい思いの中、背いたらどうなるか判ってるだろうなという視線が蟹座からきてるのが判るので、後が怖くて背けられない。
鴉座も不安そうな視線を送っている。
二人に目をやって判ってるよという意味と安心させる意味を込めて笑みを向けてから、白銀陽に視線を向ける。
白銀陽は黒雪にはい、と返事をしてから何でしょうと問うた。
「君は何を使ったの?」
「キクラゲです」
「ああ、そう。キクラゲは体には良いけれど……ちょっと意味が、なぁ。今度から王族に出すときは気をつけた方がいいよ」
「……――何故だかお教えいただいても?」
「あのね、キクラゲって裏切り者の耳って意味なんだ。裏切り者の耳を食べるのは、ちょっとなぁ」
黒雪がそう言うと、妹たちが嫌そうな顔をして、王様までもが顔を顰める。
へまをしてしまったか、己が庇った方がいいのかと思案していると白銀陽はにこりと微笑んだ。
「皇太子様、キクラゲは桑、槐、楮、楡、柳の五木といって有用木代表の木に生えます。薬効もあって、気を益し、飢えず、身を軽くし、志しを強くする。そして穀を断ち、痔を治すという話を聞きます。とても素晴らしい食材でしょう? とても庶民である私たちには責任で重そうな王族という地位に、少しでも身が軽くなればと思ったのです。それに、長いこと椅子に座ってることが多いでしょう? ですから、その……」
「痔にも効くのか」
王様は反応した。それも嬉々として。
親父、痔だったのか、と陽炎と黒雪は戦慄いたが、白銀陽はにこりと微笑んで頷いた。
「それに胃も補うので、国務で食の連続が続いてる両陛下や皇太子や姫君にはいいのではと思いまして……」
「素晴らしい、気配りがよく行き届いている!」
親父、そこまで痔が酷いのか、と陽炎と黒雪は戦慄く程の、王様は喜びようが凄かった。
しかも従者達も少しざわつき、今度使ってみよう! というような顔をしている。
(白銀陽、すげぇ……一気に劣勢を跳ね返して優勢に立ったよ)
しかも黒雪の姑的な嫌がらせを利用して。
王様が、白銀陽を是非にと城のシェフの一人に出迎えたのは言うまでもない。
まだ白律季には正式には会えない。何やら、妖術師同士で何か初めての国のための妖術を考え出してるようで、忙しいみたいだ。
陽炎は、少し胸が軋む思いで、王族の席に座っていた。鴉座と蟹座は今回は立会人としてしか許されて無く、二人とも他の城の従者と一緒に会場を見守っている。
会場には数人のコックスーツに身を纏った者と、白銀陽がいる。
白銀陽と黒雪の目はあわされることがなく、合った瞬間が恐ろしく陽炎はひたすら心臓の震えを実感する。
――もしもばれたら。
――もしも、ガンジラニーニだとばれたら、柘榴だとばれたら。
(神様、確たる証拠を与えさせませんように――)
陽炎は縋る思いで、滅多に信じないあらゆる神という神に祈っておいた。
そんな心情を察したように、陽炎と白銀陽が目を合わせた瞬間、白銀陽は微笑み調理器具の準備をする。
彼の笑みは、既に会ってる母親を思い出させる。
すぐ側にいるのに、側にいる母親よりも、母のような印象が強くて、陽炎はただの笑み一つで少し緊張が解ける。
「――では、調理開始」
選抜のための、王族に出すための料理対決が始まった。
全員同じ器具だがどれをどう使うかは任されている。そして食材もスパイスも同じだが、一つだけ何かを持ち込んでいいとされている。
白銀陽は手慣れた手つきで調理していき、他の者も緊張しながらも手際よく作っていく。
数十分後には、見目が見事で味も美味しそうな料理達が並ぶ。
飾り付けも味としての外見も、一番白銀陽が見事だっただけに黒雪は不快感を、陽炎は安堵を感じる。
それぞれ王族達に出される前に一口、毒味係が食べてから王族に渡る。
陽炎の隣にいる妹が、美味しそうね、と呟いて何処か嬉しそうなのが見える。
実際、厳しい顔つきをしているのは王様と黒雪くらいなものだ。そして複雑な顔をきっと己はしているのだろう、と陽炎は苦笑した。
幼い妹も、同い年くらいの妹も楽しげに料理を口にする。
そして行儀良く口にして満足そうな顔をしている。
陽炎も躊躇いがちに食べてみる。
口にすれば、ふわっと広がる香辛料と不思議な味付け。
目を見開き、思わず陽炎は飲み込んでから、美味しいと呟いてしまう。
柘榴が持ち込んだのはキクラゲだった。不思議な味付けに丁度よい食感がこりこりとする。
それぞれコック達はコック帽を脱いで、姿をちゃんと露わにする。
それぞれ胸にネームプレートを書いてある。
「そこの君」
黒雪が料理を口にしてから、にこりと微笑み白銀陽の隣の者を指さす。
突如名指され驚いた彼は目が落ちるのではと思うほど見開き、はいと今にも張りつめた糸が切れそうな声で返事をする。
「君は何を持ち込んだの?」
「はい、予め作っておいたラスクです。歯ごたえに少々工夫をと思いまして……」
「とても美味しいね。それに経済的だ。ラスクはパンの耳でも作れるからね。じゃあ隣の君は?」
目というか言葉が交わされる瞬間が、きた。
陽炎は目を背けたい思いの中、背いたらどうなるか判ってるだろうなという視線が蟹座からきてるのが判るので、後が怖くて背けられない。
鴉座も不安そうな視線を送っている。
二人に目をやって判ってるよという意味と安心させる意味を込めて笑みを向けてから、白銀陽に視線を向ける。
白銀陽は黒雪にはい、と返事をしてから何でしょうと問うた。
「君は何を使ったの?」
「キクラゲです」
「ああ、そう。キクラゲは体には良いけれど……ちょっと意味が、なぁ。今度から王族に出すときは気をつけた方がいいよ」
「……――何故だかお教えいただいても?」
「あのね、キクラゲって裏切り者の耳って意味なんだ。裏切り者の耳を食べるのは、ちょっとなぁ」
黒雪がそう言うと、妹たちが嫌そうな顔をして、王様までもが顔を顰める。
へまをしてしまったか、己が庇った方がいいのかと思案していると白銀陽はにこりと微笑んだ。
「皇太子様、キクラゲは桑、槐、楮、楡、柳の五木といって有用木代表の木に生えます。薬効もあって、気を益し、飢えず、身を軽くし、志しを強くする。そして穀を断ち、痔を治すという話を聞きます。とても素晴らしい食材でしょう? とても庶民である私たちには責任で重そうな王族という地位に、少しでも身が軽くなればと思ったのです。それに、長いこと椅子に座ってることが多いでしょう? ですから、その……」
「痔にも効くのか」
王様は反応した。それも嬉々として。
親父、痔だったのか、と陽炎と黒雪は戦慄いたが、白銀陽はにこりと微笑んで頷いた。
「それに胃も補うので、国務で食の連続が続いてる両陛下や皇太子や姫君にはいいのではと思いまして……」
「素晴らしい、気配りがよく行き届いている!」
親父、そこまで痔が酷いのか、と陽炎と黒雪は戦慄く程の、王様は喜びようが凄かった。
しかも従者達も少しざわつき、今度使ってみよう! というような顔をしている。
(白銀陽、すげぇ……一気に劣勢を跳ね返して優勢に立ったよ)
しかも黒雪の姑的な嫌がらせを利用して。
王様が、白銀陽を是非にと城のシェフの一人に出迎えたのは言うまでもない。
0
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】ホットココアと笑顔と……異世界転移?
甘塩ます☆
BL
裏社会で生きている本条翠の安らげる場所は路地裏の喫茶店、そこのホットココアと店主の笑顔だった。
だが店主には裏の顔が有り、実は異世界の元魔王だった。
魔王を追いかけて来た勇者に巻き込まれる形で異世界へと飛ばされてしまった翠は魔王と一緒に暮らすことになる。
みたいな話し。
孤独な魔王×孤独な人間
サブCPに人間の王×吸血鬼の従者
11/18.完結しました。
今後、番外編等考えてみようと思います。
こんな話が読みたい等有りましたら参考までに教えて頂けると嬉しいです(*´ω`*)
【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる