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第六部~梅花悲嘆~
第四話 毒はお断り
しおりを挟む「ざーーっくーん♪」
「げ、鬼が来た」
柘榴は読みかけの盆栽の本を顔を隠すまで掲げて、蠍座の視線から逃れようとする。
そこまでするのならば、いっそ逃げればいいのだが、それは以前やって、全速力で笑いながら毒をもって追いかけてくる彼女がトラウマになってるので、出来ない。あの時の恐ろしさといったら。下手なホラーより、よっぽど恐ろしく、きっとカメラも青白い。
蠍座は手にチョコクッキーの袋を持って、柘榴に歩み寄る。
「うふふ~、ねぇ、今日こそ手作りのお菓子、受け取ってくれるわよねぇ~?」
「……あー、悪いけど、おいら洋菓子嫌い……。和菓子も嫌いだけど」
「一口でいいのよぅ~? 魚クンにあげてもいいし~っていうか、魚クンが食べて~?」
不気味に笑うガスマスク。柘榴は戦慄いた。
彼女がこういうときは決まって何か仕込んでいて、それで痛い目を見たこともある。
昔、一番最初に毒を盛られたのはたこわさで、中にはガンジラニーニの体質とは逆に真っ赤になって痙攣する毒だった。
二番目に盛ってきたのは、酒で、泡を吹いて危うく白目を剥いて死ぬところだった所までいく毒だった。
三度目は無い! というわけで、今度こそきっぱり断ろうとすると、蠍座はにじりよってくる。
その姿が怖い。今なら陽炎の、蠍座への愛属性恐怖も分かる、誰よりも深く!
柘榴は、それなら受け取ったふりして捨てればいいと思いつくと、蠍座に手を出して、袋を受け取ることにした。
袋からして禍々しい黒と紫のマーブルなのは、どうしてだろうか、酷く毒々しい。
蠍座は柘榴が受け取ると満足げに去っていく。
丁度入れ違いに陽炎と蓮見が戻ってくる。
柘榴は袋を、窓際において、声を掛ける。
「白雪、行った?」
「うん。でもいいのか、本当に。白雪を許さなくてもいいんだぞ?」
「なーにいってんの、一番怒ンなきゃならないかげ君が怒ってないのに、おいらが怒ってどーすんの」
柘榴は少し怒ったような表情で陽炎を睨み付ける。その表情に陽炎は苦笑して、「悪かったって」と、謝る。その間に蓮見がその場を少し離れるので、陽炎は「遠くへ行くなよ」と言い、柘榴と話し込む。
「――赤蜘蛛に連絡とった方がいいんじゃなかったの?」
「……関係ない人を巻き込むわけにはいかないから。あの人、退職しただろ? もう、自由なんだよ。何より、俺のこと忘れてるし、白雪は死んだと思ってる」
「……国がどうなってるか、くらいは調査してくれそうなのに。……なんか、もうかげ君と出会ってから大分経つンだぁねー」
「不思議だよなー。昔から居た感覚だよ、俺は」
陽炎がそう笑うと、柘榴が人なつこい笑みを見せて「そうだね」と頷いた。
「蓮見が生まれてからも、一年以上は経つんだなー……」
「かげ君は外見老けないねー。中身も若々しい。まぁ白雪の薬の所為なんだけどサ」
「ガキだって言いたいのか? お前より年上の奴を」
陽炎は年齢のことを気にしているのか、口の端をつり上げて、一瞬目を据わらせた。
「いえいえ、とんでもない。若いって事はすばらしーよ」
柘榴はにやにやと笑い、さて、と息をつく。
「――血の臭いがすんだけど? 誰か切った?」
「ああ……さっき、字環と会って。触ってきたから、つい」
「……字環、か。かげ君。一つ、分かったことがあるんだ――」
それまでの柔らかな表情は消えて、柘榴の顔は真剣になる。それを見た陽炎はそれにあわせて己のそれまでの和やかな表情を一掃して、きりっとする。
柘榴はポケットからプラネタリウムを取りだして、それを一回宙に投げて、キャッチする。
「――星座をプラネタリウムから解放出来る方法が分かった」
その言葉に、陽炎は心からの喜びを見せた。だが柘榴の表情は硬いままだ。
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