【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

文字の大きさ
314 / 358
第七部 鬼夢花

第四十一話 吹っ切れた悪魔座

しおりを挟む

 白雪が迎えにきた時、陽炎は驚き、菫のことを聞くと、白雪は顔を伏せた。
 まさか、と一気に陽炎は青ざめ、目に涙を浮かべるが、それを見た瞬間、流石にこれ以上はまずいと判断した白雪が、すぐに生きてるよ、と口にした。
 事情を説明し、陽炎がほっとした所で、白雪は陽炎を撫でる。すると、彼は苦笑を浮かべ、鴉座に報告しに行く。
 ――陽炎は、翡翠の元へ行き、得意げな顔をしてみせる。
 どうだ、分かり合うことが出来るのだと言いたげな、満面の笑み。
 翡翠は、苦笑し、陽炎に問いかける。
 鴉座も隣に居るが、翡翠は鴉座のことを気にしてない。

「――此度の件には礼を言おう。何でも言え、叶えてやろう」
「……兄さんの国交は呑むの?」
「ああ、それと蓮見に精術を教えることとなった」
「……――ん」
「何もないのか?」

 翡翠の問いかけに、陽炎は、少し考え込んでから口にする。

「あるよ。物理で世界最強の人、知らない?」
「――知り合いに居るが。何だ、弟子入りでもするつもりか?」
「うん。強く、なりたいんだ」

 陽炎の眼差しには、確かに強い光りが宿っていて、覚悟は硬いと思わせる。
 この目は、頼りたくなる目をしている――頼った結果が、これなのだろう。だとすると、この目も悪くはない、と翡翠は思った。

「今回、俺は鴉座も柘榴も守れなかった――もう、嫌なんだ。自分の弱さに、歯がゆい思いをするのは」
「――判った。手紙をしたためておく。結構な変わり者だからな、気をつけよ」
「うん、判った――スミレとはどう?」
「――まぁ、ぎこちないが、夜はなるべく共に食事をとるように努めている」
「そっか」
「――残念だな。もうすぐそち達は帰るだろう、可憐とか可憐とか可憐とか可憐とか可憐が居なくなったり、菫の思い人が居なくなるのは残念だ」
「可憐? ――まさか、カレン?!」

 今まで翡翠に反応しなかった鴉座がその単語に反応した、陽炎はその単語に女か、と思ったが、鴉座が慌てて、幽霊座ですよ! と教えてくれたので、驚き、目を見開く。

「幽霊座が起きた!?」
「――ぬ? 今まで寝ていたのか? ああ、起きた……と、思う。ああ、可憐……何と愛らしいことか。まっこと残念だ――予の愛妾になってくれんかの」
「カレンが妾なんて! 許しませんよ!」
「――何故、そちが怒る?」

 翡翠の冷静なつっこみに、鴉座ははっとし、陽炎を見やる。
 何とか誤魔化そうと、鴉座は――その場から逃げ出した。
 
「ちょっと、待てこらあああ! お前、あいつとどういう関係だ!?」
「言えないんです! 誰にも言えないんです!」
「浮気か、お前も?!」
「も、ってなんですか! 私は違いますよ! もっと純粋な関係ですー!」
「ならちゃんと説明しやがれええ!」
 
 どたどたと駆ける鴉座と陽炎を、遠くから見て、ため息をつく存在が一人――悪魔座だ。
 悪魔座は、己とまだ決着はつけてない。
 もやもやとした気持ちが広がっていて、白雪の言葉を思い出す。
 
(君が君の気持ちに向き合うときまで、オレは翡翠の味方だ――邪魔してはならない、君もね。だってどうして邪魔する必要があるんだ? ただの弟の恋路ならば)
 
 
「……だって、ぼかぁただ一人の兄ちゃんだ。どうすればいいんだね? 教えてよ、カラス兄さん……アトューダ様!」
「何、して、るの。アクマ」
「ぎゃあああああああ!!!!」

 突然現れた幽霊座に、悪魔座は心臓が飛び出るかと思うほど、叫び、飛び上がった。
 幽霊座はきょとんとし、それから、にこぉと笑った。その笑みに胸がどきん、とときめくのも恋する彼ならば仕方がない。
 幽霊座は足音に気付き、視線を向ければそこに鴉座が居たので、嬉しげに駆けようとした――だが、その手を、悪魔座は取った。
 急に、手放したくなくなり――この手をとった瞬間、勇気が湧いた。
 この存在を、手にしたいと。
 
「どうし、たの」
「何でもないんだね。転びそうにみえたからだね。ほら、離したよ。ぼかぁ、白雪に用事があるから、ちょっと行ってくるんだね。あと、翡翠にも――ゴースト、カラス兄さんと話しておいで」
「う、うん……いってくる、ねぇ……!」
 
 幽霊座がどたばたと五月蠅いその足音に紛れた後、悪魔座はその背を眺め、くすくすと笑う。

(――ぼかぁ、君が好きなんだ。今更、もう諦めるつもりはないんだね。だから、ちゃんとあの二人に宣言してくるね。君を手に入れるって。いつかちゃんと、兄だということも認めさせて)
 
 
「長い時間をかけて、の方が、有効的だね」
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【完結】ホットココアと笑顔と……異世界転移?

甘塩ます☆
BL
裏社会で生きている本条翠の安らげる場所は路地裏の喫茶店、そこのホットココアと店主の笑顔だった。 だが店主には裏の顔が有り、実は異世界の元魔王だった。 魔王を追いかけて来た勇者に巻き込まれる形で異世界へと飛ばされてしまった翠は魔王と一緒に暮らすことになる。 みたいな話し。 孤独な魔王×孤独な人間 サブCPに人間の王×吸血鬼の従者 11/18.完結しました。 今後、番外編等考えてみようと思います。 こんな話が読みたい等有りましたら参考までに教えて頂けると嬉しいです(*´ω`*)

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今月は2冊出版!
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...