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「医師、ではないやもしれんが」
仁右衛門の返答に在昌はまゆをひそめる。
「なんでも南蛮人が近くに来ておるとかで。かの者たちを泊めた屋敷の者の不調を薬を煎じて治してみせたとか」
「南蛮人とな。どのような身なりをしているかは聞いたか」
在昌は祈るような心持ちでたずねた。
正直なところ薬を購うような持ち合わせはない。だが、“彼ら”であればあるいは、という思いがあった。
「うむ、黒ずくめの格好で奇妙な装身具を身につけておるとか」
「まことか」
「見たわけではないからしかとはいえぬが」
意気込んで聞く在昌に仁右衛門はややたじろぎながら応じる。
これは神(デウス)のお導きか――在昌は思わず敬虔な心持ちとなり十字を切った。
そう、深く帰依しているわけではないが、彼は陰陽道の大家の家に生まれながら耶蘇教に帰依しているのだ。
切支丹陰陽師、勘解由小路在昌、四十四歳。
彼はいま豊後に向かう旅の途上にある。
在昌は家族のことを仁右衛門に頼み、例の南蛮人のもとへすぐにおもむいた。目立つ彼らのことだ、近隣の者に居場所をたずねればすぐにいずこに滞在しているかは判明する。
百姓家で住人に訪問した理由を告げると、すぐに南蛮人たちとの対面が叶った。
ふたりの南蛮人と、これはのちに知るのだが“同宿”という伴天連(バテレン)を手伝って宣教の任に当たっていた日本人門徒の少年と、中年の下男の計四人が狭い一室に押し込められていた。
だが、農具に等しいような扱いを受けていても在昌の目には彼らの姿が救いの神に見えた。
仁右衛門の返答に在昌はまゆをひそめる。
「なんでも南蛮人が近くに来ておるとかで。かの者たちを泊めた屋敷の者の不調を薬を煎じて治してみせたとか」
「南蛮人とな。どのような身なりをしているかは聞いたか」
在昌は祈るような心持ちでたずねた。
正直なところ薬を購うような持ち合わせはない。だが、“彼ら”であればあるいは、という思いがあった。
「うむ、黒ずくめの格好で奇妙な装身具を身につけておるとか」
「まことか」
「見たわけではないからしかとはいえぬが」
意気込んで聞く在昌に仁右衛門はややたじろぎながら応じる。
これは神(デウス)のお導きか――在昌は思わず敬虔な心持ちとなり十字を切った。
そう、深く帰依しているわけではないが、彼は陰陽道の大家の家に生まれながら耶蘇教に帰依しているのだ。
切支丹陰陽師、勘解由小路在昌、四十四歳。
彼はいま豊後に向かう旅の途上にある。
在昌は家族のことを仁右衛門に頼み、例の南蛮人のもとへすぐにおもむいた。目立つ彼らのことだ、近隣の者に居場所をたずねればすぐにいずこに滞在しているかは判明する。
百姓家で住人に訪問した理由を告げると、すぐに南蛮人たちとの対面が叶った。
ふたりの南蛮人と、これはのちに知るのだが“同宿”という伴天連(バテレン)を手伝って宣教の任に当たっていた日本人門徒の少年と、中年の下男の計四人が狭い一室に押し込められていた。
だが、農具に等しいような扱いを受けていても在昌の目には彼らの姿が救いの神に見えた。
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