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この日、在昌のもとをひとりの武士がおとずれた。
デウス堂の敷地の一角、屋敷の一隅を住処として割り当てられた在昌は、その一室で相手と対面した。彼は一目でそれとわかるほどに緊張している。
「お、お、お初にお目にか、か、か、かかりもうす。そ、そ、それがしは清水喜平太晴幸(しみずきへいたはるゆき)ともうす者で、で、で、ござる」
声をうわずらせる様は、おかしみを通り越していっそ哀れを誘った。
「こちは勘解由小路在昌ともうす。して、いかなる用向きでまいられた」
「じ、実は」
清水は軍配者、石宗がろうした策を明かしたのだ。
「そ、それがしは正直なところ、蹴鞠を得手とはしてお、お、おりませぬ。さらには、度を過ぎた緊張しいでござって」
清水の顔には悲愴な色が浮かんでいる。
「御屋形様の前で無様を、さ、さらせば、清水家の家名に傷をつけることとあいなりまする」
うべなるかな――一蓮托生の身だ、在昌も神妙な顔でうなずいた。
しかし、一方で何ゆえに相手が自分のもとをおとずれたのかの見当がつかずにいる。だが、清水が次に発したせりでそれもあきからとなった。
「そこで貴殿にお頼みしたき儀がござる」
在昌が「お頼みしたき儀」と聞き返すと、清水は「さよう」と首肯する。
「陰陽道の術でもってそれがしの性根のすわらぬところをどうにかしていただきたいのでござる」
その言葉を耳にした瞬間、在昌の顔は渋面となった。
陰陽道、というものには様々な伝承がつたわっている。そのなかにはとても人知の及ぶものではないものも少なくない。ましてや、勘解由小路家は賀茂の姓を名乗っていた平安の世から安倍家とともに多くの伝説を作ってきた一族だ。追いつめられればすがりたくなる気持ちもわからなくはない。
したが、こちは――在昌は胸のうちで複雑な思いでつぶやく。
満足に陰陽道の術を使うことはできぬ――。
デウス堂の敷地の一角、屋敷の一隅を住処として割り当てられた在昌は、その一室で相手と対面した。彼は一目でそれとわかるほどに緊張している。
「お、お、お初にお目にか、か、か、かかりもうす。そ、そ、それがしは清水喜平太晴幸(しみずきへいたはるゆき)ともうす者で、で、で、ござる」
声をうわずらせる様は、おかしみを通り越していっそ哀れを誘った。
「こちは勘解由小路在昌ともうす。して、いかなる用向きでまいられた」
「じ、実は」
清水は軍配者、石宗がろうした策を明かしたのだ。
「そ、それがしは正直なところ、蹴鞠を得手とはしてお、お、おりませぬ。さらには、度を過ぎた緊張しいでござって」
清水の顔には悲愴な色が浮かんでいる。
「御屋形様の前で無様を、さ、さらせば、清水家の家名に傷をつけることとあいなりまする」
うべなるかな――一蓮托生の身だ、在昌も神妙な顔でうなずいた。
しかし、一方で何ゆえに相手が自分のもとをおとずれたのかの見当がつかずにいる。だが、清水が次に発したせりでそれもあきからとなった。
「そこで貴殿にお頼みしたき儀がござる」
在昌が「お頼みしたき儀」と聞き返すと、清水は「さよう」と首肯する。
「陰陽道の術でもってそれがしの性根のすわらぬところをどうにかしていただきたいのでござる」
その言葉を耳にした瞬間、在昌の顔は渋面となった。
陰陽道、というものには様々な伝承がつたわっている。そのなかにはとても人知の及ぶものではないものも少なくない。ましてや、勘解由小路家は賀茂の姓を名乗っていた平安の世から安倍家とともに多くの伝説を作ってきた一族だ。追いつめられればすがりたくなる気持ちもわからなくはない。
したが、こちは――在昌は胸のうちで複雑な思いでつぶやく。
満足に陰陽道の術を使うことはできぬ――。
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