切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

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「ここで拙僧が貴殿をお救いするのもまた、父への勘解由小路殿がかけられた慈悲の心が手前の血肉となり結実した結果なのでございます」
　しばしの間のあと、在昌は彼の発言を理解するに至った。自分よりも随分と年下の人間の言葉だが、みずからをさいなんでいた負の感情が強風に吹き散らされる霧のごとく消え去るのを感じる。年齢など関係ない。かさねた齢で人間の成熟度を計るのもまたくだらない因習にしか過ぎないのだ。
　目頭が熱くなり、透明なしずくが目もとからこぼれるのを感じた。
　それから間もなく在昌は気を失う。

　ふたたび目覚めたときには近くに相手の姿はなく、彼は草叢に隠れる形で横たわっていた。したが、“独り”であって独りではない――在昌はその思いを胸に、信長のもとへ向かうために立ち上がる。

　　　九

　野田・福島をのぞむ陣所を在昌はおとずれた。彼が近くに来ていることを知った信長に召し出されてのことだ。広間で対面した両者は互いに顔色が悪い。