江戸心理療法士(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「心霊のことで悩む者を救うは陰陽師のつとめ、お気になさらず」
「仰せの通りなら、よいが」
「それに、智徳なる仁に会うのはなんだか先延ばしにしたいような心持ちもあるのですよ」
「ほう、それはなにゆえに」
 苦笑する伊兵衛に、徳兵衛が興味深げにたずねる。
「それがしにとっては、師こそが父でした。今さら二親などのことをあかされても、なんだか師とのつながりが、なんというか揺らいでしまうな気がして」
 おわかりいただけるでしょうか、と言葉をかさねる伊兵衛に徳兵衛はやさしい笑みを浮かべてうなずいた。
「自分が捨て子と知らずに育ち、実の親だと思っていた者から養い親であるとあかされうろたえる、という話を聞いたことがござる。己が実の子でないではないと知っていても、実の親のことを知ればやはり似たようなところがござろう」
 なぐさめるような徳兵衛のせりふに、伊兵衛は胸の奥底で凝っていた部分がほぐれたような気がした。
 が、次の瞬間そこに水をさされることになる。
「女々しい」
 憎々しげともいえる口調でみきがこちらに聞こえる声で独語した。
 む、とさすがに伊兵衛も眉間にしわを寄せる。
 陰陽師として患者と向き合うことで罵声の類などには割となれている彼だが、それでも限度というものはあった。
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