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治療の一環で患者の暗示の手助けとして使うもので、この呪符を相手に向かって投じたところで蚊が刺すほどの効用もない。
が、反応は劇的だった。
「あ、あれ、見たことあるぞ」
ひとりが急に顔色を変えるや悲鳴に近い声をあげた。
残りのふたりが怪訝な顔でそれを見やる。
「華陽様の持ってたやつにそっくりだ」
最初に表情を変えた男が告げたとたん、あとの破落戸も怯えた顔つきとなった。
華陽とやらが“これ”を持っていた――伊左衛門は心のなかでいぶかしげな声をもらす。
はったりとしてもちいる物ではあるが、文句や図柄は陰陽道でもちいられる“本物”だ。そこらの人間が手にしているということはありえない。
「くそ、呪われる前にやっちまえ」
破落戸のひとりが破れかぶれのようすで怒鳴る。とたん、三人がそろって長脇差を懐から取り出した。夕陽のなかの刃物は、すでに血に濡れているような色合いで光る。
伊左衛門は思わず苦い顔をした。話の流れからしておとなしく帰ってくれるかと思ったのだが。
だが、それならそれでいい。
「捕えて、色々と聞くとしよう」
伊左衛門がつぶやいた瞬間、破落戸たちが動いた。
最初のひとりが勢いよく突っ込んでくる。
が、伊左衛門には“遅い”。目付けで動きを読んでいるから突撃するときにはすでに動きを見越していた。
最小限の動きで刃先を見切り、足を引っかける。これだけであっけなく相手は転倒した。
二人目が悲痛な顔でなおも突きかかってくる。
早――切先が伊左衛門の元居た場所に達した瞬間には、彼の杖の柄が相手のこめかみを痛打していた。
この瞬間、伊左衛門に慢心がなかったいえば嘘になる。
修羅場をくぐったこと自体が、江戸に来てみきを助けたのがほぼはじめてなのだ。
最後の破落戸は先の攻撃を警戒してか、杖を己の得物で制しにかかる。
が、反応は劇的だった。
「あ、あれ、見たことあるぞ」
ひとりが急に顔色を変えるや悲鳴に近い声をあげた。
残りのふたりが怪訝な顔でそれを見やる。
「華陽様の持ってたやつにそっくりだ」
最初に表情を変えた男が告げたとたん、あとの破落戸も怯えた顔つきとなった。
華陽とやらが“これ”を持っていた――伊左衛門は心のなかでいぶかしげな声をもらす。
はったりとしてもちいる物ではあるが、文句や図柄は陰陽道でもちいられる“本物”だ。そこらの人間が手にしているということはありえない。
「くそ、呪われる前にやっちまえ」
破落戸のひとりが破れかぶれのようすで怒鳴る。とたん、三人がそろって長脇差を懐から取り出した。夕陽のなかの刃物は、すでに血に濡れているような色合いで光る。
伊左衛門は思わず苦い顔をした。話の流れからしておとなしく帰ってくれるかと思ったのだが。
だが、それならそれでいい。
「捕えて、色々と聞くとしよう」
伊左衛門がつぶやいた瞬間、破落戸たちが動いた。
最初のひとりが勢いよく突っ込んでくる。
が、伊左衛門には“遅い”。目付けで動きを読んでいるから突撃するときにはすでに動きを見越していた。
最小限の動きで刃先を見切り、足を引っかける。これだけであっけなく相手は転倒した。
二人目が悲痛な顔でなおも突きかかってくる。
早――切先が伊左衛門の元居た場所に達した瞬間には、彼の杖の柄が相手のこめかみを痛打していた。
この瞬間、伊左衛門に慢心がなかったいえば嘘になる。
修羅場をくぐったこと自体が、江戸に来てみきを助けたのがほぼはじめてなのだ。
最後の破落戸は先の攻撃を警戒してか、杖を己の得物で制しにかかる。
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