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「連れて来い」
次の瞬間、彼女は声を張り上げる。あきらかに伊兵衛に聞かせる言葉ではなかった。
それに応じ、足音が近づいてくる。ふたつ。ひとつはふつうのものだが、もう片方はどこか不自然だった。歩幅が妙に一定していない、まるで誰かに無理やり歩かされているような。
それらが部屋の障子の前で止まり、足音のぬしが姿を現した。
開け放った障子の向こうにいたのは、ひとりは破落戸らしきむさい男、残りのほうは女性だ。それも見覚えのある。
「みき」と伊兵衛は思わず叫んでいた。
それに反応し彼女もまた身じろぎするが、縄で縛られた上に猿ぐつわを噛まされているため何をいっているかはわからない。
「にらむのはお門違いというものだ」
鋭い視線を向けた伊兵衛に対しむめは余裕の笑みで応じた。
「お前と同じく門徒になることを望んで来た者に紛れ込もうとしていたところを見つけてな、捕えたのだ。危害を加えていないのだから、むしろ誠意を感じろ」
「つまりは、このままおとなしく返す、と」
「そうだ」
伊兵衛の問いかけにむめはあっさりとうなずいた。
「猿ぐつわを噛ませたのは、そいつがいくら騒ぐなといっても聞かないからだ」
こちらの非難をあらかじめ封じるようにしてむめは皮肉な口調で告げる。
次の瞬間、彼女は声を張り上げる。あきらかに伊兵衛に聞かせる言葉ではなかった。
それに応じ、足音が近づいてくる。ふたつ。ひとつはふつうのものだが、もう片方はどこか不自然だった。歩幅が妙に一定していない、まるで誰かに無理やり歩かされているような。
それらが部屋の障子の前で止まり、足音のぬしが姿を現した。
開け放った障子の向こうにいたのは、ひとりは破落戸らしきむさい男、残りのほうは女性だ。それも見覚えのある。
「みき」と伊兵衛は思わず叫んでいた。
それに反応し彼女もまた身じろぎするが、縄で縛られた上に猿ぐつわを噛まされているため何をいっているかはわからない。
「にらむのはお門違いというものだ」
鋭い視線を向けた伊兵衛に対しむめは余裕の笑みで応じた。
「お前と同じく門徒になることを望んで来た者に紛れ込もうとしていたところを見つけてな、捕えたのだ。危害を加えていないのだから、むしろ誠意を感じろ」
「つまりは、このままおとなしく返す、と」
「そうだ」
伊兵衛の問いかけにむめはあっさりとうなずいた。
「猿ぐつわを噛ませたのは、そいつがいくら騒ぐなといっても聞かないからだ」
こちらの非難をあらかじめ封じるようにしてむめは皮肉な口調で告げる。
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