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episode.53
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「しんちゃん、これって……もしかして――」
「たぶん、もしかしなくてもテレビ番組の可能性が高いと思う」
「やっぱり、そうだよね?あんな熊さんが出るからには、番組か何かなんだよね?」
「どんな番組かは分からないけど、誰かが言ったように……怪物から逃げるか戦うかして、外に出る感じの番組なのかもしれない」
「私、運動は苦手だけど……大丈夫かな?」
「大丈夫。撮影なら捕まっても、アウトになるだけで罰ゲームはないはず」
「そうだよね。罰ゲームあっても、お尻叩かれるくらいだよね?」
「たぶん、そうだと思う」
「貴方達は呑気でいいわね」
俺と薫が話をしてる最中、聞き覚えのある声が後ろから聞こえる。
俺と薫は後ろを振り返る。すると関わりのない他の人達とは違い、出入り口での一件で、少なからず面識のある彼女が真後ろの席に足を組んで座っていた。
「呑気って……どおいう意味?」
「言葉の通りよ」
彼女は腕を置く台に肘をつき、頬に軽く握った手を当てる。
「っ!」
「私もしんちゃんも、呑気じゃないよ?なんで、そんなことを言うの?」
「決まってるじゃない。貴方達もこれを撮影か何かだと勘違いしてる人達と同類よね?それを呑気と言わないで、なんと言うのかしらね?」
彼女の言葉をそのまま聞き流せない俺がいた。
「ちょっと待ってくれよ。これは……撮影じゃないのか?」
「ええ。間違いなく、撮影じゃないわね」
キッパリと彼女は言った。
彼女の態度から嘘ではないことが、ハッキリと分かる。
「どうして、そんなことがあなたに分かるの?」
彼女は左唇を吊り上げる。
「私に言わせれば、どうして貴方達には分からないのかしらね?今大画面に映っている映像をご覧なさい」
俺と薫は大画面の方へ顔を向ける。
「熊に縫い付けられた眼と唇と耳、あれは片方の眼以外は全部人間のもの。実際の人に生えていた耳と鼻に眼球よ」
「「え?」」
「間違いなく、あれは本物よ。ねぇ、そうでしょ?今この瞬間も、私達の会話を盗み聞きしているのでしょ?」
俺や薫に言うのなら分かるが誰に言うでもなく、彼女は言った。
大画面に映る熊が、ごそっと動く。
短い両足で立ち、ゆっくりとカメラがあると思える方向へと一歩また一歩と進み出る。
「よく分かったクマネ」
その言葉が答えだった。
「「え?」」
「分かったでしょ?つまり、これは撮影でも番組が用意した企画でもないってことよ。れっきとした犯罪か何かにここに集められた約400名以上の人々、全員が巻き込まれたのよ」
「……っ!」
「……え?本当に?本当なの?」
「素晴らしいクマ。第9回目にして、見破る人間がやっと現れたクマ。これは面白いクマネー。今回初めての攻略者が……果たして出るクマカネ?……実物クマ。正解した吉崎杏子には褒美にスキルをプレゼントするクマ」
ポン。
後ろから何かが現れたような効果音が聞こえる。
俺は後ろへ振り向く。
彼女、吉崎杏子が本名なのかはどうでもいいことだが、吉崎の両太ももの真ん中に透明なクリスタルで作られたカードが1枚置いてある。
「クリスタルカード?」
「ええ、そのようね。この使用方法を聞いていいかしら?」
「いいクマヨ。クリスタルカード。そのカードにスキル名とスキルの効果が書かれてあるクマ。それを読み終えたら、軽く握り潰すクマ」
パリン。
熊の言葉を聞き、吉崎はクリスタルカードを上から下まで目を通し終えると左手で軽く握り潰した。
その途端に吉崎の体が一瞬、光った。
光った以外に変わった点はない。
何がどう変わったのだろう?
疑問が頭の中に押し寄せる中、
「あとは使う使わない好きにするクマ。質疑応答の時間は……これにて終了クマ。今から3分経過後、ここは残ってる人間を焼き尽くすために大爆発するクマ。爆発して死ぬ死なない好きにするクマ。死にたくないクマなら外にレッツゴークマ!冒険者に幸運あれクマヨー!」
ブチン!
大画面の映像が、切れる。
画面が真っ暗になる。
シアタールームが闇に飲み込まれ、数秒後には照明が点灯する。
「これで分かったでしょ?」
吉崎は立ち上がり、真剣な表情で俺と薫に視線を向ける。
「……撮影でも……番組でもないのは……理解した」
「もう行くしかないよね。ここも爆発するなら、行く以外に選択肢はないよ」
「分かったなら、あとは2人で頑張ることね。じゃー私は行くとするわ」
吉崎はそう言い残し、1人でシアタールームの外へと向かって行く。
俺はシアタールームを見渡し、俺と薫以外にいないかを確認する。
あれ?1人いる。
この場に俺たち以外に1人だけ白髪で、桃色の眼帯をつけた男性――同年代か?年がわりと近そうな――が一番最上段に腰掛けてるのを一瞥し、薫の手を握りしめて、吉崎の後を追う。
「たぶん、もしかしなくてもテレビ番組の可能性が高いと思う」
「やっぱり、そうだよね?あんな熊さんが出るからには、番組か何かなんだよね?」
「どんな番組かは分からないけど、誰かが言ったように……怪物から逃げるか戦うかして、外に出る感じの番組なのかもしれない」
「私、運動は苦手だけど……大丈夫かな?」
「大丈夫。撮影なら捕まっても、アウトになるだけで罰ゲームはないはず」
「そうだよね。罰ゲームあっても、お尻叩かれるくらいだよね?」
「たぶん、そうだと思う」
「貴方達は呑気でいいわね」
俺と薫が話をしてる最中、聞き覚えのある声が後ろから聞こえる。
俺と薫は後ろを振り返る。すると関わりのない他の人達とは違い、出入り口での一件で、少なからず面識のある彼女が真後ろの席に足を組んで座っていた。
「呑気って……どおいう意味?」
「言葉の通りよ」
彼女は腕を置く台に肘をつき、頬に軽く握った手を当てる。
「っ!」
「私もしんちゃんも、呑気じゃないよ?なんで、そんなことを言うの?」
「決まってるじゃない。貴方達もこれを撮影か何かだと勘違いしてる人達と同類よね?それを呑気と言わないで、なんと言うのかしらね?」
彼女の言葉をそのまま聞き流せない俺がいた。
「ちょっと待ってくれよ。これは……撮影じゃないのか?」
「ええ。間違いなく、撮影じゃないわね」
キッパリと彼女は言った。
彼女の態度から嘘ではないことが、ハッキリと分かる。
「どうして、そんなことがあなたに分かるの?」
彼女は左唇を吊り上げる。
「私に言わせれば、どうして貴方達には分からないのかしらね?今大画面に映っている映像をご覧なさい」
俺と薫は大画面の方へ顔を向ける。
「熊に縫い付けられた眼と唇と耳、あれは片方の眼以外は全部人間のもの。実際の人に生えていた耳と鼻に眼球よ」
「「え?」」
「間違いなく、あれは本物よ。ねぇ、そうでしょ?今この瞬間も、私達の会話を盗み聞きしているのでしょ?」
俺や薫に言うのなら分かるが誰に言うでもなく、彼女は言った。
大画面に映る熊が、ごそっと動く。
短い両足で立ち、ゆっくりとカメラがあると思える方向へと一歩また一歩と進み出る。
「よく分かったクマネ」
その言葉が答えだった。
「「え?」」
「分かったでしょ?つまり、これは撮影でも番組が用意した企画でもないってことよ。れっきとした犯罪か何かにここに集められた約400名以上の人々、全員が巻き込まれたのよ」
「……っ!」
「……え?本当に?本当なの?」
「素晴らしいクマ。第9回目にして、見破る人間がやっと現れたクマ。これは面白いクマネー。今回初めての攻略者が……果たして出るクマカネ?……実物クマ。正解した吉崎杏子には褒美にスキルをプレゼントするクマ」
ポン。
後ろから何かが現れたような効果音が聞こえる。
俺は後ろへ振り向く。
彼女、吉崎杏子が本名なのかはどうでもいいことだが、吉崎の両太ももの真ん中に透明なクリスタルで作られたカードが1枚置いてある。
「クリスタルカード?」
「ええ、そのようね。この使用方法を聞いていいかしら?」
「いいクマヨ。クリスタルカード。そのカードにスキル名とスキルの効果が書かれてあるクマ。それを読み終えたら、軽く握り潰すクマ」
パリン。
熊の言葉を聞き、吉崎はクリスタルカードを上から下まで目を通し終えると左手で軽く握り潰した。
その途端に吉崎の体が一瞬、光った。
光った以外に変わった点はない。
何がどう変わったのだろう?
疑問が頭の中に押し寄せる中、
「あとは使う使わない好きにするクマ。質疑応答の時間は……これにて終了クマ。今から3分経過後、ここは残ってる人間を焼き尽くすために大爆発するクマ。爆発して死ぬ死なない好きにするクマ。死にたくないクマなら外にレッツゴークマ!冒険者に幸運あれクマヨー!」
ブチン!
大画面の映像が、切れる。
画面が真っ暗になる。
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「これで分かったでしょ?」
吉崎は立ち上がり、真剣な表情で俺と薫に視線を向ける。
「……撮影でも……番組でもないのは……理解した」
「もう行くしかないよね。ここも爆発するなら、行く以外に選択肢はないよ」
「分かったなら、あとは2人で頑張ることね。じゃー私は行くとするわ」
吉崎はそう言い残し、1人でシアタールームの外へと向かって行く。
俺はシアタールームを見渡し、俺と薫以外にいないかを確認する。
あれ?1人いる。
この場に俺たち以外に1人だけ白髪で、桃色の眼帯をつけた男性――同年代か?年がわりと近そうな――が一番最上段に腰掛けてるのを一瞥し、薫の手を握りしめて、吉崎の後を追う。
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