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『スプラッシュ・サマー・ラブソング♡ 〜この夏、キミに出会えてよかった〜』
『スプラッシュ・サマー・ラストライブ』
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八月三十一日、夏の終わり。
陽が少しずつ傾きはじめた浜辺には、潮風に揺れるテントとステージ照明がずらりと並び、観客席にはすでに無数のペンライトが揺れていた。
白い砂浜と青く沈む空を背景にしたこのステージこそ、五人にとっての“約束の場所”。
それぞれが、この夏に何かを得て――そして、少しだけ大人になって、いま、このステージに立とうとしている。
・春風ももか
「ふふ、見ててね……わたし、ちゃんと伝えるから」
リハーサル用のモニター越しにステージを見つめるももかは、口元に小さな笑みを浮かべていた。
少女らしいあどけなさはそのままに、瞳の奥に宿る光は、以前よりもずっと強く、しなやかだった。
――七つ目の謎が導いた、彼との出会い。
恐怖も涙も越えて、“心が触れあう”ことを知った彼女は、言葉の意味を噛みしめるようにマイクを握る。
「わたしの声で、あの子に届いたらいいな。あの、本の向こうで待ってる君に……」
・水無月あおい
「……大丈夫。きっと、見ててくれてるから」
あおいは一人、波打ち際に立っていた。
ステージが始まるまでのわずかな時間、海の音に耳を澄ましながら、静かに呼吸を整えている。
あの無人島の夜を、彼と過ごしてからというもの、彼女の中には小さな炎のようなものが灯り続けている。
静かで、熱くて、決して消えないもの。
「もし、あの夜が夢じゃないなら……今日のわたしを、見つけてよ、澪」
・幽谷しずく
「舞台って……不思議。こんなに、人がいるのに、ひとりみたいで」
楽屋の鏡の前で、しずくは自分の髪を整えていた。
紫色の瞳に宿る光は、かつて鏡の中で出会った“もうひとりの世界”を思い出させる。
彼のことを誰も覚えていない。
でもそれでいい、と彼女は思った。ふたりが“心で繋がっている”限り、記憶よりも確かなものがあるのだから。
「ねえ、きみ。わたしのうた、届くといいな。……鏡のむこうまで」
・白鐘ここね
「今日がね、ほんとの“今日”だって……やっと信じられる気がするの」
ここねは、舞台袖でそっと自分の胸に手を当てた。
栗色のウェーブが光を受けてきらきらと揺れる。ふわふわの雰囲気はそのままに、内側に確かな“意志”が宿っている。
タイムリープを繰り返したあの日々――
何度も会って、何度も別れて、それでも彼を好きでい続けたからこそ、
いま、ここにたどりつけた。
「また……“律”に見つけてもらえた今日を、大切に歌いたいの」
・黒咲りりあ
「ぜったいに、ぜったいに見てなさいよ。……わたしの全部、君だけに見せるんだから」
マイクを持つ手が震えているのを、りりあはそっと隠した。
ゴシックロリータ風の衣装のフリルが風に揺れ、ツインドリルをきつく結い直す。
彼と交わした魂のキス。
それは、舞台の上に立つ理由をくれた。
もう“映える”だけじゃ足りない。
ほんとうの「愛」が、いまの彼女を作っている。
「#好きって言って、ってもう言わない。……わたしから言うもん。#わたし、君が好き!」
彼女たちはもう、“あの夏の前”には戻らない。
恋を知って、傷ついて、命を感じて、それでも笑えるようになった。
そのすべてが、いまから始まるステージに込められていく――。
陽が少しずつ傾きはじめた浜辺には、潮風に揺れるテントとステージ照明がずらりと並び、観客席にはすでに無数のペンライトが揺れていた。
白い砂浜と青く沈む空を背景にしたこのステージこそ、五人にとっての“約束の場所”。
それぞれが、この夏に何かを得て――そして、少しだけ大人になって、いま、このステージに立とうとしている。
・春風ももか
「ふふ、見ててね……わたし、ちゃんと伝えるから」
リハーサル用のモニター越しにステージを見つめるももかは、口元に小さな笑みを浮かべていた。
少女らしいあどけなさはそのままに、瞳の奥に宿る光は、以前よりもずっと強く、しなやかだった。
――七つ目の謎が導いた、彼との出会い。
恐怖も涙も越えて、“心が触れあう”ことを知った彼女は、言葉の意味を噛みしめるようにマイクを握る。
「わたしの声で、あの子に届いたらいいな。あの、本の向こうで待ってる君に……」
・水無月あおい
「……大丈夫。きっと、見ててくれてるから」
あおいは一人、波打ち際に立っていた。
ステージが始まるまでのわずかな時間、海の音に耳を澄ましながら、静かに呼吸を整えている。
あの無人島の夜を、彼と過ごしてからというもの、彼女の中には小さな炎のようなものが灯り続けている。
静かで、熱くて、決して消えないもの。
「もし、あの夜が夢じゃないなら……今日のわたしを、見つけてよ、澪」
・幽谷しずく
「舞台って……不思議。こんなに、人がいるのに、ひとりみたいで」
楽屋の鏡の前で、しずくは自分の髪を整えていた。
紫色の瞳に宿る光は、かつて鏡の中で出会った“もうひとりの世界”を思い出させる。
彼のことを誰も覚えていない。
でもそれでいい、と彼女は思った。ふたりが“心で繋がっている”限り、記憶よりも確かなものがあるのだから。
「ねえ、きみ。わたしのうた、届くといいな。……鏡のむこうまで」
・白鐘ここね
「今日がね、ほんとの“今日”だって……やっと信じられる気がするの」
ここねは、舞台袖でそっと自分の胸に手を当てた。
栗色のウェーブが光を受けてきらきらと揺れる。ふわふわの雰囲気はそのままに、内側に確かな“意志”が宿っている。
タイムリープを繰り返したあの日々――
何度も会って、何度も別れて、それでも彼を好きでい続けたからこそ、
いま、ここにたどりつけた。
「また……“律”に見つけてもらえた今日を、大切に歌いたいの」
・黒咲りりあ
「ぜったいに、ぜったいに見てなさいよ。……わたしの全部、君だけに見せるんだから」
マイクを持つ手が震えているのを、りりあはそっと隠した。
ゴシックロリータ風の衣装のフリルが風に揺れ、ツインドリルをきつく結い直す。
彼と交わした魂のキス。
それは、舞台の上に立つ理由をくれた。
もう“映える”だけじゃ足りない。
ほんとうの「愛」が、いまの彼女を作っている。
「#好きって言って、ってもう言わない。……わたしから言うもん。#わたし、君が好き!」
彼女たちはもう、“あの夏の前”には戻らない。
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そのすべてが、いまから始まるステージに込められていく――。
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