『スプラッシュ・サマー・キス♡』〜アイドル達の夏と恋と″ホラー″〜

アフターストーリー『ディズニー♡プリンセスナイト』

水無月あおい編：わたしだけの、やさしい月明かり

レストランの出口を出たとき、
あたしはまだ、ちょっとだけ下を向いていた。

「……ごちそうさま。すっごく、美味しかったね……」

ぎこちなく言った言葉を、
彼はやさしく受け止めてくれる。

「うん。……でも、あおいが隣にいたから、余計に美味しかったよ」

その一言が、まだ慣れない心にすぅっと沁み込んでくる。

「……もう、そういうの、反則……」

言葉ではそう言っても、
あたしの指は彼の手を探して、そっと絡めてた。

あたしから――初めて、ちゃんと手をつないだ。

「……こっちが、わたしの部屋、だって」

ミラコスタの上層階。
広くて、上品で、どこかおとぎ話みたいな部屋に入った瞬間、
緊張で喉がカラカラになった。

「あの、ほんとに……泊まってって、いいの？」

「もちろん。っていうか……もう帰す気ないけど」

その言葉に、あたしの頬が一気に真っ赤になる。

「～～っ……もうっ！」

ふにゃっと笑った彼に背を向けて、
あたしは慌てて荷物をまとめた。

「じゃ、じゃあ……お風呂、先入るねっ！ 一緒に入りたかったら……き、希望は受けつけるけど……べつにっ！」

扉の向こうで返ってきた笑い声が、
なんだかちょっとくすぐったかった。

一緒に入ったお風呂の中。

あたしの背中に、彼の手がそっと触れた瞬間――
心臓の音が、泡よりも早く弾けた。

「きれいだよ、あおい……」

お湯の中に映る自分の姿に、
ちょっとだけ自信が持てるようになってた。

透き通るように白くて、華奢な肩。
濡れてしんなりした黒髪がうなじに張りついて、
ふわっとした胸の膨らみは、ほんのりピンク色に染まって。

「……見るの、禁止って言ってるのに……」

小さな声でそう言いながらも、
彼の視線から逃げたくはなかった。

バスローブのまま、ベッドの上に座る。

あたしは彼の目を、まっすぐ見つめた。

「……今日のわたし、ちょっとだけ……勇気あるんだよ？」

彼の手が、そっとあたしの頬に触れた。

「知ってる。ずっと見てたから」

その言葉で、心のなかの鍵が音を立てて外れた。

ローブを脱いで、
素肌のまま彼の胸に飛びこんだ瞬間、
もう何も怖くなかった。

「……あたし、がんばってるよね？」

「うん。すごく綺麗だよ、あおい」

肌が触れ合うたびに、鼓動が溶けていく。

あたしの身体は細くて、
でもちゃんと抱きしめられたら、
彼の腕の中にぴたりと収まった。

胸のふくらみが、彼の胸に押し当てられて。
脚が自然と絡まって、腰が小さく震える。

「だ、だめ……あんまり、見ないで……」

そんなことを言いながら、
ほんとはもっと、感じたくて。

唇と唇が、幾度も重なった。
あたしの中の迷いが、
やさしく、やさしくほどけていった。

その夜、あたしは――
心も身体も、初めてほんとうにひとつになった気がした。

「……好き。ずっと、一緒にいたい……」

震える声で、何度も伝えた。

彼はそのたびにキスをして、
言葉よりも深く、あたしを包んでくれた。

朝。

窓から差し込む光に目を細めると、
彼が隣に寝ていた。

「……おはよう……ちゃんと、いる……」

嬉しくて、ついほっぺにキスをした。

「ん……おはよう、あおい。……今日も、すごく綺麗」

ベッドの中で、あたしはもう一度、
彼にそっと抱きついた。

――ずっと、“ひとり”だと思ってた。

でも、あなたがいるから、
世界はこんなにもやさしい。