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春風ももか編『夏の図書館と、最後のナゾ』
プロローグ「図書館には、入ってはいけない時間がある」
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わたし、春風ももか。小学六年生にして、アイドルユニット《SPLASH☆SUGAR》のリーダー。
でもいまは、誰もいない静かな町の、海沿いの道をひとりで歩いてる。
セミの声と、潮の匂いと、じんわり汗ばむ制服の襟元。さっきまでのライブの喧騒が嘘みたい。
ここは、今回の撮影地「潮見町」。ライブの翌日、少しだけ自由時間をもらえた。
りりあたちは町の商店街に行ってるし、ここねとあおいは宿でお昼寝。
わたしは、ただなんとなく――この坂をのぼってみたかった。
道の先に、小さな建物が見える。
木造の、ちょっと古びた洋風の造り。
正面のプレートには、うすれた金文字でこう書かれていた。
《潮見館図書室》
……あれ? ここ、もう閉館したって聞いてたのに。
気づけば足が勝手に扉に近づいていて、そっと手をかける。
カラン……と鈴が鳴る音。誰もいない。けど、開いてる。
「す、すみません……?」
中に入ると、ひんやりとした空気に包まれた。
蝉の声が遠のいて、別の世界に来たみたい。
窓からは海が見えて、光が柔らかく差し込んでいる。
カウンターには古い“来館者ノート”が置かれていた。
なにこれ……手書きの名前が、ずらり。
昭和、平成、令和――でも、ここ、令和五年で止まってる。
その最後のページに、わたしの目が吸い寄せられる。
《春風 ももか 令和五年七月》
……え?
思わず、目をこすった。
でも、たしかにそこには、わたしと同じ名前が書かれている。
しかも、文字のクセまで似てる。
でも、わたし――まだ、ここに来てない。今日が、初めて。
ドクン。
心臓が、ひとつ鳴った。
ねえ、これって……ただの偶然?
ノートの隣には、ぺらりとめくれた古い新聞の切り抜き。
“潮見町 少女失踪 図書室から姿を消す”――
写真の下には、小さな女の子の名前。
《春風 ももか(当時12)》
……。
たまたま同じ名前の子が、たまたまこの図書館でいなくなった?
そんなの、信じられない。というか、そんな偶然、ありえる?
「……誰か、いるの?」
図書室の奥から、小さな物音がした。
わたしは思わず、声をかけた。
返事はない。
でも――その瞬間、背後の扉が、バタン、と閉まった。
「えっ……ちょ、うそっ……開かない……?」
ノブを回す。でも、重たくて動かない。
鍵は? ボタン式じゃない。閉じ込められた?
まさか、イタズラ? でも、誰もいなかった。
りりあのドッキリなら、すぐネタバレするはず。
これは……違う。何かが、おかしい。
ふと、床にじっとりとした感触が広がった。
見下ろすと、古い木の隙間から、ポタリ……ポタリ……と、水が滲んでいる。
海の音が、遠くなっていく。
「やだ……ここ……なに?」
震えそうになる足を踏みしめて、奥へ進む。
そのときだった。
「君、ここに来たの? ……珍しいね」
静かに本を閉じる音。
古びた本棚の影から、ひとりの少年が現れた。
白いシャツに、濡れたような髪。年は、わたしと同じくらい。
でも、どこか透明感があって、目が合った瞬間、心臓が跳ねた。
「きみ、名前は?」
「……ももか。春風ももか」
彼は少し驚いたように、目を見開いた。
「そう……また、ももかか」
その言い方が、なぜか胸に引っかかって。
でも、それより先に、彼の声に――わたしは、懐かしさを感じていた。
会ったこと、ある? いや、絶対にないはずなのに。
「君は、“七つの問い”を解きにきたんだよね?」
少年は微笑みながら、差し出してきた。
古びた紙片。そこに、こう書かれていた。
《問い一 きみは この夏を 終わらせたいと 思うか》
その瞬間、図書館の空気が、がらりと変わった。
でもいまは、誰もいない静かな町の、海沿いの道をひとりで歩いてる。
セミの声と、潮の匂いと、じんわり汗ばむ制服の襟元。さっきまでのライブの喧騒が嘘みたい。
ここは、今回の撮影地「潮見町」。ライブの翌日、少しだけ自由時間をもらえた。
りりあたちは町の商店街に行ってるし、ここねとあおいは宿でお昼寝。
わたしは、ただなんとなく――この坂をのぼってみたかった。
道の先に、小さな建物が見える。
木造の、ちょっと古びた洋風の造り。
正面のプレートには、うすれた金文字でこう書かれていた。
《潮見館図書室》
……あれ? ここ、もう閉館したって聞いてたのに。
気づけば足が勝手に扉に近づいていて、そっと手をかける。
カラン……と鈴が鳴る音。誰もいない。けど、開いてる。
「す、すみません……?」
中に入ると、ひんやりとした空気に包まれた。
蝉の声が遠のいて、別の世界に来たみたい。
窓からは海が見えて、光が柔らかく差し込んでいる。
カウンターには古い“来館者ノート”が置かれていた。
なにこれ……手書きの名前が、ずらり。
昭和、平成、令和――でも、ここ、令和五年で止まってる。
その最後のページに、わたしの目が吸い寄せられる。
《春風 ももか 令和五年七月》
……え?
思わず、目をこすった。
でも、たしかにそこには、わたしと同じ名前が書かれている。
しかも、文字のクセまで似てる。
でも、わたし――まだ、ここに来てない。今日が、初めて。
ドクン。
心臓が、ひとつ鳴った。
ねえ、これって……ただの偶然?
ノートの隣には、ぺらりとめくれた古い新聞の切り抜き。
“潮見町 少女失踪 図書室から姿を消す”――
写真の下には、小さな女の子の名前。
《春風 ももか(当時12)》
……。
たまたま同じ名前の子が、たまたまこの図書館でいなくなった?
そんなの、信じられない。というか、そんな偶然、ありえる?
「……誰か、いるの?」
図書室の奥から、小さな物音がした。
わたしは思わず、声をかけた。
返事はない。
でも――その瞬間、背後の扉が、バタン、と閉まった。
「えっ……ちょ、うそっ……開かない……?」
ノブを回す。でも、重たくて動かない。
鍵は? ボタン式じゃない。閉じ込められた?
まさか、イタズラ? でも、誰もいなかった。
りりあのドッキリなら、すぐネタバレするはず。
これは……違う。何かが、おかしい。
ふと、床にじっとりとした感触が広がった。
見下ろすと、古い木の隙間から、ポタリ……ポタリ……と、水が滲んでいる。
海の音が、遠くなっていく。
「やだ……ここ……なに?」
震えそうになる足を踏みしめて、奥へ進む。
そのときだった。
「君、ここに来たの? ……珍しいね」
静かに本を閉じる音。
古びた本棚の影から、ひとりの少年が現れた。
白いシャツに、濡れたような髪。年は、わたしと同じくらい。
でも、どこか透明感があって、目が合った瞬間、心臓が跳ねた。
「きみ、名前は?」
「……ももか。春風ももか」
彼は少し驚いたように、目を見開いた。
「そう……また、ももかか」
その言い方が、なぜか胸に引っかかって。
でも、それより先に、彼の声に――わたしは、懐かしさを感じていた。
会ったこと、ある? いや、絶対にないはずなのに。
「君は、“七つの問い”を解きにきたんだよね?」
少年は微笑みながら、差し出してきた。
古びた紙片。そこに、こう書かれていた。
《問い一 きみは この夏を 終わらせたいと 思うか》
その瞬間、図書館の空気が、がらりと変わった。
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