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春風ももか編『夏の図書館と、最後のナゾ』
エピローグ「この夏、わたしは恋を終わらせて、生まれ変わった」
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1ヶ月が経った。
あの夏の日、図書館で出会った少年――悠くんと、キスを交わして別れたあの日から。
だけど、わたしの中では、まるで昨日のことみたい。
思い出すだけで、胸がきゅっとする。
触れられた場所が、いまでもあたたかくなる。
たった一日、されど、一生分。
あの恋は、わたしを確かに変えた。
あの後、少しだけわたしは変わったねって、メンバーのみんなに言われた。
「ももか、なんか大人っぽくなった」「色っぽくなったっていうか~」って、りりあがからかってくるたび、
わたしはそのたび、苦笑いするしかなかったけど。
だって――誰にも言えないもん。
誰にも話せない“あの夜”のことを。
夏の特番の打ち上げライブ。
1ヶ月ぶりの潮見町のステージ。
同じ会場、同じ風、そして――同じ海。
わたしたち《SPLASH☆SUGAR》は、満員の客席に向かって歌を届ける。
スポットライトがまぶしい。
でも、それよりまぶしいのは、心の奥の記憶。
あの図書館。あのページ。あの声と、ぬくもり。
ライブが終わって、楽屋を出た。
ひとり、海辺に降りてみる。
潮の匂い。星の海。波の音。
すべてが、あの夜と同じ。
そして――その砂浜に、誰かが立っていた。
白いシャツ。濡れたような黒髪。
ゆっくり振り向いた、その瞳。
「……悠くん……?」
声が震えた。
でも、彼は、そこにいた。
もう透けていない。消えかけていない。
ちゃんと、立っている。
「おかえり、ももか。待ってた」
わたしは、一瞬動けなかった。
だけど、次の瞬間には走り出していた。
裸足のまま、波を蹴って、彼の胸に飛び込む。
「ほんとに……ほんとに、来てくれたの……!」
「うん。ぼくも、生まれ変われたみたい。
君が“終わらせてくれた”から、今度は始められたんだ」
彼の腕が、わたしの背中を包み込む。
一年分の時間を超えて、心も身体も、重なっていく。
抱きしめられているだけで、涙があふれてくる。
でも、それはもう悲しい涙じゃない。
生きていてよかったって、心から思える涙。
「悠くん……キスして……」
わたしがそうつぶやくと、彼はやさしく頷いて、
唇を重ねた。
熱が、流れ込んでくる。
あのときの淡いキスとは違う。
今のわたしたちは、ちゃんと“触れられる”存在。
心も、体も、ちゃんと恋をして、ちゃんと生きてる。
優しいキスのあと、もう少しだけ、情熱的なキスをしてくれる。
「来年の夏も、再来年も……何度でも、恋をしよう」
「うん……なにがあっても、絶対に」
風が吹く。波がよせる。
だけど、わたしたちは、もう流されない。
今度こそ、ふたりで、この夏を生きていく。
誰かに名前を呼ばれるって、こんなにも心が揺れることだったんだ。
誰かに触れられるって、こんなにも温かくて、甘くて、ちょっと切ないことだったんだ。
あの夏、わたしは恋をした。
そして恋を、終わらせた。
だから、わたしは生まれ変わった。
あの図書館も、彼の部屋も、もうどこにもないけれど――
わたしたちは、きっとこれからも、何度でも恋をしていく。
それが、わたしの“スプラッシュ・サマー・キス”。
──好きって、たぶん、忘れないための呪文なんだ。
だから……
今度こそ、ちゃんと、言うよ。
「大好きだよ、悠くん」
(春風ももか編・完)
あの夏の日、図書館で出会った少年――悠くんと、キスを交わして別れたあの日から。
だけど、わたしの中では、まるで昨日のことみたい。
思い出すだけで、胸がきゅっとする。
触れられた場所が、いまでもあたたかくなる。
たった一日、されど、一生分。
あの恋は、わたしを確かに変えた。
あの後、少しだけわたしは変わったねって、メンバーのみんなに言われた。
「ももか、なんか大人っぽくなった」「色っぽくなったっていうか~」って、りりあがからかってくるたび、
わたしはそのたび、苦笑いするしかなかったけど。
だって――誰にも言えないもん。
誰にも話せない“あの夜”のことを。
夏の特番の打ち上げライブ。
1ヶ月ぶりの潮見町のステージ。
同じ会場、同じ風、そして――同じ海。
わたしたち《SPLASH☆SUGAR》は、満員の客席に向かって歌を届ける。
スポットライトがまぶしい。
でも、それよりまぶしいのは、心の奥の記憶。
あの図書館。あのページ。あの声と、ぬくもり。
ライブが終わって、楽屋を出た。
ひとり、海辺に降りてみる。
潮の匂い。星の海。波の音。
すべてが、あの夜と同じ。
そして――その砂浜に、誰かが立っていた。
白いシャツ。濡れたような黒髪。
ゆっくり振り向いた、その瞳。
「……悠くん……?」
声が震えた。
でも、彼は、そこにいた。
もう透けていない。消えかけていない。
ちゃんと、立っている。
「おかえり、ももか。待ってた」
わたしは、一瞬動けなかった。
だけど、次の瞬間には走り出していた。
裸足のまま、波を蹴って、彼の胸に飛び込む。
「ほんとに……ほんとに、来てくれたの……!」
「うん。ぼくも、生まれ変われたみたい。
君が“終わらせてくれた”から、今度は始められたんだ」
彼の腕が、わたしの背中を包み込む。
一年分の時間を超えて、心も身体も、重なっていく。
抱きしめられているだけで、涙があふれてくる。
でも、それはもう悲しい涙じゃない。
生きていてよかったって、心から思える涙。
「悠くん……キスして……」
わたしがそうつぶやくと、彼はやさしく頷いて、
唇を重ねた。
熱が、流れ込んでくる。
あのときの淡いキスとは違う。
今のわたしたちは、ちゃんと“触れられる”存在。
心も、体も、ちゃんと恋をして、ちゃんと生きてる。
優しいキスのあと、もう少しだけ、情熱的なキスをしてくれる。
「来年の夏も、再来年も……何度でも、恋をしよう」
「うん……なにがあっても、絶対に」
風が吹く。波がよせる。
だけど、わたしたちは、もう流されない。
今度こそ、ふたりで、この夏を生きていく。
誰かに名前を呼ばれるって、こんなにも心が揺れることだったんだ。
誰かに触れられるって、こんなにも温かくて、甘くて、ちょっと切ないことだったんだ。
あの夏、わたしは恋をした。
そして恋を、終わらせた。
だから、わたしは生まれ変わった。
あの図書館も、彼の部屋も、もうどこにもないけれど――
わたしたちは、きっとこれからも、何度でも恋をしていく。
それが、わたしの“スプラッシュ・サマー・キス”。
──好きって、たぶん、忘れないための呪文なんだ。
だから……
今度こそ、ちゃんと、言うよ。
「大好きだよ、悠くん」
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