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第6章~転生王子は学校で

商学

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 「8日で500ダイルかぁ。つまり1日62ダイルぐらいしか使えないってことだろ?」
 レイは頭をかきながらため息をついた。トーマも考えるように、紙の上で羽ペンを彷徨わせている。
 「何がいいかな?」
 「普通に考えたら販売か飲食店じゃないか?」
 カイルの言葉にライラが頷く。
 「そうね。何かを観せるって言っても、集客安定させるの難しいし……。」
 それぞれが考えるようにうーんと唸った。
 
 今は商学の授業中だ。主に交易や販売、流通のしくみなどを学ぶ予定になっている。
 教室には5人が座れる半円の机が、4台ずつ2列に並んでいた。
 受講人数は男女合わせて30人。割合としては男子が8割をしめている。
 5人組6班に分かれ、各班がそれぞれ話し合いを行っていた。
 俺の班のメンバーは定番となりつつある、レイ、カイル、トーマ、ライラだ。

 商学は理論と実技の繰り返し。
 解りやすく言うと、理論を教えてもらった後、実際に学内で商売を行う。
 倫理に反する様なものでなければ、店は販売でもいいし、飲食店でもいいし、パフォーマンスを見せるのでも良かった。とにかく学校側が各班に支給する500ダイル(日本円で5000円)を資金にして商売を行う。
 その結果をレポートにして先生と販売戦略を練り直し、次の実技に生かすのである。

 なかなか興味深い授業だよな。
 理論ばかり教わっても、眠くなっちゃうし。実践で学んだ方がより身につくものがある。
 それに実際ではなかなか試せない商売を提案出来るのも面白かった。

 まずは第1回目の実技の店を何にしようか考えているのだが……。
 これがなかなか難しい。
 まず実技期間は2ヶ月あるが、販売は毎日ではない。1週間に1回ある商学の授業の2時間ほどがそれにあてられる。つまり8回分16時間しか店を出せないのだ。
 
 週1で短時間勝負が出来る店かぁ。
 パフォーマンスは1ステージに時間取られちゃうし、スペースも限られてるから却下。
 カフェはテイクアウトとかなら回転よくていけそうだが、いろいろ経費がかかりそうだよな。
 そう考えると……。

 「1回目は販売に徹した方がいいんじゃないかな? 」
 俺が皆の顔を見渡して言うと、皆も同じ考えだったのかすぐに頷いた。
 「そうですね。その方が次回に残せそうですし。」
 1回目を黒字にすれば、余分なお金は2回目以降に使えることになっている。
 
 するとフッフッフッと笑い声が聞こえてきた。見ればライラが不敵に笑っている。
 「そう。いろいろやるには資金が大切。次の為に500ダイル以上稼ぐわよ!」
 目はやる気でギラギラと輝いていた。
 さすが商売人の血が濃いと自ら言っていただけはある。

 でも商売に熱いライラが班に入ってくれてとても良かった。
 俺たち初めは1回目だから様子見るかと軽く考えていたからな。
 販売して赤字にならないなら、資金が500ダイルでも充分だと思っていたくらいだ。なにせ人件費・賃貸料・光熱費等は与えられた範囲内であれば支払う必要ない。仕入れた分を無駄にしなければ、額は少ないが黒字にはなる。
 しかしライラとしては後々規模を大きく展開したい野望があるらしかった。いつの間にか俺たちもその熱意に感化されちゃったわけだ。
 
 「仕入れが安くて高く売れるのが一番だよね。何か工作して売るとか?木彫りなら仕入れタダだし。」
 なるほど。職人の家のトーマらしい提案だ。確かに木はそこらにいっぱい転がっている。
 だが、カイルとレイは難色を示した。
 「仕入れはタダだが、買ってもらえなきゃ意味ないぞ。客は学生だからな。財布の紐がかたい。」
 「そうそう。安い木彫りなら売れるかもしれないが、そうなると数必要になるし。高いと買わないだろうしな。」

 その2人の言葉にライラも深く頷いた。
 「そうね。数を作るとなったら、壊滅君かいめつくんは戦力にならないもの。」
 「俺が壊滅的なのは料理と美術だっ!」
 レイが言い返すと、ライラはからかうように肩をすくめた。

 レイのことだとはハッキリ言ってないのだが…。自分のことだろうと察してツッコミ入れちゃうあたり悲しい。
 「ごめん、レイ。」
 提案したトーマがしょぼんと俯いて謝った。
 「なんで謝るんだよ?俺だって出来るってっ!」
 レイはそう言うが、俺たちはこの間加工の授業にて彼の実力はわかっていた。壊滅的でなくとも不器用である彼の実力を……。
 
 「ま、まぁ、木彫りは置いといて、他にないかな?買いたいと思わせる魅力があって、仕入れ安めで数確保できるやつ。」
 俺が話題変えたことを、少し不服そうにしつつレイが言う。
 「先輩の話じゃ、去年売れゆきが良かったのはお菓子詰め合わせなんだと。色んな味あるから飽きないし。授業終わりとか寮で食べるのに良かったらしくて。」
 そこまで言ってから、ばつが悪そうに付け足す。
 「まぁ、それは最後の実技で資金多かった時のやつなんだけど。」

 詰め合わせじゃ材料費結構かかるもんな。当然だろう。
 だが、なるほど。お菓子か……。
 調理したものを販売するには、調理室で調理することと、ゲッテンバー先生に衛生管理や味を確認してもらうことが条件になっている。だが、それをクリアすれば調理室や調理器具は自由に使えた。
 材料費としても安価な部類ではある。

 「そうか!お菓子!!」
 ライラはハッとしてパチンと手を打った。皆の視線がライラに集まる。
 「クッキーよ!」
 ライラの提案に俺は眉をひそめる。
 「……クッキー?それは普通すぎない?」  
 学内でも色んなクッキーが販売されているので、わざわざ買いに来る人もいないんじゃ…。
 「売れるかなぁ?」
 首を傾げる俺に、ライラは目を見開いた。
 「何言ってんの?売れるわよ!フィル君のクッキーなら売れるわ!!」
 ……俺のクッキー?

 ライラの力強い言葉に、レイとトーマは顔を明るくした。
 「そうか!確かにフィルのクッキーうまかったもんな!」
 「うん、あれ食べたことないくらいにすごく美味しかった。」
 食べた時のことを思い出したのか、2人は幸せそうな顔になる。
 確かにレイもトーマも調理で作ったクッキー分けてあげたら、感動しながら食べてたっけ。

 「そ、そうかな?」
 俺の問いに2人は頷く。
 「うん。食感が違うんだよ。口当たりいいって言うかさ。俺が今まで食べてたザクザクボロボロしてたの何だったんだーって感じ。」
 「うん。フィルのはサクっとして、それでいて崩れにくいから食べやすいよね。」
 こっちじゃ粗めの砂糖で作ってるのが主流だから、俺が作ったタイプは珍しいらしい。しかし砂糖細かくしただけだなんだけど……。 

 調理室で他の班の人も見てたから知られてるだろうし。作ったって良いんだが、それだけが売りって言うのも何か心配。
 「ライラ、クッキーって、クッキーだけ?詰め合わせとかじゃなくて?」
 不安そうに言った俺に、ライラは頷く。
 「そりゃあ、詰め合わせにした方がいいけど。材料費足りないからクッキーだけで行くわ!」

 「えぇぇ。集客に…自信ないんだけど……。」 
 ライラは眉を下げる俺に向かってにっこりとほほ笑んだ。
 「大丈夫。調理で一緒だった女子たちのおかげで、結構女子寮では噂になってるのよ。フィル君のクッキー。」
 カイルはなるほどと頷いた。
 「それならば話題性があるかもしれませんよ。フィル様。」
 あー…うん。女子の口コミはかなり広まるからいけるかもしれないけど……。

 いきなりプレッシャーだな。
 実技の成功失敗が俺にかかってきてない?
 「せ、せめてクッキー何種類かで売り出させて下さい……。」
 せめて保険を…と俺はか細い声で言った。


※感想・お気に入り登録ありがとうございます。
 面白いと言うお言葉が原動力であります。
 今回商学やりましたが、実技はまた何話かはさんでやりたいと思います。
 
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