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第6章~転生王子は学校で

授業の前に

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 「シエナ先生、鉱石の授業はこの部屋でやるんでしょうか?」
 アリスの質問にシエナ先生は「ふむ。」と考えるように唸った。
 「お前たちだけだからな。わざわざ隣の教室を使うまでもないだろう。」
 確かにこの学校は教室が広い。6人の生徒で教室を使っては、ただスペースを持て余すだけだろう。
 それにこの部屋には、鉱石や鉱石関係の書籍などが溢れていた。教材に囲まれたこの環境は、講義を受けるのに最適とも言える。

 「お前たちもこの人数だ。授業と思わず座談会ぐらいに思え。」
 そう言って笑うと細いミントの葉巻を咥えた。
 座談会か……そうだな。初め人数の少なさに躊躇してしまったが、座談会程度の人数でむしろ良かったのかもしれない。
 知りたいことを質問したり、一緒に考えたりするのは普通の授業を受けるよりためになりそうだった。

 「わかりました。では次回この部屋に持参したいものがあるのですが…。」
 アリスの言葉にシエナ先生が首を傾げる。
 「何をだ?」
 「簡易的な椅子と文字を書きやすいよう画板を。よろしいですか?」
 あ、そうか。いつも床に座るわけにいかないもんな。メモを取りたくてもこちらの世界は羽根ペンだ。下手に書こうとすると紙が破けてしまう。

 葉巻を口から外すと、アリスをジッと見つめた。
 「いいだろう。お前……名は?」
 問われて、アリスは立ち上がりお辞儀をした。
 「アリス・カルターニです。」
 シエナ先生はにっこりと微笑んだ。
 「そうか。機転のいい子供は嫌いじゃない。よろしくな。」
 こういう笑顔は初めて見た。美人が微笑むと迫力あるな。
 「は、はい!」
 女の子のアリスでさえカァッと頬を赤らめている。
 
 するとそれを見ていたレイが勢いよく立ち上がった。
 「僕はレイ・クライスと申します。こんな美しい先生に教えていただけるなんて光栄ですっ!」
 レイはにっこり微笑むと、シエナ先生に向かって頭を下げる。それはまるで、女王様にかしずく従者のようなうやうやしさであった。
 ……演劇みたいに大げさな仕草だ。ミュージカルだったら、きっとすでに歌いだしてる。
 選択授業を決める時は一番渋っていたのに、美人とみてと手の平を返すとは……。
 思わず呆気に取られてしまう。
 ライラ見なよ。苦虫噛みつぶしたみたいな嫌悪感満載の顔してるぞ。

 だがレイはそんな外野の目は気にならないらしい。
 自分にも微笑んでくれないかと、期待に満ちた様子でシエナ先生を見つめる。
 シエナ先生はそんなレイを冷ややかな目つきで見下ろすと、鼻で笑った。
 「そうか、私はお前を好かない。」
 随分キッパリとおっしゃった!これは手厳しい。
 ピシャリと言われてさぞやガックリきているかとレイを見れば、自身をかき抱き体を震わせていた。
 どうした?持病のしゃくでも出たのか?持病があるのか知らないけど。

 するとレイは震えを抑えつつ叫んだ。
 「何だこの清々しいまでの拒絶っ!美人にされるとこんなにも破壊力がっ!」 
 おい、新しい扉開きそうになってるぞ。大丈夫か。
 皆がドン引きしてると、カイルがサッと立ち上がった。
 「正気に戻れ。」
 ぺしっ!と音を立ててレイの頭をはたく。
 「イッテー!」
 今度は頭を抱えてうずくまった。
 やり方は荒っぽいが、正気に戻ってくれたようだ。良かったなぁ、レイ。その扉を開くには危険すぎる。
 
 「そこの背の高いのは何て名前だ?」
 「カイル・グラバーです。」
 カイルはぺこりと頭を下げる。シエナ先生は考えるように顎に手を添えると、頭から足まで視線を往復させた。カイルはジロジロと見られて居心地悪そうだ。

 「あのぉ…カイルが何か?」
 俺が控えめに声をかけて、ようやくジロジロ見ていた自分に気付いたようだ。
 「ん?…あぁ、年齢のわりには鍛えられた身のこなしだと思ってな。」
 「それは何の確認なんでしょう?」
 少し眉を寄せたカイルに、シエナ先生は小さく笑った。
 「気分を害したか。鉱石を手に入れるためには森や山に行くこともあるからな。課外授業で役に立ちそうだと思ったまでだ。他意はない。」
 
 やはり6人でも課外授業はやるのか。人数が少ないからやらないかもと思ったが。
 「あの~課外授業は危険なんですか?…僕は剣術からきしなんですけど。」
 トーマが不安そうに手を上げる。
 「お前は?」
 「あ!トーマ・ボリスです!」
 慌てて立ち上がって、勢いよく頭を下げる。シエナ先生は思い出したように口を開いた。
 「あぁ、今年の首席か。確かにお前は戦力にはなりそうにないな。」
 正直に失礼なことを言う。

 トーマはしょんぼりとしながら、上目遣いで先生を見ている。シエナ先生は苦笑した。
 「あぁ、まぁ心配するな。今年の受講人数が少ないのは知らされていたからな。剣術と合同で課外授業を行えるよう手配してある。」 
 どうだ抜かりないだろうとばかりに葉巻を咥えて口角を上げる。
 「……はい。」
 小さく返事をして、そっとため息を吐いた。
 トーマとしては課外授業自体が不安なんだろうが…。
 まぁ、俺とカイルとライラは剣術も選択してるから、どうせ行くなら一石二鳥でちょうどいいんだけど。

 「あの先生。」
 今度はライラが手を上げて立ち上がった。
 「ライラ・トリスタンです。課外授業の採掘した鉱石で余分な物って、お安く買い取ることって可能ですか?」
 あ!そうか。俺てっきり全部貰えるものかと思ってた。しかし言われてみれば鉱石は売ればお金になるものな。貰ったらマズイのかな?
 新しいのゲットできると思ってたのに、貰えなかったらショック!

 「トリスタン…手広く商売している家だな。買い取って流通させるのか?一応授業で採掘したものだから、そういった場合は承認できないが……。」
 少し真面目な顔を見せるシエナ先生に、ライラは焦ったように首を振った。
 「あ、いえ違います。自分のが欲しくて。」
 するとシエナ先生は「なんだ…。」と息を吐く。
 「それであれば買い取る必要はない。自分が採掘した鉱石のいくつかは、研究材料として所有が認められている。それを他の授業である商学や加工に回しても大丈夫だ。」

 良かったーっ!!それに他の授業に使えるなら、更に助かる!加工に回したかったし。
 俺は小さくガッツポーズした。
 「それにしても……鉱石を買い取ってまで欲しいとは…。実家が商売をしているのだからいくらでも手に入るだろう。」
 シエナ先生は意外そうにライラを見つめ首を傾げる。

 ライラは少し言いづらそうな表情を見せると、チラリと俺を見て言った。 
 「確かにいろいろ販売してます。でも家にいた時は、あんまり……興味なくって。フィル君が鉱石を活用してたんで、私もだんだん興味でてきて。」
 調理の時に俺が鉱石使ってから、鉱石に関心を持ったみたいだったもんな。レイと同じで役に立たないと言う認識だったから、使ったことさえなかったそうだ。

 「フィル?」
 ライラの視線に導かれるように、シエナ先生の瞳が俺をとらえた。俺は立ち上がってお辞儀をする。
 「フィル・テイラです。」
 俺が名乗ると、シエナ先生はニヤリと微笑んだ。
 「お前がフィル・テイラか。調理の授業で鉱石を合わせて使ったらしいな。」
 
 「あ……はい。」
 頷くが、キョトンとしてしまう。
 何でそんなこと知ってるんだ?
 不思議に思ってるのが、わかったのだろう。理由を教えてくれた。
 「ゲッテンバーが火と風の鉱石の手に入れたいと言ってきてな。理由を聞いたらお前の名が出てきた。」

 なるほど。ゲッテンバー先生、クッキーのアイシング方法教えたから実践する気だな。
 アイシング見た時のゲッテンバー先生の興奮っぷりを思い出して、クッと笑いを堪える。
 可愛い可愛い言って、女の子たちより誰より目を輝かせてたもんな。
 
 その時ふと視線を感じて、目を向けギクリとした。
 何か知らないけど、シエナ先生が観察するようにジーッと見てるんですけどっ!
 何だ?思い出し笑いがまずかったか?

 焦る俺をシエナ先生はジッと見つめ、葉巻を一噛みする。
 「お前には聞きたいことがあったんだ……。」




 
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