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第7章~転生王子と寮改革

お風呂のために

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 「今日はいい天気だなぁ。いつもよりあったかい気がする。」
 鼻歌交じりに歩く俺の足取りはとても軽い。一緒に歩くコクヨウも心なしか跳ねるように歩いていた。
 久しぶりに部屋から出してあげたから、きっと嬉しいんだろう。今度ちゃんとした外出させてあげなきゃな。今日は部屋でお留守番している他の召喚獣たちも一緒に。

 どこがいいかなぁ。こっちはグレスハートと違って寒いから、日向ぼっこ向きじゃないんだよな。いくらホタルがいるからって、寒々しい風景見ながらじゃ気分のらないし。
 あ、だけどアリスやレイたちも一緒だったら、ピクニックしても良いかもしれない。
 皆が揃った時に言ってみようかなぁ。

 考えていたら楽しくなってきた。自然と笑みがこぼれる。
 【ご機嫌ですわね。】
 浮かれた様子の俺が可笑しいのか、笑いをこらえるようにヒスイが言う。
 浮かれてる自覚はあるので、照れ笑いをしてヒスイを見上げる。
 「まあね。お休みだからかな。なんかウキウキするよね。」

 今日は学校が始まってから2回目のお休みになる。
 こちらの世界も1週間は7日だ。古代の虹信仰である赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の『7色・・』から来ている。
 虹信仰では月曜にあたる赤が最も生命力に溢れ、だんだんと弱まっていくと考えられており。その力の弱まる後半の2日を休息日としている。
 他の宗教を信仰する今となっても、そのまま変わらず受け継がれているようだ。
 俺としてもサイクルが前世と変わらないので、とてもありがたい。
 
 「今週から選択科目が始まりましたから。先週より疲れたんじゃないですか?」
 カイルは心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
 先週は一般科目である語学と数学と社会学を1教科ずつやって、それ以外は校内の案内やカリキュラムの説明だけだった。
 だが今週から選択科目が始まり、授業時間が延びている。

 授業時間は一般科目は1教科1時間、選択科目は1教科2時間。
 一般がない日に、1日だけ選択が3教科ある日があるが、それ以外は2教科ずつ割り振られていた。
 単純に考えると一日授業がない人や、6時間も授業ある人が現れそうだが、選択人数や教科内容を考えてうまく時間割調整しているらしい。そう極端な受講状況になることもなく、生徒の1日の平均受講時間は3時間から4時間くらいだった。
 
 「午後までゆっくりしていても良かったんじゃ……。」
 眉を下げるカイルについ苦笑してしまう。
 カイルも結構俺に過保護だよね。アルフォンス兄さんほどじゃないけど…。
 がっつり5、6時間授業やってた日本の学校に比べたら、こっちの授業時間なんて楽なほうだ。
 確かに選択科目は授業時間が長いけど、作業やってる時間や話し合いの時間が多いのでまったく苦にならなかった。
 選択によっては次の授業まで2時間あく時もあるが、カフェに行ったり、昼寝したり、寮に戻っても良いので気楽なものだ。

 「平気、平気。それに今日はお風呂作る予定だからね。マクベアー先輩たち集まる前に準備しないと。」
 マクベアー先輩たち3年生には、午後に集合してもらうことになっている。と言うのも、午前中にクラブ活動をやっている人たちがいるからだ。クラブによって異なるのだが、平日の午後か、休日の午前に行うらしい。
 ちなみに1年は学校に慣れるまでは、所属クラブを決めなくてもいい。おかげでまだのんびりできる。

 「準備って何をするんですか?人気ひとけの無いところに来たようですが……。」
 キョロキョロと辺りを見回す。その眼差しは幾分かの緊張を持っていて、辺りに危険がないかを探っているようだった。
 【我ら以外にはいないようだぞ。】
 コクヨウに言われて、カイルは少し安心したようだった。
 カイルも気配を察する能力は強いが、能力でみたらコクヨウの方が上だ。
 
 「人が来ないところ選んだからね。」
 カイルを手招きしながら寮の建物の脇を抜け、どんどん奥へと入っていく。少しすると幾分か開けた場所に出た。寮の建物裏を背にすると、目の前には林が広がっている。
 薄暗く、林の前に広場があるだけで他に何もない。その為、滅多に人が来ることはなかった。
 「こんな所で何を準備するんです?」
 俺はその問いにすぐには答えず、広場の片隅に立っている木に向かった。
 その木の幹をポムと叩くと、カイルを振り返ってにっこりほほ笑む。
 「これをお風呂の材料にしようかと思って。」

 俺の言葉を聞いて、カイルは口を開けて7メートルあろうかという木を見上げる。木の幹は手を広げても届かないくらい太い。
 「………え、これを材料に?これは学校の所有ではないんですか?」
 戸惑うような声に、俺はゆっくりと首を左右に振る。
 「これ僕の木。」
 「……は?」
 カイルはさっぱりわからないと言う表情で目を瞬かせた。その様子が可笑しくて、俺とヒスイは顔を見合わせて笑う。
 「どういうことですか?」
 眉を下げるカイルの横をすり抜け、コクヨウが木を見上げた。
 【ふむ。精霊の力がめぐっているな。お前が植えたのか?】
 「そう。お風呂造りに木も欲しいなと思ってね。町でパドルーの苗木買ってきてここに植えたんだ。」
 パドルーはこちらの世界でよく使われる建材だ。成長が早く、加工がしやすい。檜の様な香りと、ヒバの様な耐久性も持っている。
 舟にも使われてるらしいから、お風呂作る木材に向いてるだろう。
 「学校帰りに水やりにきたり、堆肥あげたりしてたんだよ。」
 【それに加えて私が2週間かけて成長を促したんです。】
 カイルが呆気に取られたような表情でため息を吐く。
 「すごいことしますね。」

 普通はやらないだろうな。これは苦肉の策と言うやつだ。
 お風呂造りを計画した時に椅子や桶の木材も必要かと思ったのだが、学校側の予算があんまりなかった。いや、ケチではない。仕方ないと思う。
 学校側が許可したのはちょっと変わった新しい沐浴場。俺が考えているようなお風呂なんて見たことないんだから。
 しかも構想練ってるうちに、だんだん木のお風呂も欲しくなってきた。だから自分で木材を調達しようと思ったのだ。

 俺は木の幹に抱きついて、優しく撫でる。
 「立派に育ってくれてありがとう。大事に使うからね。」
 【この2週間フィルが大事に育ててくれましたからね。木の場合、朽ちはてない限り命を宿しています。フィルの役に立てると喜んでますわ。】
 ヒスイは微笑んで、俺の頭を撫でた。
 【では危ないですから、少し離れて下さい。】
 ヒスイは俺たちを下がらせると、蔦を木に絡ませた。土がゆっくり盛り上がり、根が顔を出す。木は蔦に支えられながら、徐々に斜めになっていった。
 地面に倒れるまで時間がかかったが、おかげで大きな音を立てることもなく木を横たわらせることができた。

 ヒスイが手を上げると蔦が消え、掘り起こされた跡も元に戻る。
 カイルはその様子を感嘆の表情で見つめると、横たわった木に近付く。木の幹に触れながら俺とヒスイを振り返った。
 「とても立派な木ですね。それにヒスイさんは相変わらずすごいです。」 
 【あら。これくらいなんでもありませんわ。】
 だが満更でもなさそうな様子で、口を押えながらフフフと笑う。 
 【フィル。この木を使うとしてどうするのだ?このまま運ぶには大きすぎると思うが。】
 倒れた木の幹に飛び乗りながら、コクヨウが首を傾げる。

 可愛い仕草だなぁ、もう!
 あまりの愛らしさにコクヨウに近付いて頭を撫で撫でする。
 「先輩方が集まる前に製材しちゃおうと思うんだ。鉱石で。」
 俺は撫でるのをやめると、風と火の鉱石を取り出して見せた。カイルは驚いたように目を見開く。
 「鉱石でそんなことまで可能なんですか?」

 「ん~ここまで大きいのはやったことないけどね。大工をする時たまにやってたんだよ。これは倒したばかりの木で生木だから、建材として使うには乾燥させないといけないんだ。ちょっと離れて。」
 カイルが一歩後ずさり、コクヨウが地面に降りる。
 俺は木を一撫ですると、鉱石を掲げて木に意識を集中させた。

 「乾そう。」
 
 徐々に乾燥させるため、鉱石を重ねがけしていく。
 茂っていた葉がハラハラと地面に落ち、木が収縮しているのか鈍い音が聞こえはじめた。その音が聴こえなくなったのを確認して、カイルを振り返る。
 「乾燥できたから、建材に加工する前に木の皮はがすの手伝ってくれる?」
 「はい。」
 手本としてカパリと木の皮を剥がしてみせる。パドルーはもともと皮を剥がしやすい木だが、収縮しているおかげかさらに剥がしやすくなったみたいだ。カイルと2人でもそんなに時間をかけることなく終わらせる事が出来た。
 つるりとした綺麗な幹が現れ、檜に似た木のいい匂いがする。
 よしこんなものかな。
 「じゃあ、今度は遠くに離れてくれる?」
 カイルとコクヨウが離れたのを確認すると、光の鉱石を出して掲げた。

 「光線!」
   
 木の枝と根っこが切り落とされる。丸太になった木をさらに切りわけ、角材や板にしていった。
 レーザー光線で切断したので、どうしても断面が薄茶色になる。だがその分表面におうとつがなくなるので、後々の表面仕上げを省くことができた。
 しかし、量が多いため切り分けるのは簡単だが、集中のいる作業が続く。終わったころにはちょっと息が上がってしまった。
 はーっと息をついて地面に腰を下ろす。
 「やっと終わった。」
 1人でこれだけ大きいの切り分けるとさすがに大変だな。 
 
 「お疲れ様でした。」
 カイルは労ってくれたが、コクヨウは呆れたように呟く。
 【相変わらず持久力が足りぬ。】
 うっ、人が気にしていることを……。
 俺は拗ねたように口を尖らせた。
 「鉱石使う時、頭も集中力も使うの!」
 イマジネーションちゃんとできないと失敗するんだぞ。
 
 「ほら!ここ見てよ。継手になってるんだよ。」
 俺は切り分けた木材を指差す。組み合わせて使う角材や板には、はめ込めば完成するよう処理をしておいた。
 「何ですかこれ。」
 首を傾げるカイルに、俺は立ち上がって胸を張る。
 「継手つぎて。お風呂は水場だからね。釘使うと錆びちゃうでしょ?だから木材同士で組むように作るんだ。」
 【異物を入れるよりは、確かにその方が丈夫だと思いますわ。】
 ヒスイのお墨付きにカイルは感心したように頷く。だが、コクヨウは再び呆れたように息を吐いた。
 【また変わったことをして……。】
 「え、そう?」
 組み合わせるとき便利だし、長持ちして丈夫ならいいと思うんだけどな。
 首を傾げて「うーん」と唸った。
 
 
 
 
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